うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『Fear』Bob Woodward その1 ――民主主義の実験

 ボブ・ウッドワードによるトランプ政権の調査報告。

 アメリカで売れているということで読んだ。

 

 

 ◆感想

 本書で描かれるトランプの振る舞いは無能な君主であり、側近たちはそれに振り回される役人である。

・報告を聞かない、読まない、理解しようとしない

・毎日6時間以上テレビを観て過ごす

・経済や貿易、安全保障に関する知識の欠如

・支離滅裂な言動

人間性の欠如(部下の扱い、言葉)

 

 民主主義であってもこのような指導者が出現することはあり得る。

 無能君主の横暴を抑制しているのは、権力分立のシステムである。

 

 ウッドワードは自身の政治的姿勢を明確に述べず、淡々と事実や聞き取りを並べていくが、本書のトランプ像は非常に批判的である。

 トランプ大統領の言動で唯一わたしが同意するのは、アフガン戦争、イラク戦争の否定、アフガン駐留に対する否定である。軍の主張するアフガン増派も、出口のない戦略である。

 

  ***

 序章

 2017.9

 KORUS(U.S.-Korea Free Trade Agreement, KORUS FTA(米韓FTA))破棄の危機:

 不安定で支離滅裂なトランプは、この協定を破棄したがっていた。しかし、韓国との関係を毀損することは、北朝鮮ミサイルに関する情報探知能力を著しく低下させることにつながるため、コーン大統領補佐官マティス国防長官はこれを阻止するか、トランプが忘れるまで引き延ばそうと苦労した。

 娘婿クシュナーはトランプに最も近い人物であり、トランプのために協定破棄の草稿を準備していた。

 ホワイトハウスのスタッフは、トランプの危険な気まぐれをブロックしなければならなかった。

 

 ――世界最強国の行政は神経衰弱に陥った。

 

 

 1
 2010年、大統領選立候補に向けて、トランプはオルトライトのバノンと会談した。


 2

 トランプは資産家マーサーの指示に従いバノンを選挙アドバイザーに雇う。

 2016年、トランプは共和党候補として活動を始めたが、プリーバスら党の運営者はかれの言動に頭を悩ませた(メキシコ人を「レイプ魔」呼ばわり等)。

 トランプ、バノン、ロジャー・エイルズ(FOX経営者)らの選挙戦対策について。

 トランプは大メディア、とくにニューヨークタイムスを敵視し攻撃したが、妙なことに、その記事の内容についてはほとんど信じていた。

 

 ――この国のエリートたちは衰退を扱うのが心地いいんだ。……そしてこの国の労働者は違う。かれらはアメリカを再び偉大にしたい。このキャンペーンを単純化しよう。彼女(ヒラリー)は腐った無能なエリートの現状を擁護しており、そいつらは衰退するままにしておくのが心地いいやつらだ。あなたはアメリカを再び偉大にしたい人間の代弁者だ。

 

 バノンのテーマ……不法移民を遮断し移民を制限する、製造業をアメリカに戻す、無意味な海外戦争を停止する。

 

 3

 ヒラリーとの戦いに際して、NRC(共和党国家委員会)のラインス・プリーバスらは、ビッグデータを活用し投票行動を分析した。かれらは投票者のあらゆる個人情報を分析したが、この戦略はオバマ民主党から学んだものだった。

 アドバイザーのケリーアンコンウェイは「隠れトランプ支持者」なる語を作り、こうした隠れ支持者の票を得ることでヒラリーに勝てると主張した。

 

 4

 ロシアのハッカーが各州の投票システムに侵入を繰り返していることは、2015年夏には明らかになっていた。また、2016年7月、ウィキリークスは、ロシア・ハッカー民主党サーバから盗んだデータを公開した。オバマは一連の事実を公表すべきかどうか迷っていた。選挙に干渉しているようにとられかねないからである。

 クラッパー国家情報長官はFSB長官ヴォルトニコフにこの事実を告げたがヴォルトニコフは否定した。

 CIAがロシアの干渉を報道すると同時に、トランプの性的暴言スキャンダルが報じられ話題はこちらに移った。

 

 スキャンダルに関するABCのインタビューにおいて、トランプは謝罪原稿を読まされた。かれは側近ら(ジュリアーニ元NY市長、クリスティ・ニュージャージー州知事ら)を振り回した。プリ―バスらはトランプに対し、大統領選を降りるよう忠告したがトランプは自分は決して辞退しないとツイッターでつぶやいた。

 

 5

 トランプは反撃として、クリントン元大統領の性暴力の被害にあった4人を連れてきてインタビューに同席させた。

 トランプは世論調査の予想を覆し勝利した。ウッドワードを含むメディアの多数は驚いたが、トランプ自身も自分が勝つとは全く思っておらず、政権以降の準備もしていなかった。

 バノンは主席戦略官、プリ―バスは大統領首席補佐官と、それぞれ政権の柱として作業を始めた。

 

