うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『太陽系はここまでわかった』コーフィールド

 太陽系の各惑星を解説する本。天文学者や惑星探査機の働きに焦点をあてている。
 地球の外に生命が存在するのかという疑問は、長年の間、天文学者や技術者たちの関心を集めてきた。

 ◆メモ

 探査機の無線通信システムについて、また、エウロパやタイタンといった生命存在の可能性がある星について興味がわいた。

 

 1 太陽

 太陽と人間の関わり……ストーン・ヘンジは、目的は不明だが、太陽の物理的な位置を用いて建設されている。

 太陽の諸元:

・地球の12000倍の表面積、100倍以上の直径を持つ。

・黄色矮星で、あと50億年ほど生き残る。

黒点は太陽の表面温度が低い部分で、遷移する。太陽の完璧さを穢すものとして、宗教的にも異端視された。ガリレオ黒点を発見したがその公表に際し教会から迫害を受けた。

・パイオニア探査機、スカイラブ計画、2001年のジェネシス探査機等。

 

 2 水星

・公転周期は88日である。

・1973年、米国のマリナー10号は水星に向かった。このときに、惑星の重力井戸を利用し方向変換・推進させるスイングバイ技術が確立された。

・マリナー10号の装備……ヴィディコンカメラ、赤外線輻射計、紫外線分光計、磁力計、プラズマ検出器、無線テレメトリーシステム。

・水星には大気がほとんどなくあるのは希ガスのみである。また、磁場を持つ。

 

 ――(ダイポール磁場)は、地球と、地表にしがみつく生命体の薄い皮フを、太陽から飛んでくる高エネルギー粒子による破壊から守るという、極めて重要な役割を担っている。

 

・クレーターが存在する。地殻変動がないため、衝突の痕は永遠に残っている。

・2004年メッセンジャー探査機

・水星は最も小さく、高密度で、最古の表面を持ち、1日での表面温度の変動は最大である。

 

 3 金星

 厚い大気に包まれているため、金星には生命が存在すると昔から考えられてきた。1962年、マリナー2号探査機の示した結果によれば、金星表面は500度以上だった。

 70年代にはソ連のヴェネラ探査機群が金星の解明に貢献した。

 1990年にマジェラン探査機が新たな情報を入手した。

 金星の大気組成は複雑である。地表は地殻変動がなく、火山活動によって表面が刷新される。水が太古に失われ、温室効果が促進されたために高温の大気となった。

 

 4 地球そして月
 地球は比較惑星学において基準となる。本章では生命と月について説明される。

 

 生命の定義は難しいが、以下の特性が条件とされる。

・複製する。

代謝を行う。

・無秩序から秩序を作り出す(熱力学第二法則との矛盾)。

自然淘汰による進化の可能性

 

 2009年、月の南極に液体の水が存在する証拠が発見され、人類植民の可能性が高まった。

 

 5 火星

 ソ連が金星を開拓した一方、火星はアメリカによって開拓された。70年代、NASAヴァイキングミッションにより火星の謎の解明に乗り出した。

・米国の宇宙開発機関……NASA、JPL(ジェット推進研究所)、NAS(アメリカ科学アカデミー)

 地球外生命の可能性を探る過程で、ケイ素生命体の存在が提唱された。

・火星表面は月に近く、地殻変動がなく、大気はすべて二酸化炭素である。地形は豊かであり、24000メートルのオリンポス山がある。

 1977年、カール・セーガンが、火星に生命は存在しないと論文にて主張した。

・1997年:マーズ・パス・ファインダー

 2006年:マーズ・リコニサンス・オービター

 2003年:スピリットとオポチュニティ

 

 ――かれら地質学の先駆者たちは、ハンマー、ノート、拡大鏡を具えていた。今日、スピリットとオポチュニティーも、天空に赤い点として見える世界の上で同じことをしている。ハンマーは自動研磨装置を備えたロボットアームに、ノートはフラッシュメモリ・コンピュータチップとハイゲイン・アンテナに、そして拡大鏡は高解像度デジタルカメラに置き換わっているが、基本的には同じだ。

 

 6 小惑星Asteroids

 小惑星は惑星の構成部分になれなかった物質である。火星と木星との間にある小惑星帯は、木星の重力のために1つの天体になれなかった。

 地球近傍小惑星が約1000個あり、ぶつかれば大きな被害を及ぼすだろう。

 JAXAはやぶさは、小惑星イトカワに着陸し、サンプル回収に成功した。

 小惑星の衝突を回避する方法が検討されている。

 

 7 木星

 太陽系最大の惑星であり、ガリレオ衛星(イオ、エウロパカリスト、ガニメデ)を含む、67の衛星を持つ。

 

