アメリカの国立公文書館史料を基に、アメリカが日本の戦後体制にいかに影響を与えてきたかを検討する。
◆メモ
占領から一貫してアメリカが日本政治に影響を与えてきたことを検討する本。
日本の有力者たちは、金や自己利益のためにCIAのスパイ、工作員になった、というのではない。それぞれ、再軍備・反共を目指すアメリカと、再軍備・憲法改正・反共を目指す日本人側の思惑があり、協力関係がつくられたようである。
ただし、事実と憶測の部分は明確に区分けしなければならない。陰謀論でよく使われるような組織や用語が散見されるため、特に注意を要する。
***
――アメリカでは国民の税金を使う国家機関は、あらゆる記録を保存することになっている。納税者に対する説明責任を果たすためだ。そして、納税者にとっては、権力を監視するために必要不可欠なものだからだ。
本書において日本に介入するジャパン・ロビーは、正式にはアメリカ対日協議会といい、次のようなメンバーからなる。
・キャッスル元駐日米大使
・ジョゼフ・グルー元駐日米大使
・ドゥーマン元駐日米大使館参事
・フーヴァー元大統領
・ウィリアム・ノウランド上院議員
・アレグザンダー・スミス上院議員
・カウフマン弁護士
・コンプトン・パッケナム
・ハリー・カーン
・『ニューズウィーク』記者
・ロバート・アイケルバーガー陸軍中将
・ウィリアム・ヴィシー・プラット海軍大将
1
CIA文書とは2002年から2005年にかけてCIAが放出したファイルで、CIAや各機関の公文書を、人物やテーマごとに編纂したものである。
・CIA文書に載っているということは、CIAが戦犯として取り調べたか、容疑者または協力者として関心を持ち続けたことを示す。
・CIA文書には、アメリカの情報機関や、アメリカの国益に関する事項は一切公開されない。
――岸ファイルには、……残っているはずのほかの文書や記録を一切公開していないのは、彼が非公然にアメリカのために果たした役割が極めて大きく、かつ、公開した場合、現代の日本の政治に与える影響が大きいからだろう。
――たとえば岸信介は、日本の一部メディアからCIAのエージェントと決めつけられているが、事実は、そんな単純なものではない。アメリカ側が彼を支援したのは、彼が折り紙つきの反共主義者で、再軍備の必要性を認め、そのために憲法を改正することに熱心で、これらを実現する力を持っていたからだ。
・実際の協力者は大蔵省、外務省の高級官僚が多く、また情報提供者はマスコミ幹部に多い。
2
戦犯として懲役刑に服した後、改進党総裁となった重光葵を中心に、CIA文書からアメリカの対日政策を分析する。
ジャパン・ロビーはアメリカにいる対日政策圧力団体であり、共和党と結びつきの強い、元政治家や外交官、ジャーナリストからなる。
――かれらは吉田から佐藤栄作まで(鳩山と石橋は除く)の歴代総理大臣のキングメーカー的存在となった。
・吉田茂は再軍備と憲法改正に消極的であるため、ジャパン・ロビーの気に入らなかった。
・鳩山一郎は再軍備と憲法改正に熱心だったが、児玉与志夫と関係があり、ダーティな政治家として嫌われていた。同じ主張を唱える重光を、アメリカ側は次の総理大臣にしようと考えた。
・重光は児玉与志夫の恩人であり、鳩山と同じように資金提供を受けた。また、CIAからは軍部の走狗とみられており、軍関係者が担ぎ出すのに都合のよい人物だと評価されていた。
・重光を含む当時の大物政治家たちは、保全経済会疑獄に関わっていた。
――つまり、CIAと国務省は、重光や鳩山ばかりか、同じく保全経済会疑獄で名前が出ていた池田や佐藤などに関しても、彼らの政治生命に関わる情報を握っていたということだ。……これを彼らの協力者である日本のメディア関係者に流せば、いつでも彼らを失脚させることができる。これによって日本の政治をコントロールできるといっても過言ではない。日本の大物政治家が態度を180度変えることがよくあるが、それはこのような弱みに付け込まれたせいかもしれない。
以下、保守合同や日ソ国交回復交渉に対するアメリカの介入、無能で傲慢な重光への非難が続く。
3
マッカーサー率いるGHQの政策に対して、ジャパン・ロビーは逆コース、再軍備の方針をもって介入した。
野村吉三郎は太平洋戦争開戦時の対米交渉大使で、元海軍軍人だが、特にジャパン・ロビーに知己が多かった。ロビーは、野村を通じて日本の情報を入手し、また人脈を広げていった。
野村は米側から、人間的に信頼されており、本人も海軍再建という悲願のためにアメリカの支援を仰いだ。再軍備に消極的な吉田茂を抑え込み、海上自衛隊の創設に尽力した。
宇垣機関:CIA文書に登場する。宇垣一成以下野村吉三郎、辻政信らによるインテリジェンス機関で、アメリカへの情報協力を行った。
4
日本テレビ放送網建設とCIAの関係について。
正力松太郎は日本テレビ社長となったが、日本と朝鮮を覆う放送通信網建設のために、野村を通じてアメリカから援助を得ようとした。テレビ放送網は、レーダー情報、航空管制にも転用できるため、実際には軍事通信網だった。このため、再軍備を方針とする野村も賛同した。
――……日本再建委員会が発足した。これは憲法を改正し、軍備を整えることによって、自立自衛の日本を再建するというものだが、メンバーには岸信介、重光葵、渋沢敬三などの大物政治家や財界人に混じって野村と正力の名前もあった。
――ジャパン・ロビーの多くは、大企業と強い関係があり、かつ共和党支持者だった。日本に戦争責任を取らせるとか、民主化するということよりも、共産主義に対する防波堤とし、アメリカ企業のためのマーケットとすることに心を砕いていた。
この作戦はPODALTONと名付けられた。しかし、正力=日本テレビの利己心と政治的野心があらわになると、野村とアメリカは、吉田茂=電電公社側についた。
――アメリカ側と野村たちにとって大切なことは、このマイクロ波通信網を建設するのが日本テレビか電電公社か、借款をだすかださないか、ではなかった。一刻も早く、このマイクロ波通信網を建設することだったのだ。
5
キャノン機関とは、G2直轄の工作機関であり、多数の日本人工作員を従え情報収集と反共工作活動を行った。
キャノン機関の指揮官であるジャック・キャノンと吉田茂、緒方竹虎が、総理直轄の情報機関である内閣官房調査室(いまの内閣情報調査室)設立に関わっていたという話について。
情報機関は、国家戦略の中枢頭脳の役割を果たす。戦争指導の上でも、情報機関は不可欠とされる。
吉田は、内閣情報局総裁だった緒方を、新たな情報機関の長に据えようとしたが、マスコミ、社会党から批判された。
やがて、緒方竹虎は保守合同のためにCIAに情報を提供し、見返りに資金援助を受けようと運動した。
ただし、保守合同の際にCIAが資金援助をしたという客観的な証拠は見つかっていない。