ライブドア事件の概要だけでなく、当事者である堀江ら、また、村上世彰、検察官たちの半生がわかり、おもしろかった。事件がおきたときはだいぶニュースになったが、本書を読むとこれまで知らなかった事情も理解できる。
「世論」は、当事者や検察によって簡単に操作されることが示される。
ライブドアの成立
当初はWeb制作の会社だったが、業績が悪化したため、幹部の宮内、熊谷らが金融部門を動かし、企業の吸収合併等を行い巨大化していく。この過程で、宮内らは脱法スレスレの金融技術を利用する。ライブドアに目を付けた村上ファンドの村上世彰はかれらを利用し、こちらもファンド活動を行う。
一方、宮内、その友人中村とエイチエス証券の野口は、ライブドアの金を横領した。世間を騒がせたため、検察に狙われ、堀江ら主要幹部と村上は逮捕される。この検察による捜査がほぼでっち上げ、「国策」であることは、検察も公言しているようだ。
著者はライブドア事件を、若者対老人の構図を用いて解説する。
――モノを言わず、額に汗せよ――それが美徳とされている。だが、格差解消を御旗に地方への税金を投入しようとしても、いまの政策や制度を前提にすれば、本当に潤うのは公共事業を請け負う土建業者と私立学校の経営者、地方のエスタ開業医らブリッシュメントたちばかり、つまり歴代の自民党政権を支えてきた現在の勝者ばかりである。
――現在の格差の本質とは……国際環境の変化のなかで日本の国が衰退していることが背景にあるにもかかわらず、政界もマスコミも「かわいそうな人がいる」という表層的な格差議論に矮小化し、情緒的な対応を繰り返してばかりいる。……膨大な数の年寄りの優雅な暮らしの維持と1000兆円もの借金の支払いが、「モノ言わず、額に汗する」ことを強制される若い世代にかぶせられようとしている。
人物
ホリエモン……上場して多額の金を手に入れると抑制がきかなくなり、有名になりたい、大臣になりたい、宇宙にいきたい、と欲望を肥大化させていった。人望がなく、経営能力に欠けていたという。
ニッポン放送買収にかかわってくる大株主鹿内宏明は日本興業銀行に勤めていたが婿養子になりフジサンケイを受けついだ、しかし器が小さく、日枝久ら取締役からクーデタをおこされ排除される。
村上は東大卒エリートだが変わり者だったという。
――小学校時代から株をやっていて、しかもきわどい近未来小説を書いて出版しようとした男を、当時の通産省主流は起用したがらなかった。本人もそんなことを承知していたとみえ、『40歳になる前に役所をやめる』と早くから口にしていました。
――いまから十数年前、東大生だった堀江は、内面にあふれるエネルギーにどう点火したらいいか探りあぐねていた。それがインターネットとの出会いによって、内面にたまっていた火薬が大爆発する。
堀江は確信をもって東大を中退したという。
――……「技術者としての堀江の行き詰まりがあった。堀江はその当時では有能な技術者だったが、技術の世界に入りこめば入りこむほど、上には上がいた」
ライブドアはイーバンク騒動、プロ野球参入、ニッポン放送と騒ぎをおこしたが、安定した経営能力をもたないためにエスタブリッシュメントによってつぶされた。ただし、かれらの言動は、さまざまな問題提起となった。
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作中で佐藤優の本が引用される。
「これは国策捜査なんだから。あなたが捕まった理由は簡単。……国策捜査は「時代のけじめ」をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件をつくりだして、それを断罪するのです」。
――ライブドア事件は、規制緩和が進んだ新自由主義の行き過ぎを是正するうえで、起こるべくして起こった事件といえる。
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