うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『韓国の軍隊』尹 載善(ユン・ジェソン) その2

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・ROTC(Reserve Officer Training Corps)

 ROTC(予備役将校訓練課程)はアメリカにならって作られた制度であり、士官学校出身者の約7倍にあたる大卒将校が軍を担っている。かれらは2年の義務服務を終えると軍に残るかまたは社会に戻り活躍する。

 ROTC学生は、大学3年から4年にかけて、校内で座学教育を受け、長期休暇中に訓練を受ける。

 ROTC出身者の将軍は多く、また社会においても、出身者が各界で大きな勢力を形成している。

・郷土予備軍

 地域ごとに予備軍が編成され、特別職公務員の予備軍指揮官が指揮をとる。除隊者の再就職が問題となっているが、予備軍指揮官はその受け皿としての役割も果たしている。

 

・軍政と軍令

 軍政は人事・軍需分野を、軍令は用兵作戦を司る。ドイツや日本帝国の兵政分離主義ではなく、韓国では兵政統合主義を採用している。

憲法により、武力による南北統一は否定されている。

 

・編制

 国防部―合同参謀本部―陸海空参謀本部

 

・国家保安法について

 反国家活動を規制する法であり、民主主義と基本的人権に根本から抵触する内容であるため、常に論争の火種となってきた。

 韓国人が意図的に北朝鮮関係者に会った場合は逮捕される。

 日本の治安維持法を母体としており、軍事政権時代には、反共イデオロギーとともに国民抑圧の道具として用いられた。

 北朝鮮を褒めたり・同調したりする発言(賞賛・鼓舞・同調)が摘発された例があり、「表現の自由」と「思想の自由」を侵犯するものである。

 ――国民の自由と基本権を抑圧するこの法律が、民主国家である韓国で廃止できないのは、いまも韓国を覆っている軍事的な脅威のためなのである。

 

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 兵営生活では「一人一宗教運動」として、情緒涵養のために宗教活動が奨励されている。

 食事には必ずキムチがつく。

 教育後、前方(国境地帯)に配属された兵隊の体験談。

 ――人生のうちでつらいときには、私は軍隊時代を思い起こす。……よく韓国人は強いといわれる。強いというよりは、タフだというのがあたっているだろう。私は、このような強靭さはおそらく軍隊で培われたものではないかと思う。

 階級が上がるにつれ居心地がよくなるため、除隊間近になると不安を覚えるという。

 

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 第2次世界大戦後、日本軍の武装解除のために駐留していた米軍は、1949年には国連に権限を委譲し撤退しようとしていた。

 1950年、国務長官アチソンは、朝鮮半島を米国の勢力圏ではないと宣言した。この宣言に影響を受けてか、間もなく金日成ソ連と中国の了解を得て韓国に侵攻した。

 朝鮮戦争以後、太平洋軍に所属する在韓米軍が駐留を続けている。

 韓米相互防衛条約に基づき、朝鮮半島有事の際は米国が即時介入できる。条約は、韓米駐屯軍指揮協定(SOFA)の基盤となっており、また韓米安全保障協議会議(SCM)、韓米軍事委員会(MCM)、韓米連合軍司令部(CFC)等を規定する。

 平時は韓国が韓国軍を指揮統制し、戦時には、CFCは司令官にアメリカ軍、副司令官に韓国軍の大将を配置し、連合参謀部および隷下軍司令部には韓米将校を同率で配置することになっている。

 問題点……

・平時と戦時で作戦統制権が異なる(戦時はアメリカ合同参謀本部議長)。

・連合軍司令部司令官は、韓米連合軍司令官、在韓国連軍司令官、在韓米軍司令官および在韓米軍選任将校を兼務している。

 ベトナム派兵は、朴正煕政権の正統化に用いられた。

 70年代以降、朴正煕政権やそれに続く全斗煥政権が市民への抑圧を強めるにつれて、軍事政権と軍への不信感が強まった。

 同時に、そうした軍事政権を支えてきた在韓米軍にも見直しの議論が起こった。

 

 ――……保守的な国民は朝鮮戦争以降、韓国におけるアメリカ軍の役割について軍事的・経済的に非常に肯定的な評価をしている。一方、進歩的な国民はアメリカが韓国の経済発展にある程度寄与したことは認めつつも、軍事独裁権威主義的な過去の政府に対して過度に寛大であったと否定的に評価している。国家安全保障と経済を担保として民主化が遅延され、その結果、朝鮮半島での分断が固定化されたという主張である。

 

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板門店や、北朝鮮の侵攻トンネル、シルミド(実尾島)等は観光地になった。

・軍政後の地方自治の基盤づくりに、日本の例を適用できないかと著者は検討してきた。

・徴兵制は、男性に権威主義志向、権力志向を植え付ける傾向がある。

 

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 著者は九州大学で教授を務めた経歴を持っており、日本に向けた提言を行う。それは、情報技術を活用した多国間の交流と、日中韓の友好促進である。

 「国際化」には、外国基準を受け入れる方式と、自国基準を他国に強制する方式とがある。

 

 ――……近代の日本が推進した国際化は、先進国に対しては模倣的で友好的な国際化を推進する一方、アジア諸国に対しては軍隊の海外進出という覇権的国際化も同時に推進してきたことになる。

 

韓国の軍隊―徴兵制は社会に何をもたらしているか (中公新書)

韓国の軍隊―徴兵制は社会に何をもたらしているか (中公新書)