うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『プリンセス・マサコ』ベン・ヒルズ その2 ――宮内庁による雅子バッシング、皇族への人権侵害

 6

 皇太子の結婚は進まなかった。アンケートの結果、日本女性の大半は皇太子との結婚を望んでいないことがわかった。なぜなら自由を奪われ、窮屈な環境で生活させられるからである。

 弟の秋篠宮は都内で遊び歩いている悪評が立っており、解決策として兄よりも先に結婚させることになった。

 

 ――こうしたスキャンダルは、いうまでもなく、日本では報じられなかった。……その原因の1つは記者クラブ制度にあるという。

 ――「政治記者はほとんど有名な政治家の腰ぎんちゃくですよ」

 ――「警察記者はペンを持った警察官です。共同通信の記事の90パーセントは記者クラブ発表によるものです」

 ――日本のメディアは自分たちを体制の一部だとみなす傾向があり……。

 

 皇太子は何度も雅子と連絡をとるよう指示し、雅子と小和田家は結婚に同意した。

 世間とマスメディアは熱狂したが、一部の(主に外国人の)ジャーナリストは危惧を表明した。

 

 ――「彼女は非常に現実的で、スマートで、元気で、活発でした。今では三歩下がって歩き、個性もなく、国のために犠牲になったのです」

 

 7

 雅子は、皇太子のアドバイスを受けて、皇太子妃になれば外交に貢献できると考えていた。しかし、後継者を出産するまでは自宅にほぼ軟禁されることになった。

 

 宮内庁天皇の歴史について。

 

 ――実際は、マッカーサーによる改革の多くは根付かなかった。西洋式の民主主義の代わりに、日本の政治制度はゆがんだパロディのままだった。保守派の自由民主党が戦後ほぼ一貫して政権を握っていた。

 

 戦後、宮内庁の皇族へのコントロールは強化された。皇族で自分の財産を持つものは皆無である。

 

 ――……日本の皇室は生活を納税者に依存する高貴な貧民となった。そして、宮内庁の会計係の手にゆだねられたのである。

 

 税金に依存している事実は、共産党だけでなく、その他の批判の対象となっている。

 

 後継者問題は日本独自である。ヨーロッパの王室は女性君主を認めており、特に不足はしていない。サウジアラビアは後継者候補である皇子が3、4000人に上るため、別の意味で苦労している。

 

 ――「三年たって子供なし――雅子妃の正念場」

 ――……(宮内庁)職員たちは意地の悪い話をメディアに洩らすようになった。

 

 8

 雅子は鬱になり、また不妊の問題が懸案事項となった。

 やがて、秘密裡に体外受精専門家が東宮御所に招かれ、その後、雅子は子供を出産した。

 しかし問題は収束しなかった。

 

・もう1人出産への圧力

宮内庁職員のリーク……わがままで公務をサボる雅子

・美智子妃との関係が破たん

体外受精専門家の失脚

宮内庁長官湯浅氏の新聞インタビューでの「もう1人ほしい」発言

 

 雅子は体調不良で入院することになった。

 

 9

 「浩宮の乱」:

 2004年、皇太子が単独で外遊に行く際の記者会見で、「人格否定発言」が飛び出した。

 

 ――「それまでの雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です」

 

 元侍従浜尾によれば、皇太子は宮内庁に宣戦布告した。

 皇太子夫妻は、他の皇族とも対立することになった。

 宮内庁は当初、雅子の症状は「メンタル」的なものであるとし、その後適応障害に変更した。しかし、外国メディアは、雅子がうつ病であると報じた。これは単なる落ち込みとは全く違う病気である。

 鬱を含む精神病にまつわる恥の意識と偏見は、つい最近まで世界中でみられた。

 日本はうつ病患者の認知数が極めて少ないが、一方自殺は多い。多くの日本人はうつ病を病気と認めておらず、「気」の問題と考えがちである。

 

