うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『その夏の今は・夢の中での日常』島尾敏雄

 「出孤島記」

 震洋特攻隊長に命じられ、南の島で出撃を待つ青年の精神と、風景を描く。

 原子爆弾が落とされ、連合国はポツダム会談を行っており、語り手を含めて、ほとんどの軍人と兵隊は、特攻作戦が無意味であることに気が付いている。

 隊長は集落の娘と交流しながら、出撃命令を待っている。この交流は、ほとんど詳しくは書かれない。

 この話を読むのはおそらく2回目だが、『魚雷艇学生』と同じく、指揮官となった青年の思考が細かく書かれている。

 指揮官は部下を率いる立場であり、かれらとは心理的に隔たりがある。警戒態勢発動を受けて、だれを特攻の一番手にするかで悩み、「自分が最初に出る」と宣言する。

 特攻隊長は特殊な配置であり、日常的に戦闘に従事しているわけではない。ただ、特攻を待つまでは静かな生活が続く。

 しかし、士官は不意の呼び出しが来るのではないかと常に気にかけている。

 「自殺艇」乗組の士官たちは、特権的な地位にある。つまり、命を捨てた者としてちやほやされている。

 正統性や意義のない目的のために、部下を指揮するとき、かれはどのような精神状態だったろうか。

 

 ――私は今戦闘員なのだ。それは何というちぐはぐな感じだろう。この戦争について私は何を知ることができただろう。

 

 ――ただ私の気まぐれで私と運命を共にしなければならない第一艇隊の12名の自殺艇乗組員に対して抱いた罪の意識を私は消せなかった。

 

  ***

 「出発は遂に訪れず」

 玉音放送前後の、隊長の心理が連続して書かれる。「出孤島記」よりも、さらに時間の流れは遅くなり、精神状態の説明が拡大される。

 

 ――司令官を支える防備隊の参謀たちはどんな全体の作戦構想をもっていたろう。少し冷静に考えれば、この島は作戦の谷間に落ち込み、どんな戦略価値ももっていないことが分かるではないか。

 ――つかえて取れなかった栓が外れとび、わからなかった向こう側の水が伝わってきたように、センソウハ、オワッタノカモシレナイ、という考えが頭に来た。

 ――……おかしなことには、生き残った実感がその居場所をかためはじめ、頬に笑いを押し出してよこした。

 

 ――「隊長、あなたは帰れるつもりでいるんですか」……「今度の戦争の責任は、士官がとらなければなりませんよ。下士官兵には責任はありません。士官とはそういうものです。今までそれだけの特権が士官には与えられてきたのですから。あなたはいくら期間が短く、また予備士官であっても、お気の毒ですが士官としての責任をとってもらわなければなりません……」

 

  ***
 「その夏の今は」

 無条件降伏により戦闘が停止すると、その影響はただちに現れた。村人たちは態度を豹変させ、貸していた舟や魚を返してもらうために基地内につかつかと踏み込んできた。

 兵隊たちは、掃除をなまけ、集合もいい加減にするようになった。

 隊員の間でもめごとがよく起こった。

 「隊長」は、ゆるんでいく部隊の、もめごと処理に追われる。

  ***
 「孤島夢」
 「夢の中での日常」
 「鬼剥げ」
 「島へ」
 一見、脈絡のないように見える風景や心象が連続する。夢を主題とした作品群である。

 

その夏の今は・夢の中での日常 (講談社文芸文庫)

その夏の今は・夢の中での日常 (講談社文芸文庫)