ロバート・ゲーツ国防長官の回想録からのメモ。
アメリカ合衆国はどのような姿勢で外交を行っているのだろうか。日本とはまた異なるようだ。
◆別荘に招待
プーチンにとって外交や交渉は、自分のための演出の場でしかなかった。
ゲーツとコンドリーザ・ライスは、プーチンの別荘(ダーチャ)に招かれたが、プーチンは突然ロシア報道陣を呼び入れると、メディアの前でゲーツらアメリカ側を非難し始めた。
南オセチア紛争時、ゲーツは報道記者から、「プーチンに対する信頼は失われましたか」と質問された。ゲーツは、信頼という概念自体を否定した。
――これまで一度たりとも、信頼に基づいて安全保障政策を決めようなどとは考えなかった。安全保障は利益と現実に基づいて作られるべきである。
――……わたしはプーチンの眼をじっと見すえたが、そこで見出したのは予想通り、冷酷な殺し屋の魂だった。
交渉を行うということは、別荘や自宅に招いたり、招かれたりして満足することとはまた別である。
◆完全に一致
自分たちの目的に米軍を利用しようとする態度は、国防長官だけでなくアメリカ人一般から軽蔑を受ける。
サウジアラビア国王との会談で、ゲーツは激怒した。
――わたしの印象では、サウジアラビアは、対イラン戦争とサウジアラビア権益保持のために、米国に対し子供たち(兵士たち)を送れと要求しているようだった。まるでわれわれが傭兵であるかのような言い草だった。
しびれを切らしたゲーツは国王に対し、アメリカは自国の重要利益保護のためにのみ軍事力を使うといった。
※ 実は、サウジアラビア国王は米国がどこまで支援するのかを見定めるため、あえてぶしつけな要求を言い立てたのだ、と後で白状した。
19世紀や20世紀初頭とは異なり、アメリカは自国の兵士が死ぬことに極度に神経質である。
かれらが世界各地に展開しているのは自分たちの利益を守るためである。そしてその利益は、同盟国と同一ではない。
◆ベギン・ドクトリン
2007年、シリアが核開発をしている疑いが持ち上がったとき、イスラエルはアメリカに攻撃を呼びかけた。
ゲーツは、アメリカが介入すべきではないと主張した(このとき、チェイニーらは即時攻撃・破壊を主張した)。
ゲーツの介入反対理由は以下のとおり。
・すでに2つのムスリム国家(イラク、アフガニスタン)と戦争している状態で、さらにシリアを攻撃すれば、国内・国外での非難を招く。ブッシュ政権はトリガーハッピーだと思われている。
・シリアは明白な敵対行為を示したわけではない。我々は真珠湾攻撃(ホワイトハウスでは「トージョー・オプション」と言われていた)を行わない。
・他国の情報を頼りに攻撃を行うのは極めて危険である。イスラエルと米国の利益は同一ではない。
・大量破壊兵器に対する米国情報の信頼性は非常に低い。
その後、イスラエルは単独でシリアの核施設を爆撃した。
実質的核保有国イスラエルは、地域のなかで大量破壊兵器開発疑惑が持ち上がった場合、予防のために攻撃する「ベギン・ドクトリン」(メナヘム・ベギン首相にちなむ)を遵守している。
イラクのオシラク原発攻撃やシリアへの攻撃、イラン核施設へのStuxnet攻撃や科学者暗殺など、イスラエルは国際社会から度々非難を受けている。
「米イラン戦争起こればイランはイスラエルを爆撃」ヒズボラ指導者が警告 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
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