国際関係を中心にコーカサスの概要を説明する本。
コーカサスは西を黒海・トルコ、東をカスピ海、南をイランに囲まれた地域を指す。
南コーカサスはアゼルバイジャン、グルジア、アルメニアからなり、北コーカサスはロシア連邦の共和国……チェチェン、イングーシ、ダゲスタン、北オセチア・アラニア等からなる。
◆メモ
ジョージア共和国(グルジア)を旅行したとき、ドライバーの男性が「Putin- Cannibal(人食い)、Stalin-Terrorist」とコメントしていたのを思い出す。一方ガイドの女性は、ロシアを擁護し、ドライバーをたしなめていた。
コーカサスは帝国の裏庭ということで中南米のような非常に不運なポジションにあるが、文化や歴史は非常に興味深い。
1 特徴
コーカサス地域は、次の理由から、国際政治上の重要拠点とされる。
・イランに隣接している
・天然ガスの産地である
・民族紛争、多言語、多宗教
アルメニア、グルジアはそれぞれ世界で1番目、2番目にキリスト教を国教化した国であり(4世紀)、アルメニア教会、グルジア正教はそれぞれ独自のものである。
1915年のトルコによるアルメニア人虐殺問題はいまだに解決されていない。
2 南コーカサス
未承認国家とは、ソ連時代に自治州だった国が、解体後、国家内国家として存在しているものをいう。
・ナゴルノ・カラバフ(アゼルバイジャン)、アブハジア・南オセチア(グルジア)、沿ドニエストル(モルドヴァ)等。
こうした国家はロシアが介入するための口実に使われている。
(1)アゼルバイジャン
・ナゴルノ・カラバフ紛争……アルメニア人居住地域(国土の2割)の帰属をめぐってソ連末期に戦争が起こり、まだ緊張状態にある。
・クルド人問題
・ナヒチェヴァン……アゼルバイジャンの飛び地で、政情不安定である。
・北コーカサスの民族、山岳ユダヤ人……アゼルバイジャンは、イスラエルと関係が深い。
(2)グルジア
・アブハジア自治共和国問題……ソ連末期に独立紛争
・南オセチア共和国問題
・アジャリア……黒海沿岸の都市パトゥミは経済的に栄えているが、ここに住むアジャール人はムスリムである。
――また、ロシアが「アメリカのイラク戦争に目をつぶる代わりに、ロシアのバンキシ渓谷への攻撃には目をつぶる」という取引をアメリカと行ったともいわれている。
(3)アルメニア
・アルメニア人のディアスポラ……本国300万人に対し、2倍の国外居住者がいる。アルメニア・ロビーは欧米で強い力を持つ。
各国の紛争を支援しているのはロシアである。グルジア領内の南オセチアとアブハジアでは、住民はロシアパスポートを持ち、ロシアの国政選挙にも参加可能である。
3 北コーカサス
北コーカサスでは、ロシアは紛争当事者となる。
(1)チェチェン
・チェチェン紛争……第1次1994~1996、第2次1999~2008年まで
・91年、ドゥダーエフの独立宣言をきっかけに、エリツィンが内務省部隊を投入、その後94年から紛争が始まった。
・停戦後、穏健派イスラームのチェチェン人軍閥と、原理主義的な義勇兵との間で対立が生まれ、国内は収拾がつかなくなった。
・99年のチェチェン武装勢力ダゲスタン侵攻、アパート連続爆破テロ事件をきっかけに第2次チェチェン紛争が始まった。
・プーチンはイスラム指導者カディロフを傀儡政府に仕立て上げることでチェチェン紛争を内戦下させた。
――「カディロフツィ」はカディロフの息子であるラムザン・カディロフを中心に組織されていた。彼らは、身代金狙いや怨恨による誘拐、拷問、殺人、略奪、強姦など多くの悪質な事件を引き起こし、ロシア連邦軍以上に恐れられるようになっていったのである。
・2004年、アフマド・カディロフが暗殺され、息子のカディロフがチェチェンの首相、大統領となった。
(2)ダゲスタン共和国
・イングーシ人とオセット人との間に戦争が起こり、ロシアが仲裁した。原因は、イングーシ人がスターリンによって強制移住させられていた間に、オセット人が土地家屋を占有していたからである。
・オセット人は歴史的にロシアと良好な関係にあるため、他のコーカサス諸民族から疎まれている。
4 天然資源
アゼルバイジャンは古来から石油の産地だった。
ガスと石油のパイプライン建設をめぐっては、政治的な思惑が重視される。
BTCパイプライン……バクー、グルジア、ジェイハン(トルコ)を通過するルートで、2006年に完成した。バクーの石油が、ロシアを経由せず欧州に供給されることを可能にした。
カスピ海は海なのか、湖なのか。カスピ海に接する各国は、自国のエネルギー権益にとって都合のいい解釈を主張する。
アゼルバイジャンはエネルギー産業から利益を得たが、汚職と不正の横行、生活水準の低さは大きな問題であり、「オランダ化」(天然資源が枯渇したとき、国の基幹産業が何もない状態)を懸念されている。
5 コーカサス三国
アゼルバイジャンのアリエフとグルジアのシュワルナゼ……ロシアから距離を置く政策。
アルメニアは安全保障上ロシアに依存しているが、一方で欧米に対し親しみも感じている。
1996年結成されたGUAMは、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドヴァによる政治経済的協力グループである。方針は、民主化、ロシアの影響力排除、親欧米トルコ、EUおよびNATOとの協力、EUへの統合である。
2003年、グルジアで民主化デモがおこりシュワルナゼが逃亡した。これは「バラ革命」と呼ばれる。ウクライナと同じく民主化デモを支援したのは欧米のNGOだった。
革命によりサアカシュヴィリが大統領に就いたが、経済状況は悪化し、政治的な不正も是正されず、状況は悪化したといえる。
6 欧米、トルコ、イラン
米国はコーカサス三国に支援を行っており、理由は次のとおりである。
・エネルギー
・ロシアとの地政学的関係から
・人権外交
特にグルジアはEU加盟に熱心だが、実際に三国がEUに統合される可能性はほぼないと思われる。
・経済援助
・紛争解決
・民主化支援
NATOと三国の接近に対して、ロシアは警戒している。
トルコ……アルメニアとは険悪であり、アゼルバイジャンとは民族的に近いこともあり関係が深い。
イランには本国の2倍以上のアゼルバイジャン人が住んでおり、イラン人口の25%を占める。かれらはイラン社会で高い地位を占めており、独立や統合の動きはない。
イランとアゼルバイジャンとは、競合関係にある。しかしイランとアルメニア、グルジアとの関係は良好である。
今後
現在、コーカサスは小康状態にあるが、問題は継続するだろう。
――現在、南コーカサスの三国は、自国の体制を「欧米スタンダード」に近づけ、欧米諸国との親密化を図っているが、度を超すようなことがあればロシアの懲罰を避けられないし、ロシアに依存しすぎれば国家の独立性が保てず、国際社会からも孤立してしまう。
内政については、「民主化、選挙の公平・公正化、言論の自由の拡大、汚職や腐敗の撲滅、人権尊重」等の改善が必要である。
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◆メモ
特にロシアからの影響が強い地域であり、ロシアの外交政策をよく知る必要がある。
また、地域大国であるイラン、トルコがどのような指針を持っているかを知ることも、コーカサスを考える助けとなる。