うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『暴露:スノーデンが私に託したファイル』グレン・グリーンウォルド その1

 元NSA(合衆国国家安全保障局)職員のスノーデンが、NSAによる違法な国民監視活動を告発する。

 現行憲法は国民のプライバシーを保障しているが、NSAはこれに違反した行為を秘密裏に実施していた。

 建前上は、外国諜報活動監視裁判所の許可を得た対象のみ、通信電子監視が行えるということになっているが、スノーデンの持ち出した文書からは、この裁判所が書類手続きにすぎず、実際は無制限の監視ができる状態にあることが理解できる。

 

 主な行為については以下のとおり。

・IT及び電信企業(ベライゾン、AT&T、グーグル、マイクロソフトフェイスブック、ヤフー、シスコ等)に命令を出し、すべてのアメリカ国民の通信記録、通信メタデータを提出させ、収集、分析対象とした。

・合衆国の主要箇所に設置されたインターネットインフラの要衝に器材を設置し、通過するデータを傍受した。

・国産のネットワーク機器を押収し、データ収集のためのプログラムを不正に取り付けて国外等に輸出した。

・外国人及び外国首脳、国際的な経済会議、ブラジルの石油企業等の通信を傍受した。なお、外国人については令状なく通信記録を収集することが可能である。

 

 このような行為は、NSAが大量に外注した民間企業と、提携企業とのチームワークによって行われていた。NSA幹部は、「全てを収集せよ」との方針に基づき、合衆国民のみならず全世界の通信を掌握することに努めた。

 NSAの主な協力国は「ファイブ・アイズ」と呼ばれるアングロ・サクソン諸国……英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドである。しかし、一部の情報は国外秘である。

 その他、ヨーロッパ諸国やイスラエル、日本、インド等も関与しているが、こうした第3国は同時にNSAの監視対象でもある。

 

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 スノーデンはIT技能を生かしてNSAやCIAで勤務するうち、合衆国の政策が憲法の理念に反しており、また国民の自由と権利を脅かすものであると確信するようになった。

 現代人はインターネットによって自己の生活を実現しているが、その自由が失われようとしていることにスノーデンは危機感を抱いた。

 リーク記事の発表後、スノーデンは合衆国から追われる身となった。また、内部告発に協力した新聞社やジャーナリストも当局の捜査を受けた。

 政府は、対テロ捜査のために国民監視はやむを得ないとの見解を発表した。しかし、それまではこの事実を否定していた。

 スノーデンの告発は大きな反響を呼び、NSAの活動は非難された。

  ***

 なぜ国民監視システムは自由と民主主義を重んじる社会にとって害悪なのか。

 第1に、政府がどこでも監視、傍受することができるという意識は、それだけで国民の自由な発言や思想、活動を委縮させる。実際にユビキタス監視が行われているかどうかは問題ではない。そうした監視が存在するという思いが脳裏にあるだけで、人間は自主規制を行うようになる。

 第2に、対テロ捜査の対して実効性があるかどうかに疑問がある。テロリスト関係者に対し個別の監視をつけるのは有効である。しかし、NSAの「PRISM計画」のように、無制限に全通信記録を収集することは、重要なデータを見落とす結果につながる。

 NSAの監視システムが存在するにも関わらず、ボストンマラソンのテロは防げず、その他のテロもまったく検知できなかった。

 第3に、行政府が無制限の権能を持つことにより被害を受けるのは、テロリストや反社会性組織だけではない。

 FBIはかつて公民権運動家や左翼、反体制右翼等を監視していた。

[つづく]

 

暴露:スノーデンが私に託したファイル

暴露:スノーデンが私に託したファイル

 

 

『エル・アレフ』ボルヘス

 歴史、神話、アラビアの哲学や神学を題材にしたボルヘスの短編集。

 古代ローマ、中世と舞台は様々である。「円環」と紹介されている通り、無限、時間の繰り返し、ループを適用された話が多い。

 「不死の人」は、古代の旅人が不死の人びとを発見し、自らも不死の体験をする話。

 「タデオ・イシドロ・クルスの~」では、主人公の過去が反復される。

 「アステリオーンの家」、「二人の王と二つの迷宮」、「エル・アレフ」では、現実に無限回廊や無限迷路、全宇宙を凝縮した特異な一点が登場する。

 ボルヘスは南米の無法者と遊牧民たち、ガウチョたちにも関心を持ち続けた。

 「死んだ男」は典型的な悪党の話。

 「神学者」は古代のキリスト教宗派を巡る争いの話だが、最後はドッペルゲンガーを連想させる。

 

