5、6年間本棚に埋もれていた。1996年出版とだいぶ古いので現状と異なる箇所(特に部隊編制等)もある。
著者は他に『トウ小平』等の著作がある。
***
「党から軍が生まれ、銃口から政権が生まれる」
本書の目的……解放軍の成立、党と軍の関係、組織編制、天安門事件における軍事行動、海軍および空軍の近代化、国防と経済について
外交とは相手の精神の理解を通して自分の目的を達成することである。
――「唯一の被爆国」という自己中心的な論理におぼれ、国際社会の現実を理解しようとしない性癖が日本人の骨の髄までしみこんでいるのではないか。そのような日本人が国民感情や世論の名において、外国にものをいうのは内政と外交との区別を忘れたものというべきであろう。
台湾について、著者は、重要な点は繁栄と平和共存であり、「海峡両岸のトラブルに日本人が介入するべきでない」という立場をとる。
1
1921年、国民党および共産党は合同で黄埔軍官学校を創設し将校を養成する。
1927年8月1日、武漢で南昌暴動を起こすため周恩来は軍を組織するも失敗した。この日が健軍記念日とされた。
毛沢東らは紅軍設立に際し、ソ連赤軍にならい、軍事指導者に対して政治委員を置き、ソ連以上に政治委員に強い権限を与えた。こうした措置に「党の軍隊としての紅軍」の性格があらわれている。
1945年以降の内戦では林彪、劉伯承、鄧小平らが司令官として活躍した。他には朱徳、葉剣英らが軍籍についていた。周恩来は国務院にいた。
朝鮮戦争後、彭徳懐国防部長は解放軍の近代化、正規軍化を進めた。国家主席の下に国防委員会、国務院に国防部が設置されたが、党の実権を担うのは党であった。すなわち、軍の指導は党中央委員会の直属部門であり中央軍事委員会が担当した。
彭徳懐に代わって林彪が国防部長に就任すると、党のゲリラ部隊化を行った。全国を13の大軍区に分け、野戦軍を地域に分散させ基幹的防衛力とするものである。これにより核攻撃の標的となるのをふせぎ、全土において戦線をつくることが可能となった。
1966年から始まる文革により解放軍の元老……朱徳、彭徳懐、賀竜、陳毅らは迫害された。
林彪が毛沢東の手先となり文革を推進したが、1971年、暗殺未遂の末モンゴルで墜落死した。
70年代末からは鄧小平が軍の整備に着手した。かれは軍閥の勢力を削ぎ、解放軍の100万人削減と現代化を実行した。
2
党中央軍事委員会および国家中央軍事委員会の下に総参謀部、総政治部、総後勤部がある。また、7大軍区、空軍、海軍、第二砲兵(戦略ミサイル部門)がある。
「正規化、現代化」のテーゼは、林彪にいったん否定されたあと、鄧小平によって復活させられている。
部隊指揮においては指揮官と政治委員が首長として責任を持つ。省軍区、軍分区等の地方レベルでは、党委員会書記が通常政治委員を務める。こうして党中央の統一指導のもとで軍隊に対する指導と監督を実現している。
陸軍の編制……軍、師(師団)、団(連隊)、営(大隊)、連(中隊)、排(小隊)、班(分隊)
海軍の編制……潜艇部隊、艦艇部隊、海軍航空兵、海軍岸防兵、海軍陸戦隊
空軍の編制……航空兵、高射砲兵、地対空ミサイル兵、レーダー兵、通信兵
中国人民武装警察部隊は公安部門の下にあるが党中央軍委の指揮を受ける。
3
中国では部隊番号も軍事機密に該当するため、どの部隊が動員されたかは公表されない。
1989年6月4日、天安門広場におけるデモ隊鎮圧は38軍が行ったとされている。また、北京周辺の瀋陽軍区や済南軍区だけでなく、南京や広州など広範囲から動員された。
各軍の北京入城に際しては妨害がなされた。学生と軍は協定により平和に交渉しようと努めたが、投石による流血事件等も発生した。このときは、軍に対して無抵抗の指示が出されていた。
6月4日未明までは、軍が人民に銃を向けることはないという気のゆるみが学生、兵双方にあった。
4
戒厳部隊司令部は各部隊に天安門広場進駐を命じるが発砲は厳禁とした。38軍はやむを得ず発砲し、これに続いて各部隊も発砲した。しかし、最後まで発砲しない部隊も存在した。
このため部隊側にも多数の死傷者が出ている。その大半は、部隊から孤立した地点で、デモ隊にリンチされたというものである。
著者は、この事件の責任は趙紫陽らとの対話を拒否した鄧小平、楊尚昆、李鵬ら保守強硬派にあるとする。
資料から分析すると軍側の死者は13名強、民側の使者は200から300名あまりだという。
広場の最終整とん過程において虐殺はなかったことが証明されたが、著者は事件半年後にそのように主張したところ狂人扱いされた。
――……人びとは「虐殺幻想」に酔ってきたのだ。
5
中国が核実験を繰り返す理由は、他国の内政干渉を許さないためである。
軍では食糧を自給自足し余剰を売ることで利益を得られる。しかし、企業経営ばかりに専心し任務をおろそかにする例や、横領等問題が発生している。