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『Rationalism in Politics and Other Essays』Michael Oakeshott その4

 3 ホッブズについて

 ◆リヴァイアサンについて

 ホッブズは政治哲学の古典を生み出した。ヨーロッパの思想における3つの伝統とは、理性と自然、意志と人為、合理的意志である。それぞれ、プラトン『国家』、ホッブズリヴァイアサン』、ヘーゲル『歴史哲学』が代表的である。

 ホッブズの記述法は説教じみており、また攻撃的である。かれにとって哲学とは理性を行使することである。理性の行使は、神の概念に依存する神学を否定する。また、記憶とイメージの集積である経験とも異なるものである。

 経験は歴史と慎重さを生むが、普遍的な知識ではない。一方、哲学的知識は条件的であり、絶対的なものではない。

 かれの市民哲学は、かれ自身の哲学的世界観の反映である。ホッブズの哲学の中心は力である。市民的秩序は力の共振である。

 市民社会は自然ではなく人工的なものである。

 人類とは至福を求めて欲望を抱くが、このため、万人の万人に対する闘争the War of all against allが発生する。これを防ぐため、各人は自分たちの権利を「行為者」に委ねる。この「行為者」が、単一の支配者か、寡頭制か、または民主政といった主権者である。この人工物はコモンウェルスや市民共同体と呼ばれる。

 人工的な統治システムについて:市民的権威は、君主制か、寡頭制か、民主政の政体をとる。

 主権者の特性は、彼の法とその強制力にある。法律は命令であり、主権による意志の発言である。市民的主体は、自分たちの権利を統治者に託した者である。こうした市民的状態は人工的なもので、主権的統治者も人工的存在である。

 人類は秩序のために人為的な主権者を作り、かれに幸福追求の権利を委託する。

 ホッブズの哲学を詳細に検討すると、かれが人間の本性を欠陥と見ているわけではないことがわかる。

 問題:ホッブズの政治哲学において、キリスト教がどのような位置を占めているのかについて、もう一度読む必要がある。

 

 ◆トマス・ホッブズ著作における道徳的生活

 ホッブズにとって道徳とは人為的なものだった。かれは人間の本性を、情念と理性とに分ける。情念とは、快を求め、不快を避ける心である。これは、幸福追求の欲望と、死への恐怖につながる。特に、人間は自尊心の強い存在であり、競争の中で負ける恥ずべき死を最も恐れる。

 善と悪は、人間の感じる快・不快と同質であるとされる。

 情念に動かされる一方、人間には理性という能力がある。

 人間の道徳的努力の目的は、平和である。

 神と自然法についての、著者の解釈は次のとおり。自然法は神によって人間に与えられるものである。では、自然法が固有の意味での法かというとそうではない。法は、公布され、また強制力を持たなければならない。しかし、自然法は神によって与えられはするが、それが神の仕業であることを神は示さない。また、自然法は単体では義務としては課されない。

 よって、自然法は、市民共同体civitasによって執行されたときにはじめて固有の法となる。固有の法とは市民共同体による法のみを意味する。

 市民共同体は、人為的な産物であり、平和の追求という道徳を実現するものである。また、それは人間の合理的精神の結果である。

 自尊心prideは、悪徳だけではなく、美徳となることもある。しかし、ホッブズは情念である自尊心よりも、理性に基づく恥辱と死への恐怖fearの方が人間に多く備わっていると考えた。

 このため、恐怖が市民共同体形成の基礎とされる。

 平和の必要条件は、元首sovereignが権威と権力を持つことである。相互の信頼による盟約よりも、単一の権威による盟約の方が実現性が高く、各人も裏切られる可能性が低い。

 

 ◆ロゴスとテロス

 テロスとは、最終目的、究極目的のこと。よって、teleologyとは目的論のこと。ある目的のためにあるものが存在しているのだとする説。

 本章では、スプラゲンス教授の研究を参考に、アリストテレスホッブズの世界観を比較する。

 両者とも、人間の共同体について研究したが、その解釈は異なる。アリストテレスにとって共同体はポリスであり、ホッブズにとっては市民共同体だった。

 アリストテレスにおいては、共同体は人間に本来的に備わった徳性の結果である。人間は特性を持った、目的を持つ存在だからだ。

 ホッブズにとって人間は単なる物体であり、目的を持たぬ、慣性の運動に過ぎない。共同体は、恐怖の結果生まれる。

 著者はスプラゲンス教授の解釈には異論を唱える。

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Rationalism in Politics and Other Essays

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