 ――木星の周辺領域からは人間を数秒で死に至らしめる量の放射線が発せられていることを発見した。

 

 ほぼ全体が液状で、圧縮水素とヘリウムが全体を占め、大気はアンモニア、メタン、水蒸気の混合物からなる。

 探査機ヴォイジャーは衛星の調査を行った。

・イオ……活発な火山活動

エウロパ……分厚い氷の層を持つ。

・ガニメデ……太陽系最大の衛星

カリスト……クレーターのある古い表面

 エウロパ、ガニメデ、カリストは凍土の下に水を持っている。

 ガリレオ探査機は1995年木星に到着した。

 

 8 土星

 宇宙船カッシーニホイヘンスが打ち上げられ、衛星タイタン等を調査した。

 

 9 天王星海王星

 18世紀の天文学者ウィリアム・ハーシェルは自作の天文台によって天王星を発見した。

 天王星は横倒しで自転しており、また環を持つ。また、衛星を持つ。

 その後、海王星が発見された。大気が活発で、風速は時速2000kmに達する。

 海王星の衛星トリトンは、炭素、アンモニア、窒素、水素、酸素等の有機物質を大量に持つ。温度はマイナス200度以下であり、生物の可能性はほぼない。

 

 10 冥王星カイパーベルト

パーシヴァル・ローウェル……アリゾナに私立天文台をつくり、冥王星を探し続けたがかなわなかった。

・クライド・トロンボーは1930年、冥王星を発見した。大きさは月より小さく、大気は薄い。

 冥王星に似た軌道、大きさの星が多数存在することがわかり、冥王星準惑星に格下げされた。

・太陽系外縁天体の分類……カイパー・ベルト、散乱円盤天体、オールト雲天体

・ヘリオポーズ……太陽風が星間物質と混ざり合う境界面

 太陽系外惑星の観測、発見も、近年になって進められている。

 

太陽系はここまでわかった (文春文庫)

太陽系はここまでわかった (文春文庫)

 

 

『KGB帝国』エレーヌ・ブラン その2

 第2次チェチェン紛争は政府側によって意図的に引き起こされたのではないかと考えるジャーナリストがいる。

 

 ――テロ対策はすべての人を結束させる最高の口実だ。

 ――彼(プーチン)はアンドロポフとブレジネフ双方の血を引いた雑種的人物だ。

 ――プーチンにとって、このチェチェン紛争が必要なことは明らかだ。2000年には、この戦争を踏み台にして国家元首になり、2004年に再選されるためにもこの戦争が役に立つのだろう。

 

 シロヴィキ(KGB、軍、内務省出身者)が国家を掌握しているのがロシアの過去であり現在だという。

 

 ――「ブッシュとプーチンの違いを知っていますか?」

   「前者は戦争をするために大統領になったのです。後者は大統領に選ばれるために戦争を始めたのです……」

 

 4

 エリツィンからプーチンへの交代は、KGBが決定した事項である。エリツィンの下で3度首相の交代があり、その全員がKGB出身者だった。

 プーチンKGB時代に海外工作員として勤務した。また、サンクトペテルブルク市長サプチャークの下で働いたときは、大規模な汚職に関与したという疑いがある。

 2000年の大統領選挙だけでなく、その後の議会選挙、大統領選挙にも、不正と操作の疑いがある。

 

 プーチンの発言。

エリツィンは私たちが選んだ」

 大統領選直前に起こされたチェチェン人によるモスクワ爆弾テロ事件は、KGBによる工作だという疑いがある。そのことを暴露したKGB将校リトビネンコは暗殺された。

 

 5

 プーチンによって変質したロシアについて。

 KGBの指令を受けたプーチンは、専制体制を強めた。チェチェン人のテロにより恐怖を煽り、国民の支持を得た。

 新興財閥を統制し、またロシアを発言権のある国に復帰させる一方、KGB=国家のマフィア化は進み、厳しい情報統制・言論統制が敷かれた。

 プーチンが民主主義者であるというのは全くの誤解である。著者によれば、かれはKGBの一員であり、警察国家、強権国家を志向している。

 

 6

 プーチン体制とは、共産党を失ったロシアがKGBによって完全に掌握された体制である。

 KGBは過去の弾圧や犯罪行為を認めておらず、またプーチンKGB出身者であることに誇りは持っているが反省はまったくしていないという。

 

 ――それでは、KGB工作員とはどのような人間だろう? プーチンがその典型だと言える。冷静さ、辛辣さ、感情を表さない技、嘘をつくこと、芝居をすること、演出をすること、二枚舌、三枚舌の使い方などを教えるKGBの特別養成学院で教育を受けた「チェーカー」の人間である。彼らは命令には盲目的に従い、いくら野蛮な指示を受けても、躊躇せずにそれを実行するように教育されるのだ。

