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『インテリジェンスの基礎理論』小林良樹 その1

 安全保障政策に直結するインテリジェンスについて体系的に学ぶことを目的とする本。

 書名のとおり、基礎事項が網羅されている。個別の事例や、歴史的な変遷については最低限の記述である。

 

 ◆所見

 インテリジェンスのプロセス、すなわち情報収集と分析は、国家安全保障だけでなく、人間が生活する上で必ず必要となる活動である。

 個人が適切なインテリジェンス活動によって自分の生活を進めるように、国家についても、主権者が正しい判断をできるような体制を、「自分たちで」整備しなければならない。

 主権者が正しくコントロールしなければ、同盟国から都合のよい情報を垂れ流されるだけの状態に陥ったり、または特定勢力の権益のために使われたり、国民を抑圧するために使われたりといった結果になる。

 

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 1 基礎理論

 ――インテリジェンスとは、「政策決定者が国家安全保障上の問題に関して判断を行うために政策決定者に提供される、情報から分析・加工された知識のプロダクト、あるいはそうしたプロダクトを生産するプロセス」のことを言う。

 

 インテリジェンスにはプロダクト、プロセス、組織とに分かれる。

 インテリジェンス機関の集合体をインテリジェンス・コミュニティ(IC)という。

 

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 インテリジェンスは国家安全保障に係る政策決定を支援するものである。あくまで、政策の要望に従属するものでなければならず、情報機関が暴走するようなことは否定される。

 インテリジェンスはインフォメーションを加工・分析したものである。

 インテリジェンス部門は、インテリジェンスの提供に関してのみ責任を負い、完全な情報解明や、政策決定とその結果に対しては責任を負わない。

 Need to Knowの原則と、Third Party Ruleの原則(他国から得た情報を無断提供しないこと)。

 

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 インテリジェンス活動の対象は、国家的事項、軍事的事項のみならず、外交、環境、政治等、主体についてはテロ組織や犯罪組織、ハッカー等にまで拡大している。

 警察・捜査機関とインテリジェンスの関係は一様ではない。

 英仏独等は、警察とは別に国内インテリジェンス機関が存在するが、日本では警察、米国ではFBIが、捜査機関でありかつインテリジェンス・コミュニティの構成員に含まれる。

 

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 インテリジェンスサイクルはインテリジェンスのプロセスを示すものであり、いくつかの定義がある。本書では次の項目に分けて論じられる。

・要求の決定

・素材情報収集

・素材情報加工

・分析と生産

・報告の伝達

・消費

・フィードバック

 分析と生産とは、具体的には分析報告書、口頭ブリーフィング等の形態をとる。

 伝達と消費に関しては、「何を、だれに、いつ、どの程度、どのように」報告するかがかぎとなる。

 

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 日米のインテリジェンスコミュニティについて……

・日本:内閣情報調査室、外務省、警察庁防衛省公安調査庁。政策決定機関は、国家安全保障会議とその事務局、内閣情報会議である。

・米国:国家情報長官室、CIA、DIA、FBI、国家地球空間情報局、国家偵察局、NSA、DEA(薬物取締局)、エネルギー省、国土安全保障省国務省財務省、各軍

 特徴……大規模かつ官僚主義的、縄張り意識。

 失敗例……真珠湾攻撃朝鮮戦争、ピッグス湾事件、イラン・コントラ事件、9.11、イラク戦争

 

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 インフォメーションについて……OSINT、HUMINT、GEOINT、SIGINT

 各情報収集手法の短所

・OSINT……情報量が膨大であり、反響効果がある

・HUMINT……生命のリスク、情報源設置に時間がかかる、欺瞞工作の危険

・SIGINT……開発・運用のコスト、暗号化、欺瞞工作

・GEOINT……開発・運用のコスト、非国家主体への有効性が低い

 

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 インテリジェンス・プロダクトは、以下の要件を満たさなければならない。

・客観性

・時機

・政策決定者の注文に沿うもの

・政策決定者に理解しやすいもの

・事実と推測、結論がそれぞれ明確であること

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[つづく]

 

インテリジェンスの基礎理論

インテリジェンスの基礎理論