うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『ジョージ・オーウェル 文学と政治』照屋佳男

序章 「常識を武器に政治に関する真実を発見し直した稀有な作家」オーウェルはいまだ未知のものである。 彼は自分の自伝に「私は金もなかった、私は弱かった、醜かった、人気がなかった、慢性のせきに悩まされていた、臆病だった、悪臭がしていた……私は魅力…

『捜査』スタニスワフ・レム

『ソラリス』、『完全な真空』、『砂漠の惑星』につづいてこれを読む。 ――盲目的な偶然、偶然のはてしない組み合わせいがいはなにも存在しないのです。無限にある〝事象〟がわれわれの〝秩序〟を嘲笑っていますよ。 刑事グレゴリイは連続屍体移動事件の捜査…

接着歌(定型)

施しの紫色の電話網連接部をよく噛んで飲み込む 防壁に古い雨が降る1ビットはかれらの脳の煤を除去した

『ベトナム戦記』開高健

釣りの本で有名な作者がベトナムを取材して書いた本。 北ベトナムと南ベトナムの内戦にアメリカが加担したのがベトナム戦争である。主戦地は農村地帯なので開高の滞在するサイゴンやフエは比較的安全だった。それでもテロやデモが頻繁におこる。 ベトナム人…

『中央アジアの歴史』間野英二

中央アジアの歴史入門としてはおそらく最適と思われる本。 中央アジアという語は、東のゴビ砂漠、西のカスピ海、南のコペト・ダウ、ヒンドゥー・クシュ、崑崙の山々、北のアルタイ山脈とカザーフ高原にかこまれた横長の長方形区域を指す。中央アジア史は南北…

日記 秘密警察関係の本

最近はロシア帝国時代の秘密警察、通称オフラナに興味があります。 Autocracy Under Siege: Security Police and Opposition in Russia, 1866-1905 (Russian Studies Series) 作者: Jonathan W. Daly 出版社/メーカー: Northern Illinois Univ Pr 発売日: 19…

『ミンドロ島ふたたび』大岡昇平

『レイテ戦記』に続けて読む。 ミンドロ島ふたたび 一九五八年、遺骨回収船『銀河丸』の出航に同乗しかつて配属されたミンドロ島を訪れる。日本人は負けたにもかかわらず豊かになっていた。ミンドロ島やレイテはまだ反日感情が根強い。そのため大岡はかつて…

『人口論』マルサス

人口学の祖の主著を読む。歴史人口学にとりかかるためにも欠かせないらしい。やはり厳密な分析はまだあまり用いられていない。 *** 理想主義者と現実主義者のあいだの永遠のたたかいについて。両者の視点を綜合しても、彼は人間に幸福な社会の完成可能性はな…

『ロシア革命』ニコラ・ヴェルト

ロシア革命の入門的な本。絵や写真が多いので当時の雰囲気がうかがえる。 ロシアは膨大な人口、民族を抱える巨大な国で、十九世紀の工業化以来、近代の矛盾を一身にひきうけていた。第一次世界大戦に参戦するも、食糧弾薬は不足し、工場人夫もつぎつぎと解雇…

『ハンドブック現代中国』

比較的新しい本だったが2006年以前の情報なので注意が必要となる。調べたところ2013年版が出ていた。 清代、中央の力が及ぶのは県までで、地方では郷紳・読書人、士大夫がリーダーをつとめていた。アヘン戦争、アロー戦争と天津条約(1858)、北京条約…

青い搬送波の歌

油と炭で絵を描いた 背中を真夏の鏡に向けて 衛星が動き出す 地下にはクルミの油が浮かび、 児童の半分はひたされる。 粘り気のあるかたまりを 1つ眼の大人が手づかみで食べる。 かれらのそばでは 契約業者が、伝票を集め 機械をいじる。 青い道から這い出…

『芸術と政治をめぐる対話』ミヒャエル・エンデ ヨゼフ・ボイス

夢見る二人の芸術家がさまざまな話題について議論する。項目ごとの整理はなく漫然とすすむが、趣旨は把握しやすい。 芸術とは本来、自然と対立する人工のものを意味するが、これにしたがってボイスは社会総合芸術なる考えを提案する。人間のつくりあげる社会…

『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ

英国の諜報員リーマス・エリックと、東ドイツの諜報員ハンス・ディートリヒ・ムントが対決する。 (冷酷な殺人者)ムントによって東側潜伏の部下を皆殺しにされたリーマスは、一旦落ちぶれたと見せかけて敵を倒そうとする。管理官の計画にしたがい、部署をク…

『戦略的思考とは何か』ディキシット

「戦略的思考とは、相手がこちらを出し抜こうとしているのを承知したうえで、さらにその上をいく技である」。 この戦略的思考の科学がゲーム理論である。ゲーム理論は競争だけでなく協力についても示唆をあたえる点が重要だという。 *** 第1部 ゲーム理論の…