 

 ――ソ連政権の力であるKGBが、民衆の人間的弱点(貪欲さ、極端な愛国主義、恐怖、意気地なさ)や蔓延化した密告に基づいた容赦ない弾圧システムであったことを覚えておいていただきたい。

 

 プーチンの選挙用パンフレットより。

 ――スターリン時代にも、その後にも、ロシアに政治的恐怖時代があったとは思わない。そのようなことを考えたこともないし、迫害が行われたと想像したこともない。

 

 7

 KGBロシアによる工作活動は活発である。フランスは伝統的に親ロシア感情が強いため、利用されてきた。

・新聞、テレビ、言論、有料ニュースレターによる情報操作や洗脳

・亡命ロシア人を装ったKGB職員による反体制派情報の収集、国際結婚、研修目的での浸透

・ロシアン・マフィアの進出……資金洗浄、売春産業、暗殺の横行

 

 ――私は、一国の市民全体が、騙されることがあり得ると教えられてきた。騙されていても疑わないのである。そのような時に、黙っていてはならない。黙っていることは騙そうとしている人びとの共犯になることだからだ。私は祖国の危機を傍観していたとは言われたくない。

 

  ***

 

KGB帝国―ロシア・プーチン政権の闇

KGB帝国―ロシア・プーチン政権の闇

 

 

『KGB帝国』エレーヌ・ブラン その1

 本書の目的:1982年から2004年にかけての、ペレストロイカソ連崩壊、プーチン政権誕生までを説明し、情報機関KGB=FSBが国家権力を掌握していった過程を明らかにする。

 

 ◆所見

 フランスから見たプーチン・ロシアのイメージの1つ。

 KGBが単なる情報機関ではなく、国家の隅々にまで根を張った特殊組織であり、財閥、マフィアと一体化している事態を明らかにする本。

 本書で描かれるKGBは、親衛隊のような巨大な組織であり、またロシアは民主主義、人権、自由の概念が存在しない土地である。
 言及されているジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤや、亡命者リトビネンコは実際に殺害されている。さらに他の本も読んで、ロシアがどのような国家であるかを調べる必要がある。

 最終章では、フランス社会に入りこむKGBロシア工作員について警告を発している。その様子が、「工作員に囲まれている」という被害妄想そっくりなので笑ってしまう。しかし、いくつかの工作員事例は実際に明らかになっているのが恐ろしい。

 

 なぜプーチンは日本でも人気があるのか。

・強いリーダー像

・過激な発言……暴言、放言の多い指導者はいつでも人気

KGBやスパイ映画・小説へのあこがれ

・国営メディアの報じるプーチン武勇伝(飛行機操縦、柔道、熊退治)を素直に受け入れる


 1

 1950年代以降、ソ連汚職と腐敗が進んだ。ノメンクラトゥーラ(共産主義エリート、共産貴族)とマフィアが一体化し、計画経済の裏で闇の経済を動かし、国民の富を略奪した。

 KGB出身のアンドロポフは、ソ連の内部崩壊を把握していたため、汚職追及により共産党を浄化しようと試みた。かれは、あくまで厳格な管理によって現状を修正していこうと考えていた。

 ゴルバチョフはアンドロポフらKGBの指令を受けて国家元首となった。

 ペレストロイカは、腐敗組織となった共産党を排除し、KGBによる管理を強化しようとする試みだった。ペレストロイカは、ゴルバチョフが書記となる3年前に、KGBによって定められていた方針である。

 ソ連プロパガンダとは異なり、ゴルバチョフは実際にはマルクス・レーニン主義者であり、ソ連体制を保守しようとしていた。

 1991年のクーデタは、ゴルバチョフエリツィン、保守派による芝居であった可能性が高い。

 ゴルバチョフの評価はロシアでは限りなく低い。

 何の作戦もないまま政治の自由化を始めたため、国家そのものがKGBとマフィアに牛耳られたからである。

 

 2

 エリツィン大統領とガイダル首相による急激な自由化政策は次のように形容される。

 

 ――普通の市民がどうにかして超インフレの中を生き延びようとしている中、旧来の指導階級は「民主主義者」に急変して、「人民の財産」を山分けし始めた。臆面のない彼らのほとんどは、自分たちの意図を隠そうともしない。国の莫大な天然資源を私有化し、海外に向けて大量の資本と物資の流出を企てるのである。ロシア国家が完全に疲弊してしまうかもしれないというのにだ。

 

 政府は少数の資本家を育成しようとした。こうして国家資産を私有化する新興財閥(オリガルヒ)が出現した。

 

