うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ネイティブ・アメリカン』鎌田遵 その2

 4

 ルーズベルト政権下、インディアン局ジョン・コリア―による「再組織法」→部族の自治権確立へ

 トゥルーマン政権下の「終結法」→自立を名目とした居留地切り捨て、アメリカ社会への同化政策

 先住民のうち居留地や信託地に住むのは4割で、5割弱は都市部に住む。

 先住民の経済的状況は悪く、現在でも青年の2割が帰還兵である。

 60年代、70年代におけるレッドパワー運動について。

 75年の「自決・教育援助法」により部族政府の自治権が強化された。また、先住民の学術研究を、先住民自身が行うという動きも生まれた。

 

 5
 先住民のイメージの変遷をたどる。

ジョン・フォードの西部劇……悪役、盗賊、野蛮の時代。

・「ダンス・ウィズ・ウルブス」……ロマン主義的なあこがれ。

・「ウィンド・トーカーズ」、「父親たちの星条旗」……「自分たちを侵略したアメリカという国家の一員としての愛国心を証明するために、戦地に赴かざるをえなかった先住民の苦悩」。

 先住民マスコット論争……赤、羽根飾り、「野蛮な戦士」のイメージ、体育とスポーツにおけるイメージの濫用

 ワナビー……先住民の現状を理解せず、ファッションだけを美化してまねるもの、工芸品を買いあさるもの。

 

 ――……多文化主義が称揚される時代、異文化に目を向ける人はふえたが、先住民に対する差別や政治経済問題を改善する積極的な姿勢は育まれていない、と手厳しい。

 ――近年においても、自己のアイデンティティを見つけられない白人が、その解決策として、自分のなかの「インディアン性」に頼り、ワナビーになる傾向がある。

 ――先住民とその文化は、空想や美化の対象になることがあまりにも多い。

 

 先住民からの収奪物を展示するスミソニアン博物館について、著者は一方的に切り捨てていない。博物館の姿勢は謙虚であり、また首都に展示品を集め多くの国民に歴史や事実を知ってもらうことには意義があるからである。

 博物館については、遺骨や展示品の返還問題が存在し、部族への返還も行われている。

 

 6

 先住民と居留地の現状について。

・政府から支給された食料品やファストフードの影響で、疾病率が高い。

アルコール中毒、ドラッグ中毒が多い。

・近年、先住民のギャングが増加し、居留地内で麻薬や犯罪を蔓延させている。メキシコ系ギャング等、外部からの侵入も多い。居留地の治安は、本土全体とは逆行し、悪化し続けている。

・外に出ても、人種差別や低教育・低学歴の壁に直面して帰ってくる例が多い。

 

 ――頭の良いインディアンは居留地からいなくなります。都会で失敗したインディアンはもどってきます。居留地から抜け出せない人たちは、おなじメンツと罵り合うばかりで出口は見えません。

 

 7

 居留地が望める経済活動は主に2つである。核廃棄物処理場や、実験場、軍の施設といった迷惑施設の誘致か、州法にとらわれない特性を利用したカジノの建設である。

 過去には、ウラン鉱山の開発や核施設の運営で多くの先住民が健康被害を受けてきた。

・迷惑施設の誘致をめぐって、通常居留地は分裂し、また世間の冷たい目にさらされる。

・カジノの規模は拡大しているが、部族ごとの格差も広がる。大規模カジノ部族員は、年2億円ほどの配当金をもらえる。

・カジノ利権をめぐって、部族内部で、部族員の認定を剥奪し配分を減らす動きや、他部族がカジノを建設するのを妨害するという活動が見られた。

・カジノの闇……部族員は働かず、配当金でギャンブルをする。雇用は白人と移民にとられる等。

 

 ――……連邦政府による法的な承認を拒否し、アメリカという枠組みを超えて、「先住民」という生き方をつらぬこうとする例は、ごく稀である。

 ――先住民がもとめているのは、文字通り、現在の州政府と同等の権利をもつ自治国家の建設である。それは一般的に考えられるような「独立国家」としてではなく、アメリカという国のなかで、自分たちの自治権をどう拡大していくかということである。先住民としての権利の主張は、アメリカ社会における多民族の共生を意味している。

 