 6

 国防長官に指名された海兵隊大将マティスは非常に謙虚な人物であり、また好戦主義者ではなかった。

 オバマ政権下では2010年から13年まで中央軍司令官を務めたが、かれは対イランに傾注していた。海兵隊兵舎爆破テロ事件(220名が死亡)以来、海兵隊にとってイランは宿敵に等しかった。このときはオバマ政権の方針と相容れずマティスは更迭された。

 また、トランプは国務長官としてエクソンExxonのCEOレックス・ティラーソンを指名した。

 

 7

・ムニューチン財務長官

・ゴールドマンサックス社長のゲイリー・コーンは民主党員であり、自由貿易と移民推進、財政赤字解消、法人減税をトランプにアドバイスした。トランプには財政学の基本的知識が欠如していたが、かれはコーンを気に入り、どんな役職に就きたいかと提案した(国家情報長官や国防長官含めて)。コーンは経済会議委員長に内定した。

・マイケル・フリンはオバマ時代にDIA長官だったが不祥事処理で退任した。オバマは、フリンを使うなとトランプに忠告したがトランプはかれをアドバイザーとしてそばに置いていた。フリンはロシア軍事に関するエキスパートだった。

 

 8

 オバマは退任直前、ロシアの大統領選介入に関するレポートを情報機関に作成させた。クラッパー長官以下各機関の長らは、このレポートをどうやってトランプに説明しようかと悩んでいた。トランプはブリーフィングを聞いて、怒り、情報機関をツイッターで罵倒した。

 

FBIにはフーヴァー長官による不正、CIAにはイラク大量破壊兵器の偽情報という負の歴史があった。

FBIや英国の元MI6職員が手に入れた新情報は、トランプがモスクワのホテルで売春婦たちに排尿させている証拠をロシアが握っているといものだった。

・ウッドワードは、確証のないトランプ・スキャンダルを「ゴミ」と批判した。このスキャンダル以降、FBI・コミー長官と、トランプとの抗争が始まった。

 

 9

・軍や遺族と関わったことのないトランプには、遺族(Gold Star Family)への弔問業務は非常な負担となった。

・トランプのNATO攻撃:アメリカがなぜNATOに金を払うのか、と文句を訴えたがマティスやダンフォード統合参謀本部議長に必要性を説得された。トランプは、加盟国のほとんどが目標額を支出していないことを非難し、「アメリカの納税者に対し不公平である」と言った。

 

 10

 2017年2月、ワシントンポストはマイケル・フリン国家安全保障問題担当大統領補佐官に関する疑惑を報道した。フリンが、駐米ロシア大使キスリャクと経済制裁について話し、さらにその事実をFBIに対し否定したというもので、原稿を見たプリーバスらはフリンの解任を決めた。

 その直後、トランプの選対チームとロシア情報機関とのつながりに関する報道があった。プリーバスはFBIに対し報道を否定するよう要請したがFBIはできないと回答したため、ロシアゲート問題が始まった。

 

 11

 フリンの後任候補であるマクマスターは、ペトレイアスがイラク戦争を指揮していた時代のブレインだった。しかしかれは喋りすぎたためトランプからの第一印象は悪かった。

 

 ――(バノンのアドバイス……)トランプに講義をするな。かれは教授が嫌いだ。かれは知識人が嫌いだ。トランプは決して授業に出なかった男だ。かれは決してシラバスを持たなかった。決してノートを取らなかった。決して講義に出席しなかった。…それで充分だ。かれは大富豪(ビリオネア)になるのだから。

 

 その他、ジョン・ボルトン、Robert Caslen中将が候補に挙がりトランプと面会した。

 

 12

 北朝鮮問題について。

 オバマ時代のスペシャル・アクセス・プログラム……秘密の軍事・インテリジェンス作戦は、サイバー攻撃北朝鮮ミサイル情報の検知を目的としていた。

 情報レポートによれば、核兵器開発に関して、金正恩は父親よりもはるかに利口だった。かれは失敗した科学者を銃殺せず、教訓を収集させ、改善させた。

 2016年9月の核実験を受けて、オバマは情報機関と国防総省に対し、北朝鮮核施設攻撃の成功可能性を調査させた。結果、たとえ地上軍の全面侵攻をもってしても、核兵器による報復は避けられないことが確実だと判明した。

 

・クラッパー長官は妥協の道を探ったが、オバマ核廃絶主義者として、北朝鮮保有国入りを決して認めなかった。

金正恩が何を考えているのか、アメリカ側には全く読み取れなかった。

サイバー攻撃をするには、中国にある北朝鮮のサーバに侵入しなければならないが、これは中国とのサイバー戦争を意味した。

・ある情報職員は、オバマ政権は北朝鮮問題から目を背け隠し続けてきたと指摘する。

 

 13

 北朝鮮対策について、トランプはマケイン(かれを嫌っていた)に助言を求めた。

 韓国のTHAADは、土地は無償貸与だが建設費は米国が負担している。トランプは文句を言ったが、マクマスターらは、サードは米国の役に立つため運用も在韓米軍が行うのだと説得した。

 

 [つづく]

 

Fear: Trump in the White House

Fear: Trump in the White House

  • 作者:Woodward, Bob
  • 発売日: 2018/09/11
  • メディア: ハードカバー