うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『アラーの神にもいわれはない』アマドゥ・クルマ

 主人公ビライマの自叙伝がはじまる。

 口語文体によって、彼が正規の教育を受けていないことが示される。フランス語を使えないものは稼ぐことができない。

 同郷の贋金つくり、ヤクバとともに部族戦争中のリベリアに出発する。部族戦争とはおいはぎが「富の分配」をおこなっている国のことで、そこではスモール・ソルジャーが働いている。人がばたばた死ぬ国では、ヤクバのような悪党の仕事もやりやすいのだという。

 キャンプを経営するNPFL(National Patoriotic Front Liberia)の地区部長、善人グッド大佐のはからいで二人は軍に加わる。NPFLは敵対するULIMOと抗争をくりひろげていた。

 ビライマは子供兵になりカラシニコフを授かった。彼の話す大佐の経歴はおそらく捏造で、キャンプでおこなわれる神明裁判もインチキである。子供兵は童貞を失うと特権も失い、大人兵として扱われるようになる。

 NPFLの棟梁テイラーリベリアの国庫を使い込んでアメリカに亡命した。アフリカに戻ってくると、リビアカダフィ大佐ら独裁者の援助を受けてリベリアのドー政権に反乱をおこした。

 ケラーン族のサミュエル・ドーとギオ族のクィウォンパは、リベリアを支配するアフロ=アメリカン(解放奴隷の子孫、植民者)に対して反乱をおこし、政権を転覆させる。しかし大統領となったドーはクィウォンパとギオ族幹部を皆殺しにしてしまった。生きのこったギオ族はコートジボワールの独裁者ウフエ=ボワニやカダフィの助けを借りて国境警備隊を襲撃する。こうして一八九八年のクリスマスからリベリアの部族戦争がはじまる。

 子供兵はみなハシシュ(大麻)漬けになっている。とくに女子供兵はヤク中で人格破綻したものが多かった。

 ULIMOの管轄区域には金鉱があり、採掘がおこなわれている。子供兵の仕事は元親(出資者)の警護だ。金鉱が栄えればドルが手に入る。追いはぎがやってくると銃撃戦がはじまる。彼らの世界にはカラシニコフと呪物・ムスリムの迷信が同居している。

 くだけた口調と陰惨な生活に反してビライマの精神は道徳的である。仲間の子供兵士が死んだときは悲しみ、彼の生い立ち(生まれてから死ぬまでの短い間)をふりかえり、自分の所属する武装組織を「おいはぎ」と呼ぶ。マーンおばさんの消息を探すたびは、また西アフリカ現代史を眺めるたびでもある。

 国連の要請で出動したナイジェリアのECOMOG軍は、サミュエル・ドーとプリンス・ジョンソンとの調停役を務めようとする。ナイジェリアはアフリカの大国で、ECOMOG軍はリベリア内戦に人道的介入を行った。つまりゲリラでもなんでも殺せばいいのである。ビライマとヤクバはジョンソンの部隊に所属していたが、ジョンソンは武装解除したドーを襲撃する。

 狂信的カトリック、ジョンソンの凄惨なリンチを受けてドーは死に、死肉は食われる。

 旧イギリス植民地シエラレオネでは白人とクレオール(アメリカ黒人)が現地人を抑圧していた。ここで現地人の共産主義者フォディ・サンコーがRUFを創設しダイヤモンド採掘地を占拠する。

 シエラレオネは政府と軍隊と反乱軍の三つ巴の戦場となった。このとき政府側が雇ったのがエグゼクティヴ・アウトカムズである。

 政府の提案する国民集会(これは国連の指令である)に抗議してRUFが行ったのが、捕虜の両手切断である。「腕がなければ、投票はできない」。

 サンコーは資金源をもっていたので、たびたび停戦協定を破棄した。戦乱の原始的な姿をアフリカは垣間見せることができた。コートジボワールの独裁者ウフエ=ボワニ、ナイジェリアの独裁者サニ・アバチャの嫉みあい。トーゴの新興独裁者エヤデマ。結局、フォディ・サンコーはシエラレオネ副大統領におさまり、腕のない「長袖」「半袖」の決死の投票は無駄になった。

 両親を殺す入隊儀式を必要とする革命子供リカオンシエラレオネでは狩人、呪物師が力をもっていて、カバー大統領はサンコーに対抗するため狩人結社を味方につける。

 クルマはセリーヌに影響をうけたらしいが、たしかに口語体と罵詈雑言にその片鱗がうかがえる。凄惨な文書かと思いきや直接的な場面は少なかった。

 ビライマは自分の犯罪行為については口を閉ざしている。実際に子供兵だった子供が自分の体験を話すことはめったにないという。

アラーの神にもいわれはない―ある西アフリカ少年兵の物語

アラーの神にもいわれはない―ある西アフリカ少年兵の物語

 

 

 この本を読んだ後に、『ブラッド・ダイヤモンド』という映画を観たところ、ちょうどシエラレオネの様子が描かれていた。レオナルド・ディカプリオがエグゼクティブ・アウトカムズの傭兵を演じている。

  解放奴隷が自分たちのルーツであるアフリカに戻り、特権階級となった歴史は、カプシチンスキの『黒檀』でも言及されていた記憶がある。

ブラッド・ダイヤモンド [Blu-ray]

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黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

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