  ***

 先住民に対する同化政策、先住民の現状について書かれた本。

 民主主義と自由という理念の裏側で行われている事実についてもわれわれは知る必要がある。

 

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)

 

 

『ネイティブ・アメリカン』鎌田遵 その1

 先住民の現状について解説する本。

 合衆国には約247万人の先住民が住んでいるが、かれらの経済的地位は一般に黒人よりも低いという。

 

 1

 だれが先住民であるかという定義を定めるのは難しい。

 先住民としてのアイデンティティは、血筋、部族員であることの証明、文化の継承からなる。

 部族員の証明は、連邦政府が承認する部族から認定を受ける必要がある。なりすましによって支援や福祉、権利を受けるという動きを阻止するために、血筋で厳格に認定する部族が多い。

 しかし、人種間の結婚や他部族同市の結婚が進み、子供が先住民認定を受けられなくなるケースが増えている。

 部族民たち自身は、文化的・社会的要素によって部族員を定義することも多い。

 厳格な人種・血統制を取り入れたのは、かつて同化政策を推進してきた陸軍省インディアン局である。インディアン局は、先住民文化を根絶させることを目的として運営されていた。

 部族員認定の要件は、各部族政府に委ねられているが、その細部も複雑である。

 南東部に住むチェロキー族はかつて白人と同様に他部族や黒人の奴隷を所有していた。20世紀に入ってから、部族政府は黒人の部族員認定を取り消した。

 プエブロ族は、他部族と結婚した部族女性を部族員と認めない。ある女性が訴訟を起こしたが、連邦裁判所は部族の自治権を認め訴えを棄却した。

 

 2

 居留地連邦政府直轄であり、連邦憲法の下での自治を認められる。税も連邦政府に直接収める。重大事件の捜査等では、連邦政府に権限がある。また、ケースによっては居留地に州の行政が介入することもある。

 連邦政府の「部族」定義は恣意的である。

 

 ――先住民を居留地に住まわせることは、移動を禁止する同化政策の一環であり、居留地の設立は部族の文化や生活習慣を無視し、強制的にアメリカ社会の「辺境」に定住させることを目標にしていた。

 

 部族のカテゴリ……「連邦政府承認部族」、「州政府承認部族」、「終結部族」、「未承認部族」

 部族承認は、かつて白人側の資料と同化政策に基づき行われたため、部族民たちの定義とは乖離していることが多い。

 未承認部族が新たに部族として認められるのは困難である。かれらは、すでに亡びた部族として扱われる。

 

 3

 先住民への植民地化の歴史について……疫病、強制移住、侵略、戦争と虐殺。

 ソローの思想、ジャクソン大統領(ジャクソニアン・デモクラシー)と先住民との関係。

 

 ――西部における先住民の征服と、西部へのロマン主義的な崇敬は、まったく異なる方向性のように見えるのだが、アメリカ型民主主義の実践の場とみなされている点では一致している。先住民族を西部の一部(人間としてではなく)と考え、民主主義の名の下にその支配を正当化する思想は、その後もアメリカ社会に深い根を張ることになる。

 

 ジャクソン大統領下の1830年強制移住は「涙の旅路」と呼ばれる。

 ヨセミテ渓谷やグランド・キャニオンには先住民が住んでいたが、政府はこうした土地を国立公園に指定し居住を禁じた。

 「良いインディアンは死んだインディアンだけだ」とは、先住民討伐で有名なフィリップ・シェリダン将軍の言葉である。

 反権力・抵抗の象徴として祭り上げられるアパッチ族ジェロニモは、降伏後、万博で見世物として出演し、自ら白人社会に適応しようと努めた。

 同じ会場ではプエブロ族や、日本のアイヌたちも見世物として出演していた。

 1887年のドーズ法……居留地を細分化し、先住民と非先住民の個人に割り当て、部族所有の土地を減らす法。

 同化政策の一環である寄宿学校での虐待、暴力について。

 

 [つづく] 

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)

 

 