 歴史、古典からの引用が多く、話の展開も百科事典のように圧縮されている。それは参考になるが、退屈な話もある。

 ボルヘスの作品では「トレーン、ウクバール、~」や「バベルの図書館」、「バビロニアのくじ」等、哲学的なパズルを取り入れたような話が一番気に入っている。

 この本ではそうした作はあまり見られない。

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)

 

 

『ルポ 貧困大国アメリカ2』堤未果

 オバマが大統領となった時期に出た本。

 読んだ印象では前作以上に感情的な本で、アメリカの悲惨な実態が列挙される。

 全く知らなかった問題もあるので参考にはなる。

 

 1 公教育

 アメリカにおける大学の学費は70年代から上昇していき、現在は大半の学生がローンを組んで学費を賄っているのが現状である。

 かつては数十万円の学費で大学を卒業できたが、今は、一般的な大学でも300万~400万、アイビーリーグであれば年間1000万以上が必要である。

 大学に入る際にもっとも重視されるのは親の職業や年収、家柄である。

 学資ローンは、住宅ローン以上に深刻な問題となっていた。

 サリーメイと呼ばれる民間ローンが政府ローンを締め出し、学生たちは高利のローンを借りて大学に通う。

 大卒でなければ、マクドナルドのような仕事で一生食いつなぐことになるからである。しかし、ローンの支払ができず多重債務者になる人間が続出している。

 著者によれば原因は新自由主義にあり、政府が教育費を削減し、ローンや大学を民営化したことで起こったという。

 

 2 社会保障

 アメリカにおいては伝統的に小さな政府の指向が強く、公的年金は抑えられてきた。代わって企業が年金制度により退職者の老後を保証してきたが、市場の変化や少子高齢化により制度が崩壊した。

 また、公的年金制度もすでに破たんが確実である。

 身の丈に合わない消費をする、貯蓄をしない、目先の利益を重視して長期的な考えを持たないというアメリカの慣習が問題を悪化させていると著者は考える。

 

 3 医療改革

 医療保険会社と製薬会社による医産複合体が強い力を持っているために、アメリカの医療費、保険料は高く、国民の6人に1人が無保険である。医療費の高さにより破産する人間も多い。

 欧州や日本で施行されている国民皆保険制度の導入がこれまで検討されてきたが、議会や圧力団体の反対により頓挫してきた。

 メディケア、メディケイドは障害者、低所得者向けの掛け金なし、または低掛け金の公的医療保険制度である。しかし、財政を圧迫している。

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 本書ではオバマケアの顛末は書かれていないが、ニュースを調べたところ次のとおりだった。

 オバマケアは成立の過程で保険会社、製薬会社の介入を受け、「民間医療保険の強制加入制度」となった。保険会社は保険料を釣り上げたために、医療費はさらに増大したという。

 

 4 刑務所

 90年代から民間刑務所が増え始め、また刑法の改正等により囚人の数も増やされた。

 囚人は低賃金労働力として重宝され、さらに刑務所での生活費用も請求され、借金まみれとなって出所する。

 スリーストライク法により、3回有罪判決となった者は終身刑となる。企業は民間刑務所への不動産投資と、囚人労働力を歓迎する。

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 スノーデンが訴えたのと同様、オバマ大統領への疑念はこの本でも追求されている。

 アメリカの問題の根底にあるのは、著者によれば政府と企業の癒着である(コーポラティズム)。

 

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

 

 

『捜査心理学』渡辺昭一

 警察庁の付属機関である科学警察研究所犯罪行動科学部の成果をまとめた本。捜査心理学、行動科学の基礎的な入門書だという。

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 序章

 犯罪捜査は、情報収集、捜査推論、捜査活動実施からなる。犯罪捜査を支援するために、近年、捜査心理学の重要性は高まっている。

 捜査心理学は、犯罪捜査に心理学を利用し情報管理、捜査プロセスを支援するものである。

 捜査心理学の領域は幅広く、捜査の意思決定、捜査戦略、被疑者取り調べ、目撃者面接、子供と被害者への面接、犯罪者の行動、プロファイリング、地理的行動等、多岐にわたる。