 ――精神的な病気だと認めれば、時代遅れの精神病院に入れられ、薬漬けにされるのではないかという、根拠のないわけでもない恐れを抱くことも、こうした態度の一因となっている。

 

 女官(旧皇族の女性が代々務める役職)たちが、雅子スキャンダルの供給源となった。役人は宗教儀式への欠席を週刊誌でなじった。

 

 ――ある宮内庁の役人は雑誌記者に匿名で語った。

   「これはあそびじゃないんだ。公務よりも重要なくらいだ」

   苦しんでいる皇太子妃の精神状態よりもずっと重要なことは言うまでもない。

 

 宮内庁うつ病治療の権威を招いたが、公式には「うつ病」の言葉を使わなかった。あくまで雅子は適応障害だった。

 

 雅子バッシングがインターネット、メディアで盛り上がったが、問題は、今のままでは間もなく皇室が途絶えるということである。

 

 ――ほとんどの日本人は、皇室のハーレムというこのアイデアは困った時代錯誤で、そのようなものはスワジランドに任せておけばいいと考えている。

 

 皇室継承問題の現実的な解決策は、女性天皇容認(女系天皇とは別)か、旧皇族の復活である。

 2006年、悠仁の誕生により、継承問題は一時棚上げになった。

 

 10

 田嶋陽子が指摘する根本的な問題……「本当の問題は、雅子妃の公的私的な生活への制限であり、それは彼女の基本的な自由と人権を否定していると書いていたのである」。

 宮内庁は、雅子を離婚させ追い出す方法について研究を始めた。

 雅子の終わりのないうつ病と、「黒衣の男たち」、宮内庁の愚かさが強調される。

 

 悠仁誕生によって、雅子は用なしであると叩かれた。しかし、悠仁も、皇室を継続させるために男子を出産しなければならないというプレッシャーにさらされることになるだろう。

 

 ――「皇室は大使じゃないんですからね。英語を話せる必要もないんです。そのために通訳がいるんですから。彼女の仕事は微笑むことですよ」と攻撃した。

 ――義理の母親の運命を、彼女もたどることになりそうだ。……瞳から光が消え、ときたまメディアの前に姿を現したとき、その口から聞けるのは決まり文句のささやきだけである。

 ――娘の愛子が成長し、宮内庁の養育係によって型にはめられ、従順な操り人形となるのを見守るだろう。

 

プリンセス・マサコ

プリンセス・マサコ

 

 

 

『プリンセス・マサコ』ベン・ヒルズ その1 ――宮内庁による雅子バッシング、皇族への人権侵害

 ◆所感

 雅子の結婚にまつわる話、宮内庁の実態について。本書は宮内庁と外務省から圧力がかかり発売禁止にされかけたとのことである。ウィキペディアによれば、大手新聞・週刊誌のほぼすべてが広告掲載を自粛したという。

 外国人から見た日本の奇妙な点、理解に苦しむ点を多数指摘しており、このような見方もあるのだということを知る助けとなる。

 宮内庁は「黒衣の男たち」として、古代中国の宦官のように描かれている。どこまで本当かは本書だけでは判断できないが、宮内庁と皇室との確執や、雅子や愛子の病気については、国内外の報道や他の本を参考に調査する必要がある。

 テーマは雅子の苦難だが、同時に、日本に残る非人道的思考、中世的な風習を浮き彫りにする。

 

 昨今ニュースで流れる皇位継承秋篠宮家の話題は醜悪としか感じない。

 皇族らが、政治活動を許されず職業選択の自由もなく、税金で養われるしかないというのは人権侵害ではないか。かれらは子供の時から醜いゴシップやスキャンダルに晒され見世物動物のような扱いを受けている。

 

 

 1

 外務省のキャリア官僚である小和田雅子が皇太子と結婚する際、海外紙は「雅子の犠牲」、「いやいやながらのプリンセス」などと報じた。

 