『Putin's Russia』Anna Politkovskaya その2

 官僚組織の一員である判事たちは、ソ連崩壊によって服従する対象を失った。

 かれらが次に選んだ主人はマフィアや新興財閥だった。

 買収された判事が、給料20年分に相当するアメリカ車を手に入れる一方、賄賂や口利きを拒否した判事は免職され、または悪党に闇討ちされた。

 プーチンや閣僚たちはこうした腐敗を黙認し、またマフィアを産業界の要人として称え、その庇護者である判事を要職に任命している。

 

 5 地方の話

 地方の貧困や汚職はひどく、モスクワとは全く別の国である。特に、献身的な退役軍人や現役軍人が、国家に見捨てられている。

 本章に出ているカムチャッカ半島の海軍士官たちのエピソードは強烈である。かれらは原子力潜水艦の指揮官だが、生活は悲惨である。

・給料が低く、食材が足りないときは近所で互いに分け合う。また、基地自体も食材寄付に頼っている。その給料も半年近く未払いである。

・車を買う金がないため、何十キロも歩いて通勤する。

・子供のための教育施設が皆無である。

・若い軍人たちは、自分たちを見捨てた国家に見切りをつけ、横領と賄賂で金を稼いでいる。

 

 6 ノルト・オスト

 2002年10月のモスクワ劇場占拠事件について。

・公式発表では人質は射殺されていないが、明らかにFSBの特殊部隊に殺された少年がいた。かれは、犠牲者にもカウントされなかった。

・FSBは非致死性のガスを使用したが、適切な病院を準備せず、中毒になった人質129名を死亡させた。政府は情報を統制したため、被害者の親族たちは病院に入れなかった。

チェチェン人の名字を持つ人質は、差別待遇を受け、治療されず、放置されて死んだ可能性が高い。

・遺族は、人質を過失致死させたとして政府を提訴した。「電話判事」とは、政府からの電話指令を受けて従う判事をいう。この裁判を担当した判事は原告団らに悪態をつき、訴えを棄却した。

・人質のうちチェチェン系の苗字の者は、病院に運ばれた後テロリストの疑いを受けて訊問された。

 

 プーチンは国際テロリズムとの戦争を掲げているが、チェチェンでのジェノサイド行為がこうした暴力を生み続けていることを自覚しているだろうか。

 人びとは人質の死や遺族の怒りには無頓着だった。国民は、他人の死に関心がない。

 モスクワでのテロ事件以降、チェチェン人、コーカサス系人種への差別はさらに悪化した。著者によれば、かれらに希望はまったく見えないという。

 チェチェン人はでっちあげ逮捕や拘禁の被害にあい、また職を追われた。このような人種攻撃が、人びとを独立運動や暴力に追いやっている。

 

 7 アカーキイ・アカーキエヴィチ

 タイトルは、ゴーゴリ「外套」の主人公である小役人。

 特に2期目の大統領選に関連して、プーチンが民主主義を拒否する動きを見せている点について。

 プーチンは決して論争や議論をしない。かれにとって野党は存在しない。野党、反対派とは追放され粛清されるべきものである。

 大統領はテレビに頻繁に登場するが、絶対に議論はしない。軍隊と同じく、最高指揮官として訓示を述べるだけである。

 

 ――わたしはプーチンを嫌悪する、なぜならかれは人びとを嫌悪しているからである。かれはわたしたちを軽蔑している。かれはわたしたちを、目的のための手段、個人的権力の達成と保持のための手段としか見ていない。したがって、かれはわたしたちを思い通りに動かし、破壊できると思っている。かれはたまたま、皇帝かつ神の地位に登ることができた。一方で、わたしたちは何者でもない。

 

 著者は、プーチンを、典型的なソヴィエトのチェキストと非難する。

 

 8 ベスラン事件

 この忌まわしい事件により、チェチェン紛争は激化し、ジェノサイドと人種差別がますます激しくなるだろう。人びとは「打倒アルカイダ」を唱えている。

 

Putin's Russia: Life in a Failing Democracy

Putin's Russia: Life in a Failing Democracy

 

 

『Putin's Russia』Anna Politkovskaya その1

 著者は反プーチンで知られた『ノヴァヤ・ガジェタ』紙の記者で、2006年に路上で射殺された。

 

