イギリスにおいて否定的なイメージで語られることの多い第1次世界大戦について、それは後世の文芸や芸術によってつくられた世界観である、と抗議する本。
ヘイグ将軍や政府の政策を擁護しているが、果たして第1次大戦が、文学によって不当に評価をゆがめられた、本来は上手くいった戦争だったのかどうかは疑わしい。わたしの知識では判断できないが、この本の説明は納得ができなかった。
第一章 必要な戦争
著者によれば、英独の対立と開戦は不可避だった。英国は緒戦で失敗したが徴兵制を採用してからは徐々に技術と戦術を進化させついには勝利をおさめた。
はじめ将校を占めていたパブリック・スクール出身者はその多くが戦死しやがて労働者階級や下層中産階級出身の下士官で占められた。
ところが、イギリスの勝利は反戦的文学や映画その他宣伝により歪められた。
ドイツ軍国主義の打倒、自由主義諸国の勝利が大義として通用した。戦死者77万人の九〇パーセントが労働者階級であり、終戦直後から国家全体による哀悼がはじまった。死者数は第二次大戦の三、四倍である。
第二章 さらば古きものよ
終戦直後は愛国的な文物がもてはやされた。
一九六〇年代頃から、第一次大戦は否定的に見られるようになり、そのためチェンバレンの宥和政策も理解された。ダニエル・ヘイグは殺人者といわれた。ソンムの戦いは大量虐殺と愚かな将軍たちの象徴となった。
だが近年見直しが行われつつあるという。イギリスは初期の失敗から学習曲線を上昇させ、末期にはドイツ軍を圧倒したのだと著者は主張する。
第一次大戦は日本における戦争のように無益と虐殺と無能な将軍の神話として学問の外に立っていた。
「「戦争詩」を聞いて育ち、称賛に値する例外を除けば、恐ろしい状況、不必要な虐殺やまったくの無駄という定着したイメージを強調しがちな新聞やテレビ番組の強い影響を受けている大衆」。
――彼らは、神話が単なる狭い学問的な特殊な問題ではなく、われわれの現在の態度や価値にとって深刻な意味を持ち、安全保障上の決定に大きな影響を与える可能性があると考えているのである。
ここでは文学は偏見と迷妄の根源として扱われているようだ。
イギリスと第一次世界大戦―歴史論争をめぐる考察 (戦略研究学会翻訳叢書)
- 作者: ブライアンボンド,石津朋之,Brian Bond,川村康之
- 出版社/メーカー: 芙蓉書房出版
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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