目的……裁判員を務めるための教科書である。
著者は裁判員制度の問題点を認めつつも、国民による法システムの自己統治を可能とする制度として肯定する立場である。
1 ルール
裁判員裁判は刑事裁判を対象とする。犯罪を裁く法律は刑法の他に「破壊活動防止法」等個別の法律(特別法)がある。
裁判員に求められるのは良識と、裁判のルールに関する知識である。それは「裁判員裁判で裁かれるのは検察官である」ということである。
裁判官の立場から法廷を見た場合、検察官の有罪証明が成功したかしないかのみが問題になる。
裁判官が「司法権の独立」によって、裁判所という組織から独立して裁判を行うのに対し、検察官は、検察庁として一体化し組織的に行動する。これを「検察官一体の原則」という。
刑法は裁判官に宛てた法律である。よって本来は、「人を殺してはいけない」のように、一般市民に対する命令ではない。
刑事訴訟法は裁判の進め方に関する法律であり、裁判関係者全員に宛てられている(警察も含む)。
法律には必ず名宛人がある。憲法は国民から政府へ宛てられている。民法は裁判官に宛てられる。
民事裁判は自分に損害がなければ訴えることができない。刑事裁判は刑法に違反する犯罪行為であれば訴えてよい。
刑罰は人権を制限する<苦役>である。
日本国では裁判を受ける権利が保障されている。被告の権利は守られなければならない。
裁判員は、被告の証言や供述調書の証拠能力を判断する必要がある。
2 推定無罪
推定無罪presumed innocentとは「被告人は、裁判で有罪の判決が出るまで、無罪だと扱わなければならない」という原則である。
近代刑事裁判は、犯人の取りのがしよりも、冤罪を防止する方を重視する。
裁判所は1回の審理により真実を決め、社会的事実をつくる。
検察の証拠集めが適法な手続きを踏んでいるか、証拠から犯罪が再構成され、有罪が証明されているかどうかを、裁判員はチェックしなければならない。
警察と検察は捜査権を持つ。検察官は刑事裁判の「訴え」を起こすことができる。検察に対し刑事裁判を願い出ることを「告訴」(被害者による)、「告発」(第3者による)という。
麻薬及び大麻関連、振りこめ詐欺摘発など限られた場合にはおとり捜査は合法である。
犯人取調べのためには逮捕しなければならないが、逮捕は裁判所に逮捕令状をもらうことで可能になる。現行犯逮捕はその例外である。
いまの日本では自白よりも物証を重視する。拷問等による自白が証拠として採用されないことは憲法に定められており、また自白のみで有罪とすることもできない。
鑑定は専門家の意見である。参考人の意見と同様、証拠として採用するかは裁判官の判断となる。
「殺意」があるということは故意があるということである。よって供述調書、自白調書には必ず「殺意を覚え」、「殺害の目的をもって」といった文言が入る。
構成要件とは、どんな行為が犯罪を構成するかという要件のこと。
裁判員が心証をつくるにあたり、証拠の採用の可否、鑑定の採用、証言の採用が問題となる。裁判員と裁判官は判決までを決める。
懲役3年以下の判決は執行猶予にすることができる。
3 裁判員の役目
裁判の流れ……冒頭手続(人定質問、起訴状朗読、権利告知、罪状認知)―証拠調べ(冒頭陳述、証拠調べ)―弁論・結審(論告求刑、最終弁論、結審)
検察側の証明に1点でも矛盾があるかどうかを重点的にチェックする。
裁判員は裁判の目的を常に頭に入れておく必要がある。それは「事件の犯人が被告人かどうかを決め、刑法に照らしてどれだけの刑罰がふさわしいかを決める」というものである。
最近の裁判では被害者の発言機会が与えられることが多いが、被害者の発言は裁判のルールには関係ないため、判断の上では無視しなければならない。
遺族の感情をいやすために裁判があるのではない。復讐の欠点……相手が強い場合実行できない、相手が仇かどうか確定できない、復讐は連鎖をつくる。
裁判員裁判は地裁のみである。
裁判員の守秘義務で重要なのは、評議のプロセスを秘匿することである。誰がどういう判断をしたかが知られてはならない。
4 裁判員制度の可否
懸念……裁判官の立場が強いのではないか。候補者選定の問題。公判前整理手続きの利点と欠点。
5 裁判はどうなるか
裁判に時間がかかりすぎる弊害……国民は公共サービスに頼らなくなり、かわりに反社会勢力などを頼って事件を解決するようになる。
有罪率が高すぎる弊害……検察官は確実に有罪をとれる容疑者だけを起訴する。このため、真犯人を取りのがしている可能性がある。
「法の支配」とは司法が裁判を行うという原則も含む。
裁判員の心理的負担について……それは「市民が分担すべき、法システムの正しいコスト」である。
裁判の劇場化により検察は裁判員の感情に訴えようとする。