・伝統的な結婚式の様子が描かれる。一部の儀式は、現代から見ると間の抜けた、原始的なものであるため(腹に米ぬかを塗り付けるなど)、非公開で行われた。

・結婚に際して、探偵が活動し、雅子の家系がアイヌ朝鮮人部落民の血をひいていないか、綿密な調査が行われた。

・雅子は皇室に入ると同時に戸籍を失い、運転免許、パスポート、その他すべてを喪失した。

・雅子バッシングの3発信源

 宮内庁……外務官僚の娘である雅子は海外生活が長く、日本人的でない。「恭しさが足りず、自己主張しすぎる」。

 旧華族旧宮家……今上天皇、その息子2人が庶民と結婚することに怒り、恨みを抱いた。

 学習院OG会……「かれらは、皇太子の結婚相手にふさわしいと信じる独身の卒業生リストを提供することまでしていた。皇太子がその全員を却下すると、かれらは怒り、裏で、またメディアに出て反雅子キャンペーンを繰り広げていた」。

 

・批判派は、結婚式の記者会見において、雅子が皇太子より28秒長くしゃべったことを批判した。

 

 ――ちょっとあつかましすぎるように感じました。なんと言っても、しゃべりすぎです。尋ねられていないことまでしゃべっています。アメリカ人のような振る舞いです。

 

 結婚後、雅子の生活、言動、話す台詞すべては宮内庁の役人にコントロールされるようになった。

 

 ――思い出してほしい、この女性は外務省の野心に満ちた外交官、世界最高の大学三校に通い、世界をまたにかけて飛び回り、日本の貿易についての経済学論文を書いた女性なのである。その年何をして楽しんだかと問われて、彼女はこう答えた。

 ――「……今年の夏、クワガタムシがここの、御所の窓の外で、弱っているのを見つけまして……とにかくクワガタが弱っておりましたので、保護いたしまして、飼育いたしました」

 

 2

 小和田家は下級武士の出身であり、父の小和田恆(ひさし)は外務省事務次官になったエリートである。

 小和田恆は、育ちの良い江頭(父親は銀行家、祖父は父方、母方ともに海軍提督)と結婚した。

 雅子は長女として生まれ、モスクワ、続いてアメリカで育ち、やがて雙葉学園に通うようになった。雅子は、多くの帰国子女と同じく、日本人らしさを身に着けるのに苦労していた。

 

 3

 オーストラリアにホームステイした時点では、皇太子は素直で明るく、また国際政治にも関心の高い少年だった。

 30代の皇太子に、かつての友人であるオーストラリア人銀行家が再会したとき、「明らかに泣きたいほど退屈して」おり、「不幸せそう」だった。

 天皇家では、子供は両親から離され、職員によって養育される。今上天皇は、よって昭和天皇からほとんど何も教わっていない。

 

 昭和天皇について……

 ――しかし、実は、裕仁はよそよそしく謎の多い人間だった。どんな質問にも「あ、そう」と答えるあいまいな態度から、アメリカ人からは「ミスター、ア、ソウ」とあだ名をつけられたような人間が、子育てに積極的な役割を果たすところなど想像できない。

 

 浩宮(皇太子)は、父の意向もあり、それまでよりも開放的な環境で育った。

 皇族は、政治から距離を置くのをよしとする風潮から、無害な趣味を持つ。昭和天皇ヒドラ今上天皇は魚類、皇太子は交通の研究に取り組んだ。

 

 4

 雅子の経歴……ハーバード大卒業後、外務省に入省する。

 ある時、宮内庁主催の食事会に招待され(外務省女性新入社員だったためか)、皇太子と出会った。

・官僚の驚くべき長時間労働、家庭の犠牲を顧みない姿勢

・女性に対する社会的な偏見、労働における性差別

 

 5

 庶民出身皇后美智子の教訓……

 

 ――年月が流れ、この聡明で活発な女性、語学が達者で音楽にも堪能な女性はゆっくりと姿を消した。近頃では、棒のように細く灰色の髪をした影のような姿となり……

 

