うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『バガヴァッド・ギーターの世界』上村勝彦 その2

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・ヨーガは平等の境地であり、それはブラフマンとの合一であり、知性(ブッディ)の確立である。

ヒンドゥー教の三大目的は、ダルマ(法)アルタ(実利)カーマ(享楽)である。人生の時期に応じて追求すべきとするのが一般的な教えである。

ブラフマンにおける涅槃は、生前解脱である。

 

 8

・行為の放擲をおこなったものはサンニヤーシン(放擲者)であり、家長を息子に委ね隠退した人である。

・因果は複雑なので善悪の結果がすぐに現れるわけではない。

・しかし多くの人はあまり悪いことはできない。それは「すべての人の心に仏性があるから」である。

・『ギーター』は、自己のアートマン(仏教でいえば仏性)を汚すことをしてはいけないと説く。

・行為の放擲を完遂し、寂滅状態に入ったヨーガ実践者は、瞑想を続け、絶えず自己を絶対神と結びつけ、やがて死後に涅槃を実現する。

 

 9

・ヨーガの具体的な方法について。

・万物を自己のうちに見る。

アートマンは万物に宿り、またブラフマーと一体である。よって、すべての生類に対し慈しみの心……慈悲が生じる。

・常修と離欲によりヨーガという不動の境地にいたる。

 

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・クリシュナは最高神であり、高次の本性=プルシャ、精神的原理を持つ。万物はクリシュナの本性(プラクリティ)に由来する。全世界はかれから生じ、かれのなかに帰入する。

・絶対的な悪人、アスラ的な悪人が存在する。

 

 大乗経典『涅槃経』では、信徒を守るための武器による自衛を認める。

 

 ――最初はひたすら純粋であった信仰が、組織になると偏執せざるをえなくなります。ここにすべての宗教教団のジレンマがあります。理想と現実の相違、個人と組織の問題などが、必ず出てくるのです。

 

・知識ある人は最高の信者となる。

 

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・クリシュナのヨーガは「神のヨーガ」である。すなわち「高次の本性」つまり精神的原理を、「低次の本性」つまり物質的原理に結びつけ、マーヤー(現象世界)を発動させることである。

・平等の境地を達成した人は、クリシュナに強固な信愛(バクティ)を捧げる。

・あらゆるときに最高神を念じて仕事・義務に専念せよ。

・最高のプルシャとは……最高神であり、「神人」、「原人」である。

・「オーム」の音はブラフマンの象徴である。

・最高原理ブラフマンは抽象的で愛(バクティ)の対象とはならないが、最高のプルシャは神格なのでより具体的な捧げる対象となる。

 

 12

 クリシュナの説教が続く。

・理論知は、クリシュナの本性についての知識、実践知は、それに基づいてひたすら信愛することである。

・仏教では仏を虚空にたとえる。ヒンドゥー教でも、最高神は虚空「アーカーシャ」にたとえられる。

最高神はなぜこの不完全な世界を創ったのか。それは永遠の謎である。

 

 13

・『ギーター』における最高神遍満の思想は、本覚思想とよく似ている。

・最高の信愛が最高の知識である。

・極悪人も信愛するなら救われる。

 

・社会的に上位のバラモンや王族出身聖者(王仙)のほうが、解脱に有利な条件を持っている。

 ――……このあたりに古代インド的な限界があるともいえます。

 

・日本仏教は本来の仏教から離れているという批判もあるが、著者はより優れた点もあるのではと考える。

・クリシュナの力は多様な顕れ(ヴィブーティ)を示す。

 

 14

・クリシュナの姿について。

 ――もし天空に千の太陽の輝きが同時に発生したとしたら、それはこの偉大なお方の輝きに等しいかもしれない。

 ――その時アルジュナは、神の中の身体において、全世界が一堂に会し、また多様に分かれているのを見た。

 

・クリシュナは、同時に、世界を滅亡させるカーラであることを告げます。

 カーラ(時間)は、『マハーバーラタ』の中心主題である。

 ――創造神が定めた道を誰も乗り越えることはない。この一切は時間(カーラ)に基づく。

 

 古典期の詩人バルトリハリによれば……

 ――このように、巧みなカーラ(時間)は、昼夜を2つの骰子のようにころがして、世界というゲーム台の上で、生類という駒で遊んでいる。

 

・時間のむなしさを克服するのは信愛である。

 

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・よい信者がどのようなものか。

 

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・クリシュナの信者の行動様式:正しい知識とは……

 ――慢心や偽善のないこと。不殺生、忍耐、廉直、師匠に対する奉仕、清浄、堅い決意、自己抑制

・不殺生はアヒンサーという。

・離欲、我執、四苦

 

 17

・知識の対象は最高ブラフマンである。つまり真実の自己アートマンでもある。

・『ギーター』の教えは、本覚思想に類似している。

 

 18

 神的な資質の人と、阿修羅的な人(悪人、だめな人)の具体例が示される。

無神論

増上慢

・不正な手段で富を蓄積

・社会的に成功に迷妄に陥ること

 

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・3つの構成要素(グナ)について。

・純質(サットヴァ)を増大させるためには、三毒を捨てなければならない。

・各々は構成要素に応じて信仰する。

 ――純質的な人びとは神々を供養し、激質的な人びとは夜叉(ヤクシャ)や羅刹(ラクシャス)を供養する。他の暗質的な人びとは餓鬼や鬼霊の群を供養する。

 

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 適切な食物、布施について、3つのグナに分けて説明する。

・布施をするときに見返りを求めてはいけない。普通、布施をおこなった人は優越感を、受けた人は引け目を感じる。そのストレスが蓄積してしまう。

 

 ――何か人によいことをする場合は、かえって注意する必要があります。自己満足に陥らないようにしなければなりません。

 

・布施をする相手を見極めるのは難しい問題である。

 

 ――例えばある国を資金的に援助するようなとき、結果としてその国の支配者層や日本の企業が潤うことになる。そのような場合は、まさに不適切な最低の布施です。さらに、その国の人びとを物乞いのようにばかにしたりすれば、それは最低の布施です。

 

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 結果に執着せず行為することで放擲と捨離(ティヤーガ)を達成すること。

・純質的な人、激質的な人、暗質的な人。

 

 ――……暗質的な行為者は、仕事に無能であり、凡庸であり、しかも頑固で狡猾で、正直でなく、怠惰で、嘆いてばかりいる。そしてだらだらと仕事を引き延ばし、なかなかやらないような人です。

 

ヒンドゥー教聖典である『ギーター』がカースト制度を保持せよと説くのは致し方のないことである。

 ヒンドゥー社会の保全に合致する思想である。

 

 22

・解脱するには知識を得たあと社会を離れる必要がある。

・個々の存在はアートマンによって支配されておりそれは最高神と同一である。

 

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)