うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『今日われ生きてあり』神坂次郎

 特攻隊員の遺書、整備員や周辺住民の手記等をまとめた本。

 著者は航空基地の通信員として働いた経験のある作家ということである。

 

 特攻隊員の陰に隠れて、批判から逃れようとする戦争指導者や指揮官の姿勢はよくない。

  ***

 特攻に志願した者の大半は学徒出陣で徴兵された学生だった。遺書や手記には、隊員たちが家族や知人、周辺の住民と交流する姿が残されている。

 上原良司少尉の遺書は、当時の検閲に引っかかったかはわからないが、その他の遺書とは異質である。

 

 ――人間の本性たる自由を亡ぼすことは絶対にできなくたとえそれが抑えられているごとく見えても底においては常に闘いつつ最後には必ず勝つということはかのイタリヤのクローチェも言っているごとく真理であると思います。権力主義全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも必ず最後には敗れることは明白な事実です。……明日は自由主義者が1人この世から去って行きます。

 

 著者は特攻隊員たちへの敬意を示す一方、特攻の立案者や軍首脳については厳しく批判する。有名な富永将軍や、隊を置いて島から逃げた師団長等が列挙される。

 

 ――……開けないでといわれたお骨箱をあけました。白木の箱の中に「霊」とゴム印を捺した1枚の小さな紙切れが入っていました。お父様はそれを見つめて『こんなものか、こんなものか』と唇をふるわせておいででした。日本という国の正体がこんなものだったのか、祖国に殉じた大事な正人の死がこんなものだったのかと、お怒りだったのでしょう。

 

 戦後、特攻隊員が蔑まれる時期があった。

 特攻隊はバカで間抜けな集団とされ、一方でソ連の決死隊は賞賛された。戦中、英雄扱いされていた特攻隊員の家族は、戦後迫害された。

 

  ――……(昭和)27年当時は、特攻は笑いものでした。私は、命をかけて守った日本と国民に裏切られ、非難される彼らが哀れでした。敗戦であっても、生命をかけた行為がなぜ罪悪といわれねばならないのでしょうか。

 

 ――戦争はその掲げたスローガンの如何に拘わらず、つねにそれ自身罪悪である。しかし、国家の忠誠義務の要請によって死んだ人は、その人びとの人生は、やはり同様の悲劇ではないだろうか。

 

今日われ生きてあり (新潮文庫)

今日われ生きてあり (新潮文庫)

 

 

 ◆その他

 

 ◆関連本

  その内、アップロード予定

特攻―外道の統率と人間の条件 (光人社NF文庫)

特攻―外道の統率と人間の条件 (光人社NF文庫)

 
陸軍特攻振武寮―生還した特攻隊員の収容施設 (光人社NF文庫)

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海軍伏龍特攻隊―付・米海軍技術調査団“伏龍”極秘レポート (光人社NF文庫)

海軍伏龍特攻隊―付・米海軍技術調査団“伏龍”極秘レポート (光人社NF文庫)

 

 

 

 

善き人

 最近は、ホロコーストボスニア内戦の本、ホップカークの本を読んでいた。

 歴史が、殺人と拷問の博物館のように見えることがある。この世には、何1つ当たり前のものはないと感じる。

 

 ◆時計

 『Into that Darkness』の主題である、収容所長フランツ・シュタングルFranz Stanglは、元警察官、中でも優秀な刑事捜査課Criminal Investigation Department出身であり、非常に穏和で、人格のある人物だった。

 かれは収容所の責任者として、絶滅収容所(はじめソビボルSobibol、のちトレブリンカTreblinka)の円滑な運営を維持した。

 実際の現場……ガス室や、火葬場には、ほとんど近寄らなかった。

 かれは、所長としての職責を果たすかたわら、小さな善行を積み重ねている。警察官として秩序を維持すること、家族を大切にすること、人には親切にすること、など。

 

 ――あるとき、移送されてきたユダヤ人が、「リトアニア人警備兵がわたしの時計を盗んだ」と訴えた。かれ(シュタングル)はリトアニア人兵たちを呼び、時計を盗んだものは名乗り出ろ、といった。しかし、盗んだのがリトアニア人将校かもしれないので、兵の前で犯人捜しをするのはよくない、とも考えた。かれはリトアニア人たちを一列に並べ、所持品検査を行った。結局時計は見つからなかった。著者は、訴え出たユダヤ人はどうなったのか、と尋ねた。シュタングルは言葉を濁したまま回答しなかった。