 裕仁の妻良子(ながこ)は平民出身の美智子に冷淡だった。

 日本の皇室は、ヨーロッパのそれと異なり、外国人を遠ざけ、近親結婚を繰り返している。

 

 ――この禁止が不思議なのは、学者ならだれでも知っているように、天皇家自体に韓国の血が流れているからだ。2001年の誕生日の記者会見で、天皇明仁は、桓武天皇の生母が韓国人だったので「韓国とのゆかりを感じて」いると語った。この発言は、日本の排外的な右翼を憤激させた。

 

 雅子に関する身辺調査を通して、宮内庁は雅子排除を試みた。

 

 ――……皇太子がなんと考えようと、かれらは頭のいい、西洋で教育を受けた外交官が皇室にふさわしいとは思えなかったからだ。

 

 雅子の母方の祖父、江頭豊は、水俣病の加害者であるチッソの専務取締役だった。宮内庁は、この問題的な身内の存在を建前に、雅子と皇太子の結婚に反対した。

・外務省入省後、雅子はオックスフォードの大学院に入学した。それ以前に、浩宮もオックスフォードに留学していた。

 [つづく]

 

プリンセス・マサコ

プリンセス・マサコ

 

 

『バガヴァッド・ギーターの世界』上村勝彦 その2

 7

・ヨーガは平等の境地であり、それはブラフマンとの合一であり、知性(ブッディ)の確立である。

ヒンドゥー教の三大目的は、ダルマ(法)アルタ(実利)カーマ(享楽)である。人生の時期に応じて追求すべきとするのが一般的な教えである。

ブラフマンにおける涅槃は、生前解脱である。

 

 8

・行為の放擲をおこなったものはサンニヤーシン(放擲者)であり、家長を息子に委ね隠退した人である。

・因果は複雑なので善悪の結果がすぐに現れるわけではない。

・しかし多くの人はあまり悪いことはできない。それは「すべての人の心に仏性があるから」である。

・『ギーター』は、自己のアートマン(仏教でいえば仏性)を汚すことをしてはいけないと説く。

・行為の放擲を完遂し、寂滅状態に入ったヨーガ実践者は、瞑想を続け、絶えず自己を絶対神と結びつけ、やがて死後に涅槃を実現する。

 

 9

・ヨーガの具体的な方法について。

・万物を自己のうちに見る。

アートマンは万物に宿り、またブラフマーと一体である。よって、すべての生類に対し慈しみの心……慈悲が生じる。

・常修と離欲によりヨーガという不動の境地にいたる。

 

 10

・クリシュナは最高神であり、高次の本性=プルシャ、精神的原理を持つ。万物はクリシュナの本性(プラクリティ)に由来する。全世界はかれから生じ、かれのなかに帰入する。

・絶対的な悪人、アスラ的な悪人が存在する。

 

 大乗経典『涅槃経』では、信徒を守るための武器による自衛を認める。

 

 ――最初はひたすら純粋であった信仰が、組織になると偏執せざるをえなくなります。ここにすべての宗教教団のジレンマがあります。理想と現実の相違、個人と組織の問題などが、必ず出てくるのです。

 

・知識ある人は最高の信者となる。

 

 11

・クリシュナのヨーガは「神のヨーガ」である。すなわち「高次の本性」つまり精神的原理を、「低次の本性」つまり物質的原理に結びつけ、マーヤー(現象世界)を発動させることである。

・平等の境地を達成した人は、クリシュナに強固な信愛(バクティ)を捧げる。

・あらゆるときに最高神を念じて仕事・義務に専念せよ。

・最高のプルシャとは……最高神であり、「神人」、「原人」である。

・「オーム」の音はブラフマンの象徴である。

・最高原理ブラフマンは抽象的で愛(バクティ)の対象とはならないが、最高のプルシャは神格なのでより具体的な捧げる対象となる。

 

