うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『バガヴァッド・ギーター』

 『バガヴァッド・ギーター』は叙事詩マハーバーラタ』中の一篇であり、まえがきとして叙事詩のあらすじが紹介されている。荒唐無稽な神と聖人と王家の話で、聖人が欲情して女を犯すと聖なる子供が生まれる。また、妃が肉の塊を生んで、この肉をバター状にして保存した後分割することで100人の王子が生まれる等。
 アルジュナの軍とドゥルヨーダナの軍による王族間の戦争が始まる。アルジュナは戦意を喪失するが、クリシュナ(バガヴァッド)がヨーガの秘説を説き鼓舞する。
 『バガヴァッド・ギーター』(神の歌)はこのときの説法である。
 最終的に王族は殺し合いで死に、全滅する。
 ――『マハーバーラタ』は人間存在の虚しさを説いた作品である。……しかし、作中人物たちは、自らに課せられた過酷な運命に耐え、激しい情熱と強い意志をもって、自己の義務を遂行する。この世に生まれたからには、定められた行為に専心する。これこそ『ギーター』の教えるところでもある。
  ***
 同族に矢を向けることが嫌になり、アルジュナは戦車の上でへたりこむ。それに対し、クリシュナは説教する。
 内容としては、自我は転生を続けるため肉体は亡びても不滅のものは不滅のままである。また、人間には生まれたときの義務と職責があり、これをまっとうしないことは死に劣る不名誉である。
 個我は常に存在し、身体は常に存在しない。この全世界を遍く満たすものは不滅である。
 ――彼が殺すと思う者、また彼が殺されると思う者、その両者はよく理解していない。彼は殺さず、殺されもしない。……彼は決して生まれず、死ぬこともない。
 ――さらにまた、あなたは自己の義務(ダルマ)を考慮しても、おののくべきではない。というのは、クシャトリヤ(王族、士族)にとって、義務に基づく戦いに勝るものは他にないから。……もしあなたが、この義務に基づく戦いを行わなければ、自己の義務と名誉とを捨て、罪悪を得るであろう。
 ――あなたは殺されれば天界を得、勝利すれば地上を享受するであろう。それ故、アルジュナ、立ち上がれ。戦う決意をして。
 クリシュナいわく、賢者は善行と悪行とをともに捨て、結果に執着せずなすべき行為をする。
 アルジュナは、人は何に命じられて悪を行うのか尋ねる。クリシュナは、欲望、怒り、激質のためであるという。欲望と怒りは、感官、思考器官(マナス)、思惟機能(ブッディ)に潜んでいる。
 ――知性が確立し、迷妄なく、ブラフマンを知り、ブラフマンに止まる人は、好ましいものを得ても喜ばず、好ましくないものを得ても嫌悪しない。外界との接触に執心せず、自己(アートマン)のうちに幸福を見出し、ブラフマンのヨーガに専心し、彼は不滅の幸福を得る。……内に幸福あり、内に楽しみあり……。
 ――わたしは世界を滅亡させる巨大なカーラ(時間)である。諸世界を回収する(帰滅させる)ために、ここに活動を開始した。たといあなたがいないでも、敵軍にいるすべての戦死たちは存在しないであろう。
 神的なものと阿修羅的なものがあり、阿修羅的なものは迷妄や無知に侵された人びとである。
 ――欲望、怒り、貪欲。これは自己を破滅させる、三種の地獄の門である。それ故、この三つを捨てるべきである。
 クリシュナいわく、各階級の行為は、本性に応じて配分されている。
バラモン……寂滅、自制、苦行、清浄、忍耐、廉直、理論知と実戦知、信仰。
クシャトリヤ……勇猛、威光、堅固沈着、敏腕、戦闘において退かぬこと、布施、君主の資質。
・ヴァイシャ……農業と牧畜と商業
シュードラ……他の種姓に仕えること。
 ――各自の行為にいそしむ人は成就を得る。……自己の義務の遂行は、不完全でも、よく遂行された他者の義務に勝る。本性により定められた行為をすれば、人は罪に至ることはない。
  ***
 この本における「行為」とはどういう意味か。欲望と願望を離れ、知識によってなされる行為は賢者の行為である。
 ――たまたま得たものに満足し、相対的なものを超え、妬み(不満)を離れ、成功と不成功を平等(同一)に見る人は、行為をしても束縛されない。
 行為(カルマン)とは被造物を生じさせる創造である。
 「知識」とは何か。
 サーンキヤは理論であり、ヨーガは実践である。
 クリシュナは「万物はわたしのうちにある」と言うがかれは何者か。クリシュナに帰依すればヴァイシャ(実業者)もシュードラ(奴隷)も最高の帰趨に達する。
 純質と激質と暗質について。
 純質は幸福と結合し人を知識に導く。激質は渇愛と執着を生む。暗質は無知、怠慢、睡眠と関連する。
 激質は貪欲、活動、企て、躁状態、切望を生む。暗質は不明、無活動、怠慢、迷妄を生む。
 ――執着を離れ、自己を誇らず、堅固さと気力をそなえ、成功不成功に動じない者は、純質的な行為者と言われる。激情的で、行為の成果を求めて、貪欲で、加害を性とし、清浄でなく、喜悦と悲しみに満ちた者は、激質的な行為者と言われる。専心せず、凡俗、頑固、狡猾、不実、怠惰、悲観的であり、仕事の遅い者は、暗質的な行為者と言われる。
  ***
 訳者兼解説者によれば、本書は、在家のまま、世俗において仕事に従事したまま、悟りを得ることが可能だと説いている。
 義務をしっかり果たせ、とクリシュナは言うが、それは、「世間において勤めを果たしつつ悟りを目指せ」といっているのか、「自分に定められた勤めを果たせ」といっているのか、どちらだろうか。
 生まれながらに奴隷のものは、奴隷の任務に取り組みながら悟りを開くことができる。しかし、奴隷の任務から逃れることはいけないのか。

 

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)