「オバマの戦争」であるアフガン戦争に関する、大統領とその側近、NSC、軍の意思決定をたどる本。
袋小路に陥っていくアフガンの状況と、オバマと軍との対立が明らかにされる。
ブッシュの戦争であるイラク戦争が一段落し、オバマ陣営はアフガンの状況悪化が最重要課題と考えた。
アフガン戦争には、インドと対立するパキスタンが深く関わっており、米国がどのようにアフガン戦争を取り扱うかが問題にされた。
◆所見
・オバマの結言は、「何年続こうとも米軍はアフガンに残りタリバンを弱体化させるだろう」というもので、その予言どおり、いつまでも戦況は変わらず、年数ばかりが経過している。
・軍は大量の人員投入によるCOIN(対反乱)戦略を常に推奨している。しかし、予算や、国民の支持(支持率)の観点から大統領には受け入れられない。
・アフガン戦争は失敗し、さらに終息したかにみえたイラクは間もなく不安定化した。シリアについても見通しが立たない状況である。
アメリカは2001年から15年以上、大中東に軍を派遣し続けているが、その結果得たものは何だろうか。
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2008年秋、オバマは次期大統領となり、ホワイトハウスのスタッフを集める。
次期大統領は、ブッシュとそのスタッフから引き継ぎを受け、続いて自分たちのスタッフを指名した。
オバマ政権の課題:
・イエメンのアルカイダ(AQAP)
・イランと北朝鮮
・中国のサイバー攻撃
オバマ政権の人物たち:
ペトレイアス大将……イラク駐留米軍司令官としての功績を受けて、中央軍司令官に任命される。仕事中毒、カリスマ、エンタープライズ号、イラク統治
ロバート・ゲイツ国防長官の認識……軍の高官たちは、2つの現在進行形の戦争を無視し、未来の装備とシステムにばかり時間と金を割いている。
ヒラリー・クリントン……かつての政敵だが、民主党員の支持を集めるために、オバマは彼女を国務長官に指名した。
ジェイムズ・ジョーンズ退役海兵隊大将……安全保障補佐官。イラク戦争はうまくいっているが、アフガン戦争は戦略もなく、失敗中である。
ダグラス・ルート……イラクとアフガニスタン安全保障補佐官補佐。「戦争皇帝War Czar」イラクから兵を引き、アフガンに投入するしかないと主張。
マイケル・マレン……統合参謀本部議長、実働部隊を持たない。
マイケル・ヘイデン……CIAの秘密作戦の重要性を主張する。秘密作戦は諸刃の剣であり、やりすぎると政権自体が崩壊する(ニクソン)。尋問プログラムの改善。
ムンバイ同時多発テロ事件……印パ戦争の回避が目標となる。実行犯のラシュカレトイバは、パキスタン総合情報庁の支援を受けていたことが判明した。
ヘイデンに代わり、オバマはレオン・パネッタをCIA長官に任命した。
マイク・マコンネル……国家情報長官。オバマはデニス・ブレア(海軍)を後任に指名する。
オバマの側近……ラーム・エマニュエル、デヴィッド・アクセルロッド、ロバート・ギブズ。かれらの重視事項は支持率と再選であり、アフガン派兵をめぐって軍と意見対立した。
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アフガニスタン紛争の問題……
・米のパートナーであるカルザイ政権はカーブル市長でしかなく、またその兄弟ワリ・カルザリは、カンダハルを統治する一方、汚職を蔓延させ、アヘン貿易を行っていた。
・タリバンに対し、パキスタン総合情報庁(ISI)が支援を行っている。また、アフガンではアラブ人は皆無である。つまり、アルカイダの根拠地はパキスタンにつくられている。
・米軍の誰も、戦争の目的を知らず、だれと戦っているのかも知らない。
・対テロ(Counterterrorism)……要人暗殺やピンポイント爆撃は効果を上げているが、それは戦略には影響しない。地上での作戦と対反乱作戦(Counterinsurgency, COIN)が、アフガンの安定には不可欠である。
オバマは就任直後に、ジェイムズ・ジョーンズとその相方であるブルース・リデルや閣僚・スタッフの助言を受け、アフガンへの17000人の増派を決定した。
――……子供たちの一部は帰ってこないこと、または帰ってきたとしても重傷を負ってくるだろうことを覚悟して、それでも増派する価値があると考え、大統領は増派を決断した。
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オバマの戦争とはアフガン戦争である。著者は、「これはあなたの戦争だ」とインタビューで問いかけている。
アフガンへの追加派兵は、戦略の観点のみから検討されたわけではなかった。17000人と追加4000人の派兵は、軍が必要と見積もった数よりも少なかった。
政治家たちは戦争を政争や選挙に利用する。ジョンソンは選挙に勝つためにベトナムの戦略をゆがめた。
軍人たちは、政治家に対し警戒感を抱いていた。
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最初の追加派兵後、マクリスタル・アフガン駐留米軍司令官は極秘の報告書を大統領に提出した。
ペンタゴン……ゲーツ国防長官、マレン統合参謀本部議長、ペトレイアス中央軍司令官、そしてマクリスタルらは、アフガン戦争が失敗しつつあることを認識し、増派を主張した。
・カルザイとその政府は腐敗しており、正統性を持っていない。
・大統領選での不正
・タリバンの勢力は2001年からほとんど変わっていない
・NATOの参加は国際プロジェクトの体裁を保っているだけであり、米軍指揮官たちはかれらに、邪魔だから立ち去ってほしいと考えている。
・軍は基地にこもってほとんど現地人と接触がない。つまり、COIN戦略に必要なインテリジェンスが全く入手できない状況にある。
・アフガン軍は力不足で、訓練と支援が不可欠である。
・パキスタンは、インドに融和的なカルザイ政権を認めていない。よって、パキスタンが自国に潜伏するアルカイダを積極的に制圧することは絶対にない。
一方、大統領の側近たちは、大統領の意思決定より前に、軍人たちがマスメディアに対しその政策を主張しているということで憤った。
オバマは、派兵をめぐって軍と対立した。
オバマやNSCのメンバーは、そもそもアフガン戦争の目的や、敵の定義(タリバンが目標なのか、アルカイダが目標なのか)、戦力投入のバランス(アフガンを制圧すべきか、パキスタンを制圧すべきか)が曖昧であることを問題視した。
「われわれはアメリカの利益(interest)が何かをもう一度考え直すべきだ」とオバマは言った。
[つづく]
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