 12

 クリシュナの説教が続く。

・理論知は、クリシュナの本性についての知識、実践知は、それに基づいてひたすら信愛することである。

・仏教では仏を虚空にたとえる。ヒンドゥー教でも、最高神は虚空「アーカーシャ」にたとえられる。

最高神はなぜこの不完全な世界を創ったのか。それは永遠の謎である。

 

 13

・『ギーター』における最高神遍満の思想は、本覚思想とよく似ている。

・最高の信愛が最高の知識である。

・極悪人も信愛するなら救われる。

 

・社会的に上位のバラモンや王族出身聖者(王仙)のほうが、解脱に有利な条件を持っている。

 ――……このあたりに古代インド的な限界があるともいえます。

 

・日本仏教は本来の仏教から離れているという批判もあるが、著者はより優れた点もあるのではと考える。

・クリシュナの力は多様な顕れ(ヴィブーティ)を示す。

 

 14

・クリシュナの姿について。

 ――もし天空に千の太陽の輝きが同時に発生したとしたら、それはこの偉大なお方の輝きに等しいかもしれない。

 ――その時アルジュナは、神の中の身体において、全世界が一堂に会し、また多様に分かれているのを見た。

 

・クリシュナは、同時に、世界を滅亡させるカーラであることを告げます。

 カーラ(時間)は、『マハーバーラタ』の中心主題である。

 ――創造神が定めた道を誰も乗り越えることはない。この一切は時間(カーラ)に基づく。

 

 古典期の詩人バルトリハリによれば……

 ――このように、巧みなカーラ(時間)は、昼夜を2つの骰子のようにころがして、世界というゲーム台の上で、生類という駒で遊んでいる。

 

・時間のむなしさを克服するのは信愛である。

 

 15

・よい信者がどのようなものか。

 

 16

・クリシュナの信者の行動様式:正しい知識とは……

 ――慢心や偽善のないこと。不殺生、忍耐、廉直、師匠に対する奉仕、清浄、堅い決意、自己抑制

・不殺生はアヒンサーという。

・離欲、我執、四苦

 

 17

・知識の対象は最高ブラフマンである。つまり真実の自己アートマンでもある。

・『ギーター』の教えは、本覚思想に類似している。

 

 18

 神的な資質の人と、阿修羅的な人(悪人、だめな人)の具体例が示される。

無神論

増上慢

・不正な手段で富を蓄積

・社会的に成功に迷妄に陥ること

 

 19

・3つの構成要素(グナ)について。

・純質(サットヴァ)を増大させるためには、三毒を捨てなければならない。

・各々は構成要素に応じて信仰する。

 ――純質的な人びとは神々を供養し、激質的な人びとは夜叉(ヤクシャ)や羅刹(ラクシャス)を供養する。他の暗質的な人びとは餓鬼や鬼霊の群を供養する。

 

 20

 適切な食物、布施について、3つのグナに分けて説明する。

・布施をするときに見返りを求めてはいけない。普通、布施をおこなった人は優越感を、受けた人は引け目を感じる。そのストレスが蓄積してしまう。

 

 ――何か人によいことをする場合は、かえって注意する必要があります。自己満足に陥らないようにしなければなりません。

 

・布施をする相手を見極めるのは難しい問題である。

 

 ――例えばある国を資金的に援助するようなとき、結果としてその国の支配者層や日本の企業が潤うことになる。そのような場合は、まさに不適切な最低の布施です。さらに、その国の人びとを物乞いのようにばかにしたりすれば、それは最低の布施です。

 

 21

 結果に執着せず行為することで放擲と捨離(ティヤーガ)を達成すること。

・純質的な人、激質的な人、暗質的な人。

 

 ――……暗質的な行為者は、仕事に無能であり、凡庸であり、しかも頑固で狡猾で、正直でなく、怠惰で、嘆いてばかりいる。そしてだらだらと仕事を引き延ばし、なかなかやらないような人です。

