うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

敵の声・敵の部屋

 今読んでいる本はハンナ・アーレントの『The Origins of Totalitarianism』(全体主義の起源)で、近代に生まれた反ユダヤ主義が、帝国主義の時代を経て、最終的に、20世紀の特異な現象である全体主義ナチスドイツやスターリン体制)を生み出した経緯をたどる。

 著者の『エルサレムアイヒマン』が非常に面白かったので、今後も他の本を読んでいきたい。

The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)

The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)

 

 

 

 

 独ソ戦における赤軍の実像を描く『Ivan's War』や、武装SSに関する本、『ペリリュー・沖縄戦記』を読んでいて、現代世界では、どの戦争、どの軍であっても、必ず敵に対する憎悪、人種主義がついてまわることに気がついた。

 

 ――……あの戦いのさなか、海兵隊員たちは間違いなく、心の底から、激しく日本兵を憎んでいた。こうした憎悪を否定したり軽視したりするなら、私が太平洋の戦場で生死を共にした海兵隊員たちの固い団結心や熱烈な愛国心を否定するのと同じくらい、真っ赤な嘘をついていることになるだろう。(『ペリリュー・沖縄戦記』)

 

 

 

Ivan's War: The Red Army at War 1939-45 (English Edition)

Ivan's War: The Red Army at War 1939-45 (English Edition)

 

 

 そもそも理想的な軍隊は存在せず、戦争は必然的に醜い憎悪を伴うものなのだと考え直すようになった。

 どれだけきれいごとや理想で取り繕っても、戦うこととはすなわち、憎悪と差別的感情を盛り上げることである。

 

 

 敵に対する憎悪や醜い人種差別的感情に支配されているのは、実際に敵と対峙する前線の兵隊だけだろうか? わたしはそうは思わない。

 無職としての経験上、いわゆる裏方的な仕事や、インテリジェンス的な仕事を担当する人びとと接したことがあるが、かれらの世界観は保〇速報やキムチ〇報に基づいていた(全員がそうだとはいわないが)。わたしがそれを知ったのはかれらが休憩中によく閲覧していたからである。

 

 かれらは人間性が欠如しているのかというとそうではない。

 サバゲー公務員の世界では、旧軍の誇り高い伝統を受け継ぎ、部下をうつ病にすることに命をかけている人物や、いじめてやめさせるのを生き甲斐にしている人物もいる。

 しかし、差別的な発言は必ずしも問題人物から出てくるわけではない。

 

 信頼されている中年作業員が、在日朝鮮人を攻撃する記事をFacebookで盛んにシェアしていたり、温厚な若者作業員が「中国と朝鮮は亡ぼせばよかったんですよ」としれっと口にする。

 おそらくこの人たちに欠けているのは想像力と、基本的な教育だと考える。

 

 遠い昔、わたしが無職末端作業員だったとき、職場の上司たちにカラオケに連れていかれたことがあった。同僚の1人が韓流ドラマかスロットかの曲を歌ったところ、長老格の作業員が「おいおまえ、次、ハングルの歌なんか歌ったらしばくからな」と激高して、しつこく怒られたことを思い出した。

鉄鋼だより

 皮ふはどれも黒い

 非常に、それは

 長い間の

 火の中での仕事を

 かたどるもの

 だからだ

 砂の中の、白と青の

 互いに絡まりあう

 経典文様の

 慈悲の像に囲まれて

 いや、正しくは

 像たちの上に

 おおいかぶさるように

 施設の熱が高まり

 わたしたちは、機械を

 操作する。

 煤まみれの

 細い指によって

 それは、新しい太陽の

 日々の話

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王の集団墓地

 緑と青の

 クローブの匂いがする

 野原の

 王たちの埋まる墓

 くじらの腹より大きな

 穴の底に

 無数の胴体

 ひとつひとつ、金と銀の飾り

 色とりどりの衣裳

 それは、はぎとられ

 枯れ枝と

 骨ばった、足の裏、土と灰のくっついた

 黒い指

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脳的な畑・水資源

 ◆クロアチア独立国

 ワールドカップでクロアチアが脚光を浴びたのを受けて、またバルカン半島の歴史に興味が湧きました。

 今読んでいるのは、デイトン合意(ボスニア内戦に関する停戦合意)をまとめたアメリカの役人の著作です。

To End a War: The Conflict in Yugoslavia--America's Inside Story--Negotiating with Milosevic (Modern Library (Paperback))

To End a War: The Conflict in Yugoslavia--America's Inside Story--Negotiating with Milosevic (Modern Library (Paperback))

 

