――私にはまだ自分の意見というものはなかったが、虫のついた食物を食べることができないのと同じように、受け入れることのできない意見というものがあるのを感じた。
――世の中には、その全生涯にわたって単調で希望のない毎日を送っている人はいくらでもいる。このような人びとが現代社会を支えているのである。動員の鐘は、よりよき日の約束のように彼らの生活の中に押し入ってくる。日常のあらゆるお決まりのもの、あらゆる飽き飽きしたものが覆され、新しい見慣れぬものがやってくる。これから先、ますます果てしのない変化が起こるにちがいない。
亡命中のトロツキーが自分の過去についてかいた本。上巻を読んだかぎりでは、子供時代から青年時代にかけて、ほとんどすべての人格がつくられているという印象をうけた。
ロシアの田舎でうまれたトロツキーは、自分の子供時代について、貧困はなかったが豊かでもなく、殺伐としていたと書く。かれの家は地主であり、父親が小作にたいしてつめたいふるまいをするたびに、心がいたんだ。なぜ人間はほかの人間にこんなひどいことをするのだろうか、という疑問がわいた。
子供のときから知的好奇心がつよく、なんでもかんでも知りたいとおもうようになった。ひたすら本を読むことで知識を身につけていき、学校でも首席だったが、素行はわるかった。なぜ先生たちに無条件服従しなければならないのか、同級生たちの態度が理解できなかった。
教師にたいしておこなったいたずらで、一時退学させられる。かれは自分のクラスメイトに裏切られ処罰をうけた。人間には、手のひらをかえして裏切るものと、絶対に仲間を見捨てないものと、大勢にのっかるだけの無力なものがいるということも知った。
ロシアにはさまざまな民族がおり、おたがいにあまり仲が良くないことも、小学校時代に経験した。のちに、ユダヤ人にたいして経済的な封鎖政策がとられると、トロツキーの一家は被害をうける。
学校をでたトロツキーは社会主義運動に参加するようになり、さまざまな人物と出会う。マルトフ、カウツキー、ローザ・ルクセンブルク、リープクネヒト、レーニン、ブハーリン、ベーベルなど、それぞれ人物評をかいている。
革命をすすめるには、知識や世界観だけでなく、つよい意志が必要だとかれは考える。かれには、プロレタリアート革命は絶対に成就されるという確信があった。どういう根拠があったのかはこの本を読んでもはっきりしないが、やがてスターリンに追放され、殺される。トロツキーによればスターリンは粗野な俗物らしいが、世の中の大部分がそのような俗物なら、かれらをあやつるには自分も俗物である必要があるのかもしれない。
この本の端々から、「自分は非凡であり、自分の人生は特別である」という自信があふれている。それを文字にして公表できる人間は、やはりどこかで人から恨まれる。それでも、自分(トロツキー)がこのような存在になったのは、時代にめぐまれたからだとコメントしている。
納得のいかないことにたいして、納得がいかないと発言すること、自分をだまさないで疑問をもち続けることが、つよい意志につながる。