 ※ 絶滅収容所に到着したユダヤ人は数時間以内にほぼ全員が殺害された。

Into That Darkness: An Examination of Conscience

Into That Darkness: An Examination of Conscience

 

 

 ◆中央アジアの武将たち

 ホップカーク『Setting the East Ablaze』は、ロシア革命とそれに続く内戦時代の、中央アジア情勢を描く本である。本書には、レーニンやスターリンの指令を受けたコミンテルンのスパイや、混沌に乗じて自分たちの王国建設を志す軍閥War lordたちが多数登場する。

 ほぼ精神異常に近い、猟奇的な将軍ウンゲルン=シュテルンベルクUngern=Sternbergの行状が興味深い。

 

 ――自らをチンギス・ハンの生まれ変わりと考え、仏僧をそばに付け、内戦が始まると、モンゴルで軍隊を編成し、自分の王国を立てようとした。
 ――かれは輪廻転生を信じていたので、ユダヤ人、障害者はすぐに殺害した。それがかれらの転生をうながし、善行につながると信じていた。

 ウルガUrga(ウランバートルの旧名)において、ウンゲルンの軍は虐殺と略奪を行った。かれらは、パン屋で働いていた少年を、ボリシェヴィキのスパイだとして、パン焼き釜で焼き殺した。

 

 ほか、エンヴェル・パシャEnver Pasha、馬仲英、イギリスの政治将校、情報将校に関するエピソードがある。

 ウンゲルン=シュテルンベルクと馬仲英に関しては、対ソ干渉の観点から、日本が支援を行っていたという記述もある。こちらも別の本で調べたい話題である。

Setting the East Ablaze: Lenin's Dream of an Empire in Asia (Not A Series) (English Edition)

Setting the East Ablaze: Lenin's Dream of an Empire in Asia (Not A Series) (English Edition)

 
馬仲英の逃亡 (中公文庫BIBLIO)

馬仲英の逃亡 (中公文庫BIBLIO)

 

 

 ◆ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の歴史から

 ――看守や民兵は、楽しみながら拷問を行った。かれらは、昔のいざこざ……金を貸してくれなかった、雇ってくれなかった、恋人をとられた、等の仕返しをするのだった。
 父親に、娘をレイプするよう命じる
 バイクと睾丸をひもで結び付けてひきちぎる
 囚人同士で睾丸をかみちぎるよう命じる
 囚人同士で死ぬまで格闘をさせる

 ――町の名士だった著者の父親は、口座を凍結された。かれのオフィスであるスポーツ会館は、ムスリムを拷問し、首を斬り落とす屠殺場となっていた。屍体はバスケットボールコートに積み上げられ、やがて冷凍トラックが回収に来た。

 

『ソドムの百二十日』サド

 フランスの小説家サドによる幻想文学

 本書の構成は以下のとおり。

 

・背景

・登場人物

・計画

・訓示

・日課次元

・記録

 

 計画によって集められた少年少女は、4人の変態権力者の変態行為の犠牲になる。あわせて、4人の中年女が自分の経験した変態行為を話して聞かせる。

 ひたすら糞尿と変態行為の記録が続き、最終的には『悪徳の栄え』のように拷問と殺人に至る。

 変質大会に関して、割と計画が構成されているのが笑いどころである。

 おそらくこれが、作者の作りたかったものなのだろう。

 異様なオブジェのような本で、わたしのような素人には、読み進めるのは大変である。中間部はほとんど読み飛ばした。

 4人の変態権力者(公爵、司教、法院長、徴税請負人)は、1人を除くと、性的不能に近い。

 中年女の回想でも、変態行為に執着する性的不能の人物が多数現れる。何かの関係があるのだろうか。

 

 権力者たちの、悪徳と非道を追求する哲学、奴隷を苦しめれば苦しめるほどよしとする哲学が挿入される。

 糞尿趣味の者は、汚ければ汚いほどいい、と自説を開陳する。

 

ソドムの百二十日

ソドムの百二十日

 

 

「ワイルド・レンジ 最後の銃撃」

 制作:2003年

 監督:ケビン・コスナー

 暗い過去を持つ牛追いたちが、悪徳牧場主と主が雇った殺し屋を倒す映画。

 ケヴィン・コスナーとロバート・デュバルの復讐は筋が通っており、村人たちも協力する。

 コスナーと独身女性との交流が、特に後半はくどい。これを縮めれば10分くらい短くできたのではないか。

 戦闘……コスナーの連射や、精密射撃を見ることができる。

 西部劇の戦闘パターン……敵は分散して、一部は通りの裏に回る。住民が人質にとられる。