◆ニューオーリンズ観光
モーテルに到着した翌日、一日かけてニューオーリンズ中心部を観光した。
リー・サークルは第2次世界大戦博物館等が並ぶ通りに近いロータリーで、2017年までは円柱の上にロバート・E・リー将軍の像が立っていた。
リー将軍は南北戦争における南軍の英雄だが、ここ数年、リー将軍やその他南軍記念碑を撤去する運動が広がった。
全国に広がるリー将軍像は、黒人差別を法制化したジム・クロウ法時代(1870年代~1960年代)にかけて、主に白人至上主義を称揚する目的で建立されてきた。
南北戦争終結以降、南部では「失われた大義(Lost Cause)」という過去の作り直しが行われ、奴隷制を維持するという戦争の本来の目的が背景に退けられ、州の自治権のために戦ったのだという説が喧伝された。
南北戦争だけに注目してみると、リー将軍自体に深刻な問題があるとは感じられない。戦争に負けた国、あまり評価の芳しくない国においても、優れた将軍はいるものである。
数年前、たまたま米軍人とリー将軍の話をしたときに、将軍像が主に人種主義者やKKKによって設置されてきたという経緯を知り、なぜここまで撤去運動が盛り上がったのか納得した。
わたしはリー将軍を、ナチス・ドイツのロンメルやマンシュタインのような存在だと思っていた。しかし、将軍のイメージは既に人種主義や白人至上主義と強烈に結びついてしまったのだろう。
リー将軍個人は自身の奴隷を解放したものの、廃止論者には反対し、奴隷制を必要悪と考えるなど、複雑な見方を持っていたようだ。
どうして銅像でもめるのか 南北戦争の像の何が問題なのか - BBCニュース
コラム:社会亀裂招く「像撤去」問題、ヘイトの増幅防ぐには - ロイター
南部連合の記念物、米国民の6割が「そのままにすべき」 世論調査 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
銅像撤去問題に関する見方は二分されているが、私は撤去する側を支持したい。これは、銅像の前でデモを行う白人至上主義者の前にアジア人のわたしが出ていったらなんと呼ばれるだろうか、と単純に想像してのことである。
この後訪問するワシントンD.C.やフィラデルフィア、ゲティスバーグでは、ワシントンやリンカーン、トマス・ジェファソンが盛んに賞賛されていた。
施設や史跡を観光しながら、どうしても独特の英雄崇拝ムードに入っていけなかったのは、先住民や黒人の歴史が頭をよぎったからである。
歴代の大統領は皆インディアンの討伐や虐殺を行い、北軍の主な軍人たち……グラント、カスター、シャーマン、シェリダンなどもほぼ例外なくインディアン迫害に加担している。
アメリカ人でなく、特別な思い入れのないわたしには、こうした行状を脇に置いて、自由と民主主義の建設者だと仰ぐことができなかった(する気もないが)。
◆第2次世界大戦博物館
第2次世界大戦博物館は国立博物館に指定されており、大戦中の米軍活動に関する展示を集めている。
施設は歴史的文物から、映像・音声によるアトラクションまで非常に金がかかっており、遠足か社会科見学とおぼしき生徒たちも多かった。
ボーイング社と国防総省が出資した巨大な航空展示館もあり、3時間ほどかけて一通り見学した。
◆南北戦争博物館(連合国記念博物館)
1891年に設立した連合国(南軍)に関する文物を集めた博物館で、正式にはConfederate Memorial Hall Museumという。非常に古い建物をそのまま使用しており、年季の入った銃や装備品、隊旗などを鑑賞することができた。
◆シーフードとフレンチ・クォーター散歩
博物館2件を続けて見学した後、ニューオーリンズの名物であるシーフード(カキ、ザリガニその他)を食べつつ、繁華街を歩いた。
グーグルマップで評価が高く、またそこまで混んでいなかったFelix's Restaurant & Oyster Barでカキとジャンバラヤ(パエリア風のケイジャン料理)を食べた。どちらもおいしかった。
フレンチ・クォーターの先にあるジャクソン広場には、ストーンウォール・ジャクソン(南軍の将軍)ではなく、アンドリュー・ジャクソンの像が立っている。
アンドリュー・ジャクソンは1812年の戦争(米英戦争)におけるニューオーリンズの戦いでイギリス軍に勝利し、後に第7代大統領となった。
ジャクソンも、英雄・ジャクソン流民主主義の普及(白人男子普通選挙)・インディアン虐殺者と論争の多い人物である。
Cafe Du Mondeという喫茶店はフランス式ドーナツ「ベニエ」で有名らしく、わたしもドーナツと飲み物を注文した。
この日は非常に暑く、汗をかいた。
観光客でにぎわっているので、さぞ高いのかと予想したらドーナツもコーヒー、コーラも非常に安価なので驚いた。
ここまで南部を旅行して、食事がハワイに比べて非常に安いのを実感した。南部では10ドル以下で油カロリー満点のセットを頼むことができるが、ハワイだと、簡単に15、16ドルになってしまう。
さすが全米でも屈指の、生活に金がかかる土地である。とても暮らせる気がしないので、無職のわたしが撤退する日はそう遠くないだろう。
The Most Expensive States to Live In Across the U.S. | The Estate Update
フレンチ・クォーターはフランス領、スペイン領時代からの建物が多く残っており、とても良い雰囲気だった。
ニューオーリンズは植民地時代から栄えてきた、北米最大の奴隷市場であり、歴史的にも陰影の濃い場所であると考える。
ジャズの町として有名なようだが、本格的なジャズを聴くには夜の演奏のためにチケットを買う等が必要らしい。今回は残念ながらいけなかった。
生演奏が売りのバーはたくさんあるが、通りに漏れてくる音楽に着目するとエリック・クラプトンだったりカントリーだったりした。
[つづく]