うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『不死身のKGB』ゲヴォルキャン その1 ――秘密警察に支配された国


 エリツィン政権時代に書かれたKGBとその未来に関する本。

 著者はモスクワの新聞社「モスコーフスキエ・ノーヴォスチ」に所属するジャーナリストであり、ロシアが変わるとしてもKGBとその体質は残るだろうと予言する。

 特にソ連崩壊前後のKGBをめぐる動きについて詳しく検討しており、秘密政治警察との抑圧機能が、看板だけを変えてしっかりと保持されていく様子が明らかになる。

 

 ソ連崩壊からプーチン政権発足前までは、ソ連社会・行政システムが崩壊しかけていた時期だが、同時に、今では見られないような政治体制に対する内部告発も多かった。

 

 ◆メモ

KGBは自らの宣伝とは裏腹に、第一の機能は、体制維持のための国民の抑圧である。

・民主主義国家と秘密警察は本質的に相容れない。

ソ連崩壊後も、KGBの機構と人員はほぼ手付かずのまま残った。

チェコ、ドイツは秘密警察と決別し、新しい情報収集分析機関を作った。民主主義や自由の原則を損なうことなく、いかに情報機能を実現するかが重要である。

KGBもまた汚職、コネ、横領によって汚染された。

 

 

  ***

 1 国家の中の国家

 KGB将官オレグ・カルーギンは1990年、新聞社にKGBの内幕を暴露し、また変革を訴えたため退職させられた。

 

KGBペレストロイカの後も無傷で残った。

・いかなる政権をも覆せる担当範囲……政府通信網、対人警護、国境警備隊、対外情報活動、防諜、軍事防諜、調査機関、大半の技術業務機関、そのための独自の特殊な軍隊。

KGBは世界帝国主義と戦う、という古いイデオロギー固執する。

KGBは都合の悪い情報を握りつぶすこともできる。しかし、それは党も同様である。

 

 ――虚偽は体制そのものに備わっているのです。ですから諜報業務は政治の局面や、政治的圧力などから切り離され、それ自身として独立していなければならない、というのが私の持論です。

 

・盗聴は当たり前であり、違法でもない。

・アフガン侵攻時、KGB議長アンドロポフはブレジネフ、スースロフ、国防大臣ウスチノフらの意向を断り切れなかったが、かれ本人は政治的殺人(アフガンのアミン大統領暗殺)に反対だった。

KGBでも、コネと庇護によって質の悪い職員が送り込まれることがある。

 

 ――「毎日プラウダを読む国民は不滅だよ」……まずひとつに、いつも一方的な情報しか与えられず、自分を他と比較する可能性を奪われていれば、人間は考えることをやめてしまいます。

 

 KGBはその血塗られた歴史にも関わらず、宣伝活動により、華々しいプロフェッショナルとしてのイメージを確立してきた。

 1917年の「反革命サボタージュ取締全ロシア非常委員会」設置以来、レーニンは数々の凄惨な指令を発してきた。

 『赤色テロル』の著者ミルグノーフによれば毎年150万人がテロの犠牲となったという。

 

 ――この機関が信奉しているもの、それは無法、専横、流血という協力者である。

 ――「威嚇し、冷酷無残にふるまえ」「精力的に、かつ大衆に対し効果的にテロを実行せよ」「長々しいばかげた手続きや再質問は省略し、即銃殺せよ」(レーニンの行政文書)

 ――「……少なくとも100人の名の知れた富農、金持ち、寄生虫どもを絞首刑に処してください(一般大衆がよく見えるよう、かならず首を吊るすことです)」(レーニンの行政文書)

 

 革命はすべての法を棚上げし、チェーカーは自らが裁判所となり処刑に励んだ。

 ジダーノフは、チェーカーが野蛮かつ残忍であり、だれの監督も受けていないため、いずれ党派や個人の利益のために動くようになるだろう、と1918年に警告している。

 

 

  ***

 2 完全な監視下におかれた国家

 1918年にはチェーカーは数十名の職員とかばん1つ分の書類、引き出しに収まる予算しかなかった。

 

 新聞記者だった著者はソ連末期に、西側で普及した公開情報(亡命者がもたらしたもの)だけをもとに、KGBの概要を記事にすることにした。

 当時、職場である編集局には、KGBから出向してきた監視員がおり、机を並べていた。

 

・国内に40万以上の将校、20万の国境警備隊、広範な情報提供者

KGB監督官庁は存在しない。防衛・公安問題委員会は軍・KGB軍産複合体から成り、実際はKGBの言いなりである。

 

・組織:

 第1管理本部(PGU)……対外諜報(対外防諜、科学技術情報、非合法工作、情報処理、情報操作、計画分析管理、技術保安、分析・評価、ソ連邦領土での諜報工作)、学校、情報研究所、計算技術開発応用研究所

 第2管理本部(防諜)……大使館対策、観光客対策、学生対策、経済犯罪などの組織犯罪対策

 第3管理本部……軍および内務省での防諜、各機関監視(国防省参謀本部、GRU、陸海空軍、内務省部隊、核兵器部隊)

 第4管理局……運輸、交通安全、郵便電話監視

 憲法擁護管理局……イデオロギー管理(宗教、文化、スポーツ、ストライキ民族主義シオニズム

 第6管理局……産業研究施設の防諜

 諜報技術開発局(OTU)……技術開発

 第7管理局……監視業務

 第8管理局……最重要部局。技術器具、暗号開発と保全、外国諜報機関の監視と暗号解読

 対人保護局……身辺警護

 第10管理局……文書保管

 第11管理局……他の社会主義国諜報機関との調整

 第12管理局……電話、住宅、事務所での会話盗聴

 第15管理局……地下壕管理局。この地下壕はフセインの地下壕より設備が古いと笑われていた。

 第16管理局……無線通信監視と暗号解読

 他、国境警備隊管理本部、捜査管理局、政府通信網管理局など。

 特殊教育施設……KGB大学、一年制ないし二年制の学校

 

 ――「まあ菓子工場や玩具製造工場などはともかく、我々はあらゆるところで目を光らせていますよ」

  ***

 

 [つづく]

 

不死身のKGB

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  • 作者: ナターリヤゲヴォルキャン,Natalija Geworkjan,森田明
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