 

 1 犯罪捜査と心理学

 目撃証言の傾向:年齢や身長に関する目撃情報は、目撃者の諸元に影響を受ける。事件の持続時間はストレス化にある場合、長く見積もられる。

 目撃者からより多くの正確な情報を引き出すため、「認知的面接法」が用いられている。これは目撃者の想起や思い出しを引き出すための手法である。

 子供は権威に弱く、暗示や誘導にかかりやすいため注意が必要である。

 写真面割り:目撃者全員が無実の容疑者の顔写真を選び、冤罪が発生した例がある。面割りにおいては、事件と無関係の写真を候補の中に入れ、目撃者の選択の正確さを測定しなければ、冤罪の可能性が高まってしまう。

 写真面割りは捜査、公判における立証に活用できる。よって、証拠価値を高めるためにより望ましい手法を確立する必要がある。

 うそ発見器:ポリグラフ検査は生理反応から発言の真偽を判断するものだが、個人差があり、万能ではない。対照質問法control question techniqueは、無関係質問の中に関連する質問を挿入する。緊張最高点検査peak of tension testは、一連の質問の中に、犯人しか知りえない事項に関する質問を混ぜる。我が国では後者が用いられる。

 ポリグラフ検査も証拠能力を持つと認められるが、運用者のレベル向上が課題である。

 犯罪手口による被疑者検索法:どんな犯罪でも個々の習慣や手口は残る。この検索法は、初犯の事案には対応できない。再犯率の高い罪種は、侵入窃盗、詐欺、乗り物盗、非侵入窃盗、わいせつ等である。

 取り調べ:取り調べは警察にとっても最も重要な真実発見法である。

 財産犯罪は自供率が高く、また若年もしくは老齢の方が精神的に脆弱であり自供率が高い。被疑者が否認するのは、法的制裁と、家族に対する心配とを恐れるからである。

 取り調べの際の各種の技術が紹介されている。

 ――被疑者には多少なりとも、自己の犯罪を被害者や社会、家庭環境などのせいにして、正当化しようという心理が働いている。

 取り調べの基本は説得と共感を通して、被疑者との信頼関係を築くことにあると著者はいう。

 人質立てこもり事件は、窃盗や殺人と異なり頻度の少ないケースである。このため、過去のデータをとりまとめてあらかじめ対処を定めておく必要がある。また、立てこもり事件においては心理学が大きな力となると考えられている。

 立てこもりの被疑者はほとんどが経済的に下層階級者である。

 ――彼らの生活歴をみると、その多くは性格的に未熟で、人生における成功あるいは達成の経験を持たなかった人びとということができる。

 立てこもり事件の類型化や、人質の心理状態(ストックホルム症候群)、警察の対応等、様々な角度からの研究がなされている。

 

 2 各種犯罪の犯人像

 プロファイリングとは「犯行現場や被害者、その他入手可能な証拠類の詳細な評価によって、犯人属性を演繹すること」である。

 FBIが利用することで有名となったが、提供できる犯人像としては年齢、性別、人種が特に重要だと言われている。

 犯人像プロファイリング……臨床心理学の知見や統計をもとに、「秩序/無秩序」等の犯人像を推測するもの。

 地理的プロファイリング……連続して発生する犯行地点から、犯人の居住地を割り出すもの。

 バラバラ殺人……アメリカでは性的幻想に由来する犯行がほとんどだが、日本については9割が運搬と証拠隠滅のためである。近年では、被害者と加害者が知り合いである事例が減ってきている。

 その他、放火犯、年少者強姦とわいせつについてのデータのまとめ。

 

 3 犯罪情報分析と捜査心理学

 犯罪情報をどのように収集、分析し、運用しているかについて、英米、カナダ等各国の例を挙げる。運用のための情報システムが、捜査の上で需要となる。

 地理情報の分析も、防犯や捜査において利用される。

 

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 犯罪心理学、捜査心理学が警察活動にどのように用いられているかを理解することができる。

 ただし、個々の事件や犯人の事例が出てくるわけではないので面白味はない。

 捜査とは、地道なデータの収集と分析の積み重ねであることを確認した。

 

 読み物としてのおもしろさならロバート・K・レスラーの本などをあたったほうがよさそうだ。 

捜査心理学

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