 国務長官ウォレン・クリストファーの元で、補佐官として働いた著者が強調しているのは、内戦の原因を追求することの重要性です。

 ボスニア紛争は、異なる民族・異なる宗教同士の宿命的な対立に起因するのではなく、民族憎悪を煽った当時の政治家・メディア・ギャングによって引き起こされたものということです。

 

 クロアチア独立国第二次世界大戦時の親ナチス政権)についてよく調べなければと思い、以下の本を読む予定です。 

 クロアチア極右組織ウスタシャ(親ナチス政権の母体)によってつくられた収容所の回想録と、その概要について述べた本です。ヤセノヴァツ収容所では多数のセルビア人やロマが殺害されました。

44 Months in Jasenovac (English Edition)

44 Months in Jasenovac (English Edition)

 
Jasenovac and the Holocaust in Yugoslavia

Jasenovac and the Holocaust in Yugoslavia

 

 

 バルカン半島の一部を旅行した自分としては、どの国に肩入れするというわけではなく、もっと詳しく知りたいという気持ちです。いずれ、セルビアコソボマケドニアアルバニアも旅行しようと考えています。

 

 クロアチア代表の健闘を受けてわたしもサッカーボールを蹴ってみましたがすぐに筋肉痛になりました。

 

 

 ◆大きな島

 無職としての暇な時間を利用してハワイ島に行ってきました。

 ヒロ、コナといった主要な町のほか、ジープを借りてマウナケア山頂のすばる天文台見学にも行くことができました。

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 ハワイ島各所に日系人共同体の面影が残っています。

 普段、オアフ島ニート生活をしている中でも、たくさんの日本人名字の方に会う機会があります。かれらの多くは日本語を話しませんが、とても親切に声をかけてきてくれます。

 免許センターでたまたま隣になった方はカリフォルニア出身で、子供のときに真珠湾攻撃が発生し、収容所に入れられた後、解放されて帰ってみると、自分たちの土地をすべて隣人に取られていたそうです。

 多くの日系移民は、国家の後ろ盾がない中で大変な苦労をされてきたという印象を受けました。

 バックグラウンドが日本・韓国・中国・フィリピンなど混合していることも多く、「何民族、何民族」と詮索するような次元ではないと感じます。

 

 しかし、ハワイには差別がないわけではなく、特に白人とハワイ人との間には対立があるとのことです。

 わたしの無職仲間(ジョージア州出身)から聞いた話では、知り合いの子供が学校で「肌が白い」といっていじめられ、頑張って日焼けしたが赤くなってしまい、変わらずいじめられたそうです。

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 理由はわかりませんが、わたしは人種差別に対して、本能的な嫌悪を覚えます。子供の頃から理屈ではなく感情的に拒否感が湧いてきます。

 外国人に対する心ない言動を聴くだけで不快な気分になります。どこに行っても、特定の人種・民族・宗教を攻撃する人は一定数います。わたしはいま外国に住んでいますが、幸運なことに、身の回りの人びとはこうした偏見を持っていません。

 私は自分の国と自分の国の住民が、外国人や他人種に対し公平であってほしいと思います。人種差別が常識であるような国であってほしくないと思います。

 

 

 ◆兵隊的なおもいで

 遠い昔、兵隊ごっこの国で働いていたときに、わたしたちは脳髄精神の教育と称して、テキストを参考に脳髄運動の正しい用法を学びました。これは兵隊的な動きの教義を記したもので、シリコン兵隊組織体で出世するためにはこの脳髄テキストの一言一句を暗記して試験で運用しなければならなりません。

 実際にはこのテキストは、古い軍隊で使われていたものをそのまま流用したにすぎず、表記以外はほとんど変わっていませんでした。

 この古い軍隊は劣悪で、ぼろ負けして消滅しました。

 神保町には、古い軍隊が使用していた教程等を取り扱う古本屋があります。古い教程を読んでみると、わたしが昔働いていたときのものとほぼ同一なので驚きました。

 

 兵隊ごっこの総本山で働いていたときに、機械の修理をするということで、昔のいわゆる海軍軍令部に入ることがありました。

 会議室には、壁一面に零戦の飛び交う、大きな絵が飾ってありました。わたしは機械を直しながら、自分は70年前にタイムスリップしたのではないか、という錯覚に陥りました。

 わたしたちを監視する担当者が、感じが悪かったのも相まって、作業が終わったあとに先輩(わたしも先輩も海の兵隊ではない)と、「あれだけぼろ負けしといていまだにあんなのをありがたがってるのか」と話した記憶があります。

日本海軍の戦略発想

日本海軍の戦略発想

 
海上護衛戦 (角川文庫)

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