 

ヒンドゥー教聖典である『ギーター』がカースト制度を保持せよと説くのは致し方のないことである。

 ヒンドゥー社会の保全に合致する思想である。

 

 22

・解脱するには知識を得たあと社会を離れる必要がある。

・個々の存在はアートマンによって支配されておりそれは最高神と同一である。

 

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)

 

 

 

『バガヴァッド・ギーターの世界』上村勝彦 その1

 『バガヴァッド・ギーター』の内容に沿って、思想や当時の物の見方を説明していく。ヒンドゥー教の世界観は、日本仏教の中にも根付いている。

 

 ◆メモ

 『ギーター』の核心は、カーラ(時間)に翻弄される存在のむなしさ、義務を果たし、結果に執着せず行為することで梵我一如の認識を得ること、真実の自己アートマンの知性を確立すること等である。

 ダルマに忠実であるとは、ヴァルナ(四姓)の与える身分を守ることである。『ギーター』は、ヒンドゥー教社会の枠組みを保持することを説く。

 なぜ、自己アートマンと世界の最高原理・最高神ブラフマンが同一であることを知るのが、重要なのだろうか。

 どういった理由で梵我一如の思想が生まれたのだろうか。

 

  ***

 序章

 ヒンドゥーの神々は日本にも伝播した。

 紀元前1100年ごろ、「ヴェーダ」と呼ばれる聖典群が成立し、バラモン教となった。

 バラモン教における神は「デーヴァ」(天)、悪魔は「アスラ」(阿修羅)である。

・最大の神はインドラ(帝釈天

 ヴァジュラ(金剛)という武器をもって悪竜ヴリトラを退治した。

・ヴァルナ(水天)はアスラの代表

・アグニ(火天)……護摩(ホーマ)をたく儀式

・ヤマ(閻魔)

・サラスヴァティ(弁才天

ヒンドゥー教における三大神……ブラフマー梵天)、ヴィシュヌ神シヴァ神

毘沙門天多聞天)は梵天の孫

ヴィシュヌ神天世界を維持する。甘露(アムリタ)を得て、吉祥天(シュリー・ラクシュミー)を妻にし、ガルダという巨鳥に乗る

迦楼羅ガルダ

シヴァ神大自在天

 韋駄天(スカンダ)と聖天(ガネーシャ)はシヴァ神の息子

・ダーキニー(荼吉尼)、マリーチ(摩利支天)、ハーリーティー鬼子母神

・『バガヴァッド・ギーター』はヒンドゥー教の代表的な聖典であり、大乗仏教にも影響を与えた。

 

 ――それは、絶対者すなわち最高神がすべてに遍満し、個々のもののうちにも入りこんでいるという考え方です。言いかえれば、我々個々人のうちに神の性質があるということです。

 

 ヒンドゥー教の要素は如来蔵思想、天台宗の本覚思想につながり、日本人の宗教観に深く影響した。

 

 1

聖典について……

 『リグ・ヴェーダ

 『マハーバーラタ』:ヴィヤーサ作、バラタ族間の戦争

 『ラーマーヤナ』:ヴァールミーキ作、ラーマの冒険

 「プラーナ」:古い伝承

 『マヌ法典』:「法」ダルマ、教徒の守るべき宗教的・社会的な義務を説いた書

 『アルタ・シャーストラ』:アルタ(政治経済などの実利)を説く

 『カーマ・スートラ』:カーマ(性愛を代表とする享楽)を説く

・『マハーバーラタ』中の『バガヴァッド・ギーター』は、代表的な聖典である。

 

 叙事詩は、カーラ(時間)に支配される人間存在のむなしさを説く。

 

 ――この世に生まれたからには、自分に定められた行為に専心すること、これこそ『ギーター』の強調するところでもあります。

 

