身のまわりの機械類がとても静かなのでその日太陽がかたむいて
砂の山が影をひくのにともなって、裏側にゆっくり沈んでいくのがわかった
山が連続して並んでいる、すりばちと、とがった波長のかたちをもつ、銀色と、つやのある砂の山、台地には、弟の眼には見えない、ぼやけた人びとの列が、砂をすくっては、歯と歯のすき間、歯の、すっかり変形した
エナメル質の面にすりこんで、維持、整備にとりくんでいる
かれら、わたしたち、子供の髪の毛をたべてうごく、長い名前をもつ人びと、学名を首のタグにつけた脳みそのない人間、労働または兵役に従事する
わたしと、となりの弟の遠い親せきたちが、夜風で冷えていく風景をながめた
小さな、強度の足りない、弟のあたたかいからだをもちあげると、自然物の香り、くだものと、ケシの植物のにおいがして、眼球を清掃した
山の輪郭、稜線はまばらな周期で変動して、風景のなかで、星座の面積は定まらなかった、このため、星の増えたり、減ったりにあわせて、弟の口、歯ぐきに生めこまれた、真っ白なシダが生えては、もぐっている
わたしは、弟の足くびをつかんで、胴体を逆さ吊りにしてもちあげた
肌のへこみやでっぱりに、いまは隠れているが、砂の山の表から、月が、小さな粒と、電気をおびたひものたばをのばす、何もない弟のからだをなでていくようにおもわれる
これは生きているあいだに結実することはないだろう
ずぶずぶと、編上靴、わたしの靴は砂にめりこんでいって、ひもの結び目から、銀のかけらがしみこんでしまった
黒い、大型瞳孔をそなえた、清潔な眼球をみると、古い文字が書かれている
その図鑑を、2人でいっしょに、ページをめくりながら、採掘場でおこなわれる、音のない、激しいゆらぎと、乱雑に埋められた、いたずら子供たちのちぎれたからだ。