 ――エリツィン時代には、新体制に順応するように見えていたKGBは、ソ連時代以上に強力になった。……エリツィンから実権を奪い取った元KGBが密かに国を治めているのだ。

 

 地方議員や連邦議会の大半が、身分を偽ったKGB将校で占められるようになった。

・1991年 守旧派クーデタ

・1993年 10月政変 ルツコイ、ハズブラドフらの議会クーデタ

・1999年 エリツィン辞任

 

 3

 ソ連解体後の独立紛争を先導したのは軍・KGBだった。ロシア軍と現地の武装勢力は武器や村(占領地)を売買した。ロシア軍は武器庫を自分たちの武器庫を略奪させることで報酬をもらい、足りなくなった武器は中央から支給させた。

 チェチェン紛争もまた、チェチェン人の伝統的な独立意識を利用した、ドゥダーエフらチェチェンマフィアとロシアンマフィアとの抗争だったという。

 チェチェンには石油の製油所があり、この権益をめぐって双方が争っていた。さらに、戦争によって蓄財できる者がチェチェンにも政府中枢にも多数存在する。

 

 [つづく]

 

KGB帝国―ロシア・プーチン政権の闇

KGB帝国―ロシア・プーチン政権の闇

 

 

『五・一五事件』保阪正康

 五・一五事件は1932年に発生した。

 五・一五事件をきっかけに台頭した、国民のなかのファシズムと、事件の関与者である愛郷塾の創設者橘孝三郎とを検証する。

 厳密には歴史の本ではなく、著者が調査結果をもとに再構成した劇である点に注意する。

 

  ***

 橘孝三郎の生い立ち、活動、五・一五事件への関与までをたどる。

 

橘孝三郎茨城県水戸市で生まれた。一高に入学し、哲学……カント、ベルクソン等に熱中した。やがて、中退し農業に従事する。

・橘の農本主義は、ロバート・オウエンの共同体事業を参考にしたものである。家族や、橘を慕う知人・友人とともに、「兄弟村」をつくり、農村共同体の建築を試みた。

 武者小路実篤率いる白樺派も、「新しき村」という共同体建設を行っていたが、武者小路の指揮についていけない者が多くなり破産した。

 橘の農本主義が描く農村像も、かれの個人的な世界観を強く反映したものであり、そこに多様性や自由はない。

・昭和恐慌によって農村の貧困が加速し、国民の一部は過激化した。満州事変は国民を熱狂させ、また国内政治を革新する運動が盛んになった。

・橘は農本主義の立場から反マルクス、反マルサスを説き、県の支援も受けて演説活動を行っていた。

 やがて、クーデターを企画する下級将校や、井上日昭らと知り合い、かれらに同調していった。

・政治家の中で、森恪、平沼騏一郎等、軍や民間右翼と協力する者が多くなった。

 

  ***

 ◆所見

 橘孝三郎とかれの門徒たちは、農村を救済し、農村を基盤として日本を復興するという目的を持っていた。

 しかし、テロリストや革新派軍人に同調し、最終的に橘自身も、発電所の襲撃を指揮し逮捕された。橘は満州に活路を見出そうと出国していたところを追跡され捕まった。

 貧困を解決しようとする人物たちが、テロやクーデターという安易な手段に依存していく様子が描かれている。

 満州国ユートピアを見出したのは、橘だけではなかった。多くの知識人や左翼活動家たちが、満州国を基盤に自分たちの思い通りの社会が作れると考えた。

 五・一五事件に対して、軍人や国民は同情的だった。憲兵は実行者たちを国士として扱った。

 「やったことは悪いが、かれらの思いは正しい、立派だ」という正当化が世論となった。

 五・一五事件を境に、政党政治は終わり、さらに軍人や民間右翼、ファシストの政治的な発言力が増大した。

 橘孝三郎と愛郷塾は、農業改良運動から、過激な武装集団に変質することによって、地道に改善を続けていくことを放棄したと考える。

 「動機が正しければ行為が間違っていてもよい」という思考を、山本七平は『現人神の創作者たち』で批判した。

 世間の大多数が、安易な解決手段や暴力を肯定したとき、その動きを止めるのは困難であることを認識しなければならない。また、そのような潮流におもねることも絶対に避けなければならないと感じる。

 出所後の橘孝三郎は、天皇主義者、右翼の大物の地位に納まっており、まったく興味をひかれない。

 

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 首謀者たちだけでなく、社会状況や政治の様子についても書かれている。

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 メモ

・海軍軍人……1930年のロンドン海軍軍縮条約に不満を持つ勢力

・海軍・陸軍、右翼(大川周明)、農民決死隊(橘孝三郎と愛郷塾生)

 

五・一五事件―橘孝三郎と愛郷塾の軌跡 (中公文庫)