うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ルポ 貧困大国アメリカ』堤未果

 米国の貧困状況や社会問題を紹介する本(2008年)。

 見習うべきでない政策・事例が多数ある。

 

 サブプライムローンは、低所得者層に高利率で住宅ローンを貸し付けるビジネスである。当時、このローンを十分な知識がないまま契約させられ、破綻する移民や貧困層が増えている。

 市場原理主義に特化した社会が、いかに貧困を生み出すかを、アメリカを実例として検証する。

 

 1 肥満

 世帯年収が約200万以下が貧困層と定義される。基準を満たす住民はフードスタンプを配給されるが、かれらは調理器具や台所を持っていないことが多いため、ジャンク・フードを買いだめする。このため、貧困層程肥満が増える。貧しい地区の学校は予算内でやりくりするために毎日ジャンクフードを子供たちに食べさせる。

 

 2 経済難民

 2005年のハリケーンカトリーナによるルイジアナ州の被害は、防げたはずの人災である。

 FEMA=連邦緊急事態管理庁は、災害対策等を担当する部署である。2001年ブッシュ政権時に、新長官アルボーらにより、災害対策を含む公共事業の民営化が行われた。FEMAは省庁の統合により格下げされ、ハリケーンの危険が予測されていても打つ手だてがなくなっていた。

 元職員の意見は次のとおり。

「国民の命に関わる部分を民間に委託するのは間違いです。国家が国民に責任を持つべきエリアを民営化させては絶対にいけなかったのです」

 移民や不法移民の多い、貧しい州では、学校の民営化が行われる。民営化学校は競争が厳しいため、教育レベルも極端に低い。2カ月通学した後、2カ月休み、その間時給2ドルほどで働くという生徒が多い。

 かれらの多くは中南米からやってきた経済難民である。ビザや人種の壁に阻まれた子供たちのもっとも良い就職先は軍隊である。

 

 3 医療

 80年代以降、新自由主義政策によって公的医療が縮小され、民間の医療保険自由診療が増大した。その結果医療格差が生じた。

 日本なら最高8万円ほどで済む盲腸の手術だが米国では平均200万円前後かかる。民間医療保険独占企業が強く、保険料は高額であり、また支払い拒否も頻発する。

 医師や看護師も自由競争や訴訟のための保険によって苦しんでおり、医療サービスレベルは低下している。米国の乳幼児死亡率は先進国の中で最低レベルである。

 

 4 軍隊

 2002年ブッシュ政権時に成立した「落ちこぼれゼロ法」には次のような項目がある。

「全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出すること、もし拒否したら助成金をカットする」。

 軍は貧しく先行きの暗い生徒を探し出し、大学の学費免除や医療保険加入を条件に勧誘する。

 しかし、学費免除額に限度があるため、実際に卒業まで行き着く若者は少ない。

「私の高校の生徒たちのほとんどは、親が失業中だったりアルコール依存症だったり若いシングルマザーだったりと、問題を抱えた家庭の子です。でもその子たちのためにどんなに胸を痛めても、私たち教師にできることはない。貧困地域の現場を知らない平和活動家たちの主張は私にはきれいごとに聴こえますね。高校を卒業してもマクドナルドでハンバーガーを焼くか、ストリートのチンピラになるような将来しかない子供たちを見たら、心ある大人は誰でも、せめて彼らに大学進学のチャンスを与えてあげたいと思うはずですよ」

 入隊によって市民権を付与する法律も成立したため、不法移民の子供たちにとって軍は大きな魅力となっている。

 リクルーターは戦地ではなく本国で働けるために兵隊の中でも競争率が高い。かれらは、イラク戦争はすでに終わっている、除隊しても軍歴には残らない、等の嘘をつき勧誘する。

「現在リクルートされた新兵はほぼ全員が即イラクに送られます。致し方ありません。我が国は目下戦争の真っ最中なのですから」

 学費が払えないコミュニティカレッジの学生や、就職できない大卒もリクルーターの標的となる。

 その他、米軍開発のFPSや、学生向けの予備役制度について。

 350万人の全米のホームレスのうち、50万人が元軍人だという。

 

 5 民営化戦争

 民営化の波は戦争にも及び、戦争ビジネスが発達した。生活苦の労働者は派遣会社に登録し、イラクアフガニスタンでトラックの運転や倉庫作業に従事する。そこには外国からやってきた派遣労働者もいる。

 また、ブラックウォーター社等は戦闘自体を請け負う会社であり、かれらは国際法の対象とならず、戦死者にもカウントされない。

 州兵は予備自衛官のような制度で、戦争に行くという意識の者は少なかった。しかし、9.11のテロでは遺体収容業務を担当した。イラク戦争が始まると、イラクに派遣された。

「……マスコミは兵士たちの愛国心やこの国の正義について書きたてていたようですが、格差社会の下層部で苦しんでいた多くの兵士たちにとって、この戦争はイデオロギーではなく、単に生き延びるための手段に過ぎなかったのです。さっさとやって早く家に帰りたい、怪しいやつがいたらすぐ発砲する、屍体は黙って片付ける。兵士たちは皆、そうやって機械的に考えていました。僕自身も含めてね」

 民主主義には、経済を重視する民主主義と、人権、人間的な暮らし、生命に重きを置く民主主義とがある。

 ――加藤さんが体験から実感したものは、軍隊というものが未来ある若者たちに植え付ける、「いのち」はどこで捨てても同じなのだというイメージだったという。

「戦争をしているのは政府だとか、単に戦争対平和という国家単位の対立軸ではもはや人びとを動かせないことに、運動家たちは気づかなければいけません」

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 イラク戦争に際して、合衆国のジャーナリズムは、所有者(=株主)から一元的な情報統制を受けた。

 マスメディア、報道が正常に機能しないということは、国民が正確な情報に基づいて政治的判断を下せないということであり、民主主義の基盤を崩壊させるものである。

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ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)