『論文の書き方』澤田昭夫

「本書の重点は、本格的な研究論文を書き上げるまでの下準備の過程に置かれています」 第一章 問題の場からトピックへ 論文作成の三分の二はトピック選びと資料集め・資料研究で占められる。トピックを選ぶには、問題にする題材からさらに絞込みをおこなう必…

『グローバル経済を動かす愚かな人々』クルーグマン

ケインズ曰く「知的影響から自由であると考える現実的な人びとは、往々にして故人となったエコノミストの奴隷である」。 巷に広まっている通説や、ベストセラーの主張のなかには、経済学から眺めると首を傾げざるをえないものも多くある。本書はこれら広く流…

児童の列

茶色の芝とそっくりの やわらかい草があり かれらは歩いて眠りに落ちた。 寝ながら歩く 児童らは、両手に墓地の地図を 持ち、背中に石の ろうそくを立てる。 墓から墓へ、小さな靴で 跳び越えていく児童らの列、 声のない列をわたしは見送る。

『レイテ戦記』大岡昇平 その3

オルモック陥落によりレイテ決戦は中止になる。このときの大本営は服部卓四郎、武藤章などのちの戦犯が占めているが彼らはレイテの責任を専ら南方総軍に転嫁した。米軍のレイテ上陸にともない特攻作戦がたてつづけにおこなわれるが、米船団はこれに備えて駆…

『レイテ戦記』大岡昇平 その2

意外なことに大岡は特攻隊を作戦の面からも称賛している。 「神風特攻は敵もほめる行動である」。 レイテ沖海戦から特攻は開始されたが沖縄戦のときには命中率は7%まで低下していた。 ――自分の命を捧げれば、祖国を救うことが出来ると信じられればまだしも…

『レイテ戦記』大岡昇平 その1

牧野四郎ひきいる第十六師団はレイテ島の防衛にあたる。米軍がルソン島攻略をするつもりならここからはじまるはずだという。 フィリピンはマゼラン殺害からゲリラの長い歴史をもつ。米西戦争でアメリカ領になり形式的には民主主義国になったが実態は資本家の…

『アジア史論』宮崎市定 その2

東洋的近世続き 軍隊は禁軍、近衛兵と呼ばれ政府と別に天子が直接指揮した。宋では禁軍は六〇万~八〇万にふくれあがり国内の要地に配備され、これは京師(帝都)の殿前司に属した。宋代からは科挙制度が用いられた。三国魏から隋までの九品中正は「門閥貴族…

『アジア史論』宮崎市定 その1

いくつかの評論の寄せ集め。 世界史序説 これは『アジア史概説』にも関連する内容である。宮崎はユーラシアを東アジア、西アジア、ヨーロッパに分割する。インドは独立した地域ではあるが他地域との交流が薄いため省略するとのこと。 古代における大一統はま…

『コンラッド中短篇小説集 1』

「潟」 マレーの原住民が白人に自分の過去を語る。彼は酋長に仕えるものだったが、この酋長の愛人を、弟とともに掠奪する。逃走中に弟が捕えられ撲殺されるが彼は女のために見捨てた。多島海と熱帯の表現がこまかい。 「進歩の前哨基地」 アフリカの植民地ポ…

逆さ吊りの絵

小さな矩形が濃縮されて、 黒と銀の、 うそつき男がやってくる。 狙いをすまし、 足首に巻き付けられた ファイバーの、輝く 鎖を指向する。 貼り付けられたうそつきの 顔の上にはもう1枚、 もう1枚と重ねられた 神さま臭いひげの顔。 光のたわむ、うそつき…

『征服者・王道』マルロー

『征服者』は中国における革命運動を舞台にした小説。登場人物は活動家たちだが、特に社会主義文学のような印象は受けなかった。どちらかといえば、ロシアのアナキストたちを主役にしたコンラッドの本を思い出す。 『王道』はこの古本ではなく、その後講談社…

『緑の家』バルガス・リョサ

インディオと交渉するシスター(宣教師)と軍隊が、悶着をおこして退避する場面からはじまる。<緑の家>なる歓楽街の館を構える町ピウラ、インディオ教化につとめる修道院、ペルー軍、商売で儲けをたくらむ行政官ドン・フリオ、刑務所を脱獄した日系人フシー…

『決断力』羽生善治

知識は知恵にしなければ意味がない。定跡を暗記するだけでは勝つことはできない。案内図のないところでどれだけ行動できるかが、戦闘力を測る物差しである。この暗闇での戦い経験につながる。しかし、経験が思考を狭めたり、ネガティヴな方向に限定してしま…

『私の旧約聖書』色川武大

エジプトで宰相になったヨセフの死後ユダヤ人は繁栄する。しかしこれをよくおもわなかったエジプトの王は彼らを迫害しようとする。このときあらわれたのがモーセだった。その後彼らの子がカナンにたどり着くとサウル王、ダヴィデ王、ソロモン王とユダヤ王朝…