うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『全貌ウィキリークス』 その1


 内部告発サイトであるウィキリークスと、その創設者ジュリアン・アサンジについての本。

 ウィキリークスはサイバー空間におけるセキュリティに対しても影響を与えた。

 

  ***

 ジュリアン・アサンジの方針

 本書から読み取れるのは、アサンジが技術者であるとともに、強い主義主張を持った政治活動家であるということである。かれは秘密の情報を全世界に明らかにすることにより、権力の不正を告発する、という報道・ジャーナリズムの本来の目的を達成しようと考えている。

 伝統的なメディア、すなわちテレビ局や新聞は、政府や経済界との軋轢を避けるために、報道内容を事前に打診し、自粛するなど、報道機関本来の役割を見失っている。

 ウィキリークスは自分たちの活動の公開に際し、伝統的なメディアと協力しながらも、第5の権力としての任務をまっとうしようとする。

 アサンジはオーストラリアで生まれ、ヒッピーの母親に連れられて国内を転々とし生活した。コンピュータにはまり、ハッカー活動に熱中するようになる。

 やがて、独裁国家や大国が隠している情報を盗み出すことに意義を見出す。

 彼は、インターネットとコンピュータ技術が情報を民主化するという未来に希望を見出した。

 ――「舞台裏を見てみたい」というのが彼の動機だ。部外者の目に触れない情報が、彼にとっては戦利品のトロフィーだった。「極秘」レベルのデータや文書が目当てだったのである。「そこには解説抜きの、世界の真の姿がある。それは写真のように嘘がない」

 「ウィキリークス」設立の構想が進められた。ウィキリークス内部告発者を支援し、情報を精査し公開するためのウェブサイトである。ウィキリークスへの投稿については、投稿者の身元が保護されるような技術が利用されている。

 また、情報の信頼性、真実性を検証するために、アサンジに賛同するスタッフらが動員された。

 

 アサンジはカリスマ性を持つが独善的な人物として描かれており、このためウィキリークスに内部対立が起こり、離反者を生むことになった。

 ウィキリークスは、内偵者や密告者の保護のために情報の一部を秘匿することはあるが、それ以外は原則として無差別に公開することを方針としている。

 一方、同じ情報公開活動家の中でもアサンジらを批判する者たちは、個人情報の保護が軽視されていると訴える。

 

  ***

 ウィキリークスの主要な活動

 1 ケニア等新興国の機密を公開した。このとき、告発者として疑われた外国人をケニア政府は暗殺した。情報公開とその行為に伴う責任を考える契機となった。

 2 ユリウス・ベア銀行、ドイツの情報機関は、公開された情報の撤回を求めてウィキリークスに圧力をかけたが、逆にそのやりとりも曝露されてしまった。

 3 技術要員として海兵隊に入隊したブラッドリー・マニングは、米軍がイラク市民とロイター記者2名を武装ヘリで殺害したビデオを秘密システムから持ち出し、ウィキリークスに手渡した。

 本映像は「コラテラルマーダー(付随的な殺人)Collateral Murder」ビデオとしてアサンジらによって編集を施された。

 マニングは自ら知人のハッカーに行為を打ち明けてしまい、通報により逮捕された。

 4 米軍の作成したアフガン戦争日誌を公開した。オバマ大統領の政府はウィキリークス及びアサンジを非難し、保守派はアサンジを逮捕すべきと主張した。

 5 イラク戦争日誌が公開された。この中には政府が隠ぺいしていた死者の顛末が記載されており、また、イラク軍による捕虜や市民の拷問、殺害を、米軍が黙認していたことも明らかになった。

 [つづく]

全貌ウィキリークス

全貌ウィキリークス

 

 

『現代アラブの社会思想』池内恵

 アラブ世界に共通するアラブ思想の袋小路について。

 

 1967年、第3次中東戦争の敗北により、パレスチナイスラエルに占領された。

 以後、マルクス主義過激派とイスラーム主義が勃興し、双方ともテロと暴力の温床となった。

 現代のイスラーム主義は、終末論に陰謀論とオカルト思想が混交している。アラブ諸国の書店や露店には、安っぽい陰謀論の本があふれかえっているが、かれらはこうした書籍を真面目なものと受け止める。

 世界の終末がやってきて、偽預言者ダッジャールたるアメリカとイスラエルが、またUFOと宇宙人が、人びとをだましおとしいれようとする、といった荒唐無稽な言説が、一般市民のみならず知識人や政治家、エリート層に間にまで広くいきわたっている。

 そこには、アラブ世界の問題はすべて外部の敵が原因だとする思考回路が垣間見える。

 

 アラブ諸国の政治家や官僚には、アラブ現実主義とでもいうべき実際的な思考の持ち主もいるが、かれらの政治に一般市民は参加できない状況である。

 結果、市民は過激なイスラーム主義や陰謀論、終末思想にはまっていく。

 

