うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『特攻』森本忠夫 その1

 本書の冒頭から:

 特攻作戦は、西欧的な価値観からすると異様な自殺攻撃である。

 わたしたちは、当時の価値観がどのように特攻を正当化したかについて、また軍がどのような意思決定を経て、この異様な作戦を実行したかについて、知らなければならない。

 ◆感想

 中盤は、特攻した機体と搭乗員の記録が大部分を占める。

 他にも、作戦の上でのエピソードや、特攻作戦関係者たちの発言や行動が詳しく書かれており、責任者たちの、責任回避能力の高さを知ることができる。

 

  ***

 海軍において特攻作戦が決定された経緯を、著者は強く批判する。そこには合理性や合目的性といった観点がなく、また決定者の責任もあいまいにされたまま事が運んでいった。

 

 ――この段階の日本軍には、もはや、作戦と呼ばれるに値する作戦は存在していなかった。特攻作戦を発動しこれを全軍特攻にまでエスカレートしていった軍中央と現地の指揮官たちや参謀たちは、日本の若者に死を強制し、死を自己目的とする虚無主義的なファナティシズムの心的状況に陥ることで、作戦そのものを放棄し、同時に彼らが戦争指導者であり、指揮官であり、参謀であることを放棄していた。

 

 特攻作戦の発案者である大西瀧治郎海軍中将の言葉は、次のように批判される。

 

 ――……この時、若い特攻隊員を神に仕立て上げた大西瀧治郎中将の言葉ほど形而上学的な欺瞞に満ちた言葉はないのだが、こうした表象の中に、大西中将の部下に対する死に場所を与える大愛と大慈悲といわれる当時の軍国日本の価値観があったのである。

 

 1

 特攻……特別攻撃隊が用いられだしたのは1944年10月の比島沖海戦からである。

 大西中将が軍令部において特攻作戦を提起したとき、参謀たちは「自由意志ならいい、現場がやるしかないというならいい」、「若い人たちの心意気があるならやむをえない」というような反応を見せた。その後、成り行きによって特攻作戦の実行が決まった。

 一部の参謀を除いて、ほとんどの高級幹部は特攻に消極的だった。それはその場しのぎの作戦としては役立つかもしれない「統率の外道」だが、根本的な戦略に資するものではないからである。

 にもかかわらず、かれらは精神的な満足を得られることを否定しなかった。かれらにとって特攻は、無駄死にするくらいならやったほうがいい行為、やむを得ない行為だった。

 特攻には戦果に関する検討が欠けていた。死を覚悟して特攻をやれば当たるだろう、という念力のレベルであり、実際、圧倒的多数は敵艦にダメージを与える前に撃墜された。

 

 2

 特攻が生まれた物質的な背景は、日米海軍の圧倒的な戦力差である。著者によれば、真珠湾攻撃時の日米の差は1対1.44だったが、1944年マリアナ沖海戦頃には、米海軍の戦力は日本海軍の8倍ほど、国としての生産力は12倍以上あったという。

 1945年4月の大和沈没後、日本海軍の主力は半特攻兵器である小型潜水艦「甲標的」、特攻魚雷艇「回天」、ベニヤ板特攻ボート「震洋」、陸海軍それぞれの特攻練習機のみだった。

 

・艦艇同様、航空機生産についても、アメリカと大きな差があった。

・太平洋戦争前夜、世界の海軍の主流は大艦巨砲主義だったが、真珠湾攻撃をきっかけにアメリカは用法を見直した。一方、日本は航空機軽視の姿勢をを終盤まで変えなかった。

 大西瀧治郎は日米開戦前から航空優勢の重要さを認識していたが、生産力の問題から、海軍が方針を変える可能性は低かった。

 思考様式と、物質的基礎・経済的基礎とは不可分である。

・「海軍圧勝」の大本営発表を聞いた企業家たちは、航空機生産を増やしてしまうと、戦後、設備が余剰となりだぶつくことを危惧し、本格的な増産を渋った。

・生産に必要なアルミニウムは、航空機のためでなく、横流しのために使われていた。

・陸軍はロシア向き、海軍はアメリカ向きであり、お互いに統合作戦を行うことは敗戦間際までなかった。アメリカのような文民統制も存在していなかった。

・1944年、陸海軍は互いに対抗し、約2万5000機の航空機増産を決定した。これがそもそも実現不可能な数字でありながら、企画院は案を了承した。

・本土まで追い込まれたとき、陸海軍は初めて協同した。しかしまともな作戦計画はなかった。

 1945年6月の御前会議で開陳された戦争指導大綱は、次のような情緒作文だった。

 

 ――七生尽忠ノ信念ヲ源力トシ地ノ利人ノ和ヲ以テ飽ク迄戦争ヲ完遂シ以テ国体ヲ護持シ皇土ヲ保衛シ征戦目的ノ達成ヲ期ス。

 

[つづく]

 
特攻―外道の統率と人間の条件 (光人社NF文庫)

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