 2

 勇士アルジュナは戦争に際し怖気づき、親友クリシュナ――実は最高神の化身に相談する。

・個人の中心主体(個我)は永遠に存在している。

・あらゆる生死、苦楽は平等である。それを悟る賢者は、生死を解脱することができる。

・悟った者は輪廻転生から解放される。

・仏教では輪廻の中心主体としての我を否定し「無我」を説いたが、やがて大乗経典の時代には「我」を認めるようになった。

・自己の義務(ダルマ)を放棄すべきではない。よって、クシャトリヤたるアルジュナは戦うべきである。

 

 『ギーター』は人殺しをすすめていると解釈される危険もあるが、著者によれば、無差別な殺人を肯定しているわけではないという。

 日常的な道徳観に基づき、クシャトリアや戦いを、シュードラは隷従を義務として果たすべきだという。

 

・あらゆる行為は、悪い結果をもたらす。これを「業」(ごう)という。初期仏教は、一切の世間における行為を捨てよと説いた。

 クリシュナは、この世のすべてを平等とみれば、戦いにおいて殺しても罪悪を得ることはないという。

 

 3

・結果を顧みずに行為することが重要である。

 

 ――あなたの職務は行為そのものになる。決してその結果にはない。行為の結果を動機としてはいけない。また無為に執着してはならぬ。

 

・『ギーター』における「ヨーガ」とは、「平等の境地」を意味する。

・知性(ブッディ)のヨーガの確立が重要である。ブッディ・ヨーガとは、行為の結果を動機としない知性である。

・確立した人物は自らアートマン(自己)において満足する。

・対象に執着すると欲望が、さらに怒りが、さらに迷妄が生ずる。仏教でいう貪瞋痴、三毒である。

ウパニシャッドの中心思想……宇宙の最高原理ブラフマンと、個人の中心主体である真実の自己アートマンは同一である。すなわち「梵我一如」である。

・ブラフマ・ニルヴァーナとは……自己とブラフマンが一体化した境地においおて、我執なく行動し寂静に達していること。

 

 4

・行為は無為よりも優れている。

 

 ――人は行為を企てずして、行為の超越に達することはなく、また単なる行為の放棄によって行為の超越に達することはない。

 

六派哲学のうちのサーンキヤ学派……純粋に精神的な原理プルシャと物質的な原理プラクリティ(根本原質)

 プラクリティは3つのグナ(要素)からなる……純質(サットヴァ)、激質(ラジャス)、暗質(タマス)

・行為をやめても思考器官(マナス)は働いている……身口意

・祭祀のための行為……行為をブラフマンに捧げることが重要である。

 

 ――すべての行為を私(最高神クリシュナ)のうちに放擲し、自己(アートマン)に関することを考察して、願望なく、「私のもの」という思いなく、苦熱を離れて戦え。

 

・『ギーター』の主題……すべての行為をクリシュナに捧げよ

・クリシュナは、無条件の、全面的な信頼と服従を要求する。

・人間は欲望(カーマ)に応じて悪をおこなう。

 

 5

・クリシュナは過去の生すべてを知っている。クリシュナは永遠に存在し、プラクリティから自己のマーヤー(幻力)により出現する。

・クリシュナは『法華経』における「久遠の本仏」である。

・しかし、だれもが永遠の存在なのである(真如観)。

・行為のヨーガを得るためには、知識のヨーガが必要である。この2つはお互いに不可欠である。

・3つの知識……一般的な知識、最高神に関する知識、「真理そのものである、完成にいたった知識」。真実の知識とは、梵我一如を覚ったことをいう。

 

 6

・行為の放擲(サンニヤーサ)は、行為を捧げること。

 

 ――一般に、ヨーロッパの考え方では、個性があったほうがよいとされますが、ヒンドゥー教や仏教の考え方では、個性がなくなったほうがよいとされます。個性があるうちは、生まれ変わる。輪廻を続ける。古代インドでは、輪廻は苦しみと考えられていました。……その輪廻から脱すること、抜け出ることが解脱です。

 [つづく]

 

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)