  ***

 セム教は元々、終末論と関係が深い。

 ユダヤ教は、真の救世主が来るまでに、偽の救世主やどちらともつかない救世主が無数に出現するだろう、と唱えることで、終末を引き延ばしている。

 キリスト教は、イエスが生まれたことで救世主が現れたが、さらにイエスが再臨するまでに間がある。
 イスラームは、原始的な終末思想を今も色濃く残している。来世は物質的、精神的、性的満足を満たす楽園として描かれる。一方、地獄はあらゆる苦痛を伴う世界である。

 こうしたイメージをイスラームは想起させる。

 

 終末を彩るものたち……偽預言者ダッジャール、ヤージュージュとマージュージュ(ゴグとマゴグ)、終末の獣等。 

現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

 

 

『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア

 タイムスリップ、宇宙人、架空の作家といった道具を使い、第二次大戦における経験を伝える物語。

 主人公は自分の半生を次々に移動しながら、ヨーロッパで捕虜となり、ドレスデン空襲を目撃した思い出を語る。

 戦時中、人びとはみじめに死んだり、こっけいに死んだりする。ドレスデンのじゅうたん爆撃を受けた後、町は「月面」そっくりになっており、捕虜たちが地上を歩いて郊外に避難するあいだ、生きている人間はまったく見当たらなかった。

 戦争や人間の蛮行に対する強い嫌悪が感じられる。

 短い断章が繋ぎ合わされてつくられており読みやすい。「そういうものだ」、という台詞の繰り返しが印象的である。

 

 

『暴露:スノーデンが私に託したファイル』グレン・グリーンウォルド その2

 

 ――しかし、社会の自由を計るほんとうの尺度は、その社会が反対派やマイノリティをどう扱っているかということにあるのであって、「善良な」信奉者をどう扱っているのかということにあるのではない。……人はただ国家の監視に怯えたくないからといって、権力者の忠実な信奉者になるべきではない。

 ――つまり、民主党の政治家も共和党の政治家も、権力を追求すること以外には確たる信念もなく、節操のない偽善をおこなう傾向にあるということだ。……実際、いくつもの政府が昔からこの手を使って、自分たちの抑圧的な行為には眼をつぶるよう国民を言いくるめてきた。正しかろうとまちがっていようと、社会の片隅にいる取るに足りない人びとだけが抑圧のターゲットになるのであり、それ以外の人間全員にはそうした抑圧が自分たちに及ぶ心配など無用であり、そうした権力の行使を黙認し、支持さえできるよう信じ込ませてきた。

 

 監視の恐怖は、政府に従順な生き方だけを強要するようになる。

 テロ対策という弁解が蔓延し、政府の権能拡大が過剰におこなわれている。

 

 ――絶対的な肉体の安全を求め、プライバシーをないがしろにすることは、個人の健全な精神と生活に害を及ぼすだけでなく、健全な政治文化の弊害にもなる。個人にとって安全至上主義が意味するものは、自動車や飛行機に乗らず、リスクが伴う活動に参加せず、人生の質より長さを重んじ、危険を避けるためならどんな対価でも払うという、無気力と恐怖に満ちた生活だ。

 ――絶対的な安全というものはそもそも幻でしかなく、どれだけ求めても手に入らないものだ。

 

  ***

 第4の権力である報道機関は、実際は政府及び大企業のパートナーである。

 かれらの出自は同じ富裕層、高学歴であり、人材交流も盛んである。

 合衆国における新聞社やテレビ局は、内部告発をする場合あらかじめ政府の許可を得る慣習がある。政府の意向に反する報道をした場合、様々な措置をとられるからだ。

 スノーデンの内部告発をもっとも真摯に受け止め記事にしたのはイギリスの「ガーディアン」だった。

 内部告発後、合衆国のメディアの中から、スノーデンを負け犬、異常者、情緒不安定の者として誹謗中傷する者が多く現れた。また、根拠なく中国やロシアのスパイであると断定する主張が唱えられた。

 スノーデンに協力した報道関係者は犯罪者の扱いを受けなければならない、と一部のニュース関係者は言った。

 

 ――……ジャーナリズムはどのような形であれ、どうしてもなんらかの勢力に与することになる。……意見を持たないジャーナリストなど存在しない。自分の意見を率直に表明するジャーナリストと、自分の本心を隠し、まるで意見を持たないかのようにふるまうジャーナリストがいるだけのことだ。

 英国の政府通信本部は「ガーディアン」に対し法的措置を行った。新聞社にやってきた通信本部職員は、社が受け取った機密書類のデータを粉砕させた。

 

  ***

 スノーデンは、憲法の理念に基づき、市民の自由とプライバシーを守るために行政府の行為を告発した。

 政府とその利益共有者たちは、テロ対策の名のもとに、無制限の権限を行使している。しかし、わたしたちは名目に中身が伴っているのか、実効性があるのかを検討しなければならない。

 このような行為は、事なかれ主義の生活だけを守ろうとしていては絶対に達成することができない。そのような生活に、自分の理念や信条はなく、ただ政府や権力保持者に付き従う習性があるだけである。

 

暴露:スノーデンが私に託したファイル

暴露:スノーデンが私に託したファイル