 国民から自由を奪い専制を強めるプーチンを批判する。

 本書では、国家の末端で残酷な取り扱いを受ける人びとに注目する。

 プーチン自身の行動ではなく、かれの黙認と大方針の下、ロシアで繰り広げられる悲惨な光景に焦点をあてている。

 国家が腐敗する、または国家が秘密警察によって掌握されるのがどういうことか、実例をもって教えてくれる本である。

 

 わたしたちの国の価値観と大きな違いがあるのは、著者が軍隊の価値を重んじている点である。

 深刻な腐敗や私刑・犯罪行為が横行する一方で、軍事力そのものはロシアを守るためになくてはならないものだと著者は考える。これは、2000万人近く死者を出した、ドイツによる侵攻等の歴史的経緯が深く影響していると考える。

 

 尊重されるべきなのは、徴兵されみじめな目にあっている兵隊だけでない。不正蓄財を拒否し、酷寒の地や辺鄙な原潜基地で冷や飯を食わされている将校たちもまた、ロシアにとっての英雄である。

 

  ***

 1 私たちの国の軍隊とその母たち

 軍は国家の柱だが、重度の腐敗状態にあり、プーチンはそれを黙認している。ロシア軍は年間500人近くがリンチで殺され、また大量の脱走者を生んでいる。

・ある下級士官は戦場で見捨てられ死亡したが、軍はその事実を放置し、家族にも一切知らせなかった。母親が裁判等で戦ったのち、ようやく屍体の一部が手に入り、死亡の事実も記録された。

・先輩からウォッカを盗んでこいと指示され拒否した兵隊がリンチを受け、首つり自殺した。

・医療品が不足しており、21世紀の今でも、給養員が身体を腐らせて死んだ。

・将校にとって兵は奴隷であり、人間ではない。兵の給料は横領される。将校は、自分の車を修理するため、修理工場に兵を派遣し働かせる。

 

 2 戦争犯罪

 腐敗した、完全な戦争犯罪者と、治安機関によって捏造される戦争犯罪者について。

 チェチェン派遣軍の指揮官と、独立派の指揮官たちは、お互いに武器を横流しし蓄財した。

 FSBは無実の人間を拉致し、拷問・自白強要をせまった(ハスハーノフ大佐事件)。

 一方、機甲師団大佐が、チェチェンの若い女性を強姦し殺害した事件については、軍、裁判所、検察、地方政府、精神医学界が一体となってもみ消しをはかった(ブダーノフ事件)。

 精神科医ソ連時代からの大家であり、ロシア政府の下で働いているだけでなく、かつては、政敵や反政府活動家を精神異常認定し、病院に送り込んでいた。

 なお、ブダーノフは2011年に暗殺された。

 ブダーノフの事件は、海外に広く知れ渡り、ドイツのシュレーダー首相が直接プーチンに話をしたこともあり、裁判はやり直され、有罪となった。

 しかし、同じようなロシア軍による強姦、虐殺行為が蔓延しており、正当に処罰される例はほとんどない。ロシアの司法は、政治的意向に屈している。

 

 3 没落する人びと

 ソ連崩壊からプーチン時代にかけて、高い学歴を持つにも関わらず没落していく人びとを追う。

 政治体制の急変により、市民の生活は荒廃した。普通の人びとがホームレスとなる事態となった。

 このような土壌から、人命、人権、自由や、他民族を尊重する意識が生じるとは思えない。

 賄賂とマフィアの世界に身を投じ、拝金主義者になる者、アルコール中毒と失業によって人生を崩壊させる者、ロシア軍にぼろ雑巾のように使われ、まともな市民生活を奪われた者。

 

 4 資産横領と政府の黙認

 ウラル地方の工業都市エカテリンブルク(旧スヴェルドロフスク)を例に、社会のあらゆる階層にいきわたるマフィア化を考える。

 ソ連崩壊によって資本主義が導入されたが、それは西欧とは似て非なるものだった。

 旧共産党員が国有財産を横領し、私財を蓄えた。

 経済活動において賄賂と口利きが常態となった。都合の悪い者は殺され、また目的達成のために暴力団が雇われる。

 さらに、司法もまた腐敗した。エカテリンブルクのフェドロフ氏は、地方判事や地方警察を買収し、殺人や横領、暴行等の訴追を免れた。

 

 [つづく]

Putin's Russia: Life in a Failing Democracy

Putin's Russia: Life in a Failing Democracy