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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『『コーラン』を読む』井筒俊彦

 イスラームの神髄はコーランにあるため、この原典をまず正しく読む姿勢が重要であるという。講演を収録したものらしく、文は平明で読みやすい。

 

 1

 コーランムハンマドの口を借りた神の言葉として成立した。

 コーランの語源は「口に出して読む」という言葉に由来するというが定かではない。

 7世紀にオスマンによって編纂され、年代とは逆順に並べられている。それまでは、断片的なテクストであり、ひとつの聖典としてまとめられていなかった。

 初期のメッカ時代の預言は終末論的であり、中期から徐々に緊迫感が和らぎ、メディナ時代の後期には、預言は現実的な指示、道徳論に変化していく。

 書かれた本は様々に解釈が可能だが、本書はコーランの正統的な読み方を特に解説したものである。コーランの成立時期とわれわれの時代は隔たりがあるため、当時の環境や社会についても知っておく必要がある。

 

 2

 冒頭の開扉の7節について。

 神は直接経験することができず、アラーやヤハウェといった名前を持つことで顕現する。コーランについても、アラブの商人の言葉を借りて伝えられた神の言葉であり、神自体は根源語をしゃべる。このように、神は形而上的な存在である。

 アラーは99の名前を持ち、慈愛のある面と、恐ろしい復讐者の面とを併せ持つ。

 

 3

 慈悲深く、慈愛あまねきアラーというとき、「慈悲」は無差別のものを、慈愛は選択的なものを示す。

 ユダヤ教は神の名前を極端に隠すが、イスラム教においては神の名を連呼する。

 他の古代宗教と同じく、イスラム教においても、ものの名前とは存在することであり、名を知ることは重要である。

 イスラームは神を賛美する宗教である。

 ――存在が即賛美であること、しかもそれにも拘わらず人間には賛美を拒否する自由があるということ、そして最後に、地獄に堕ちた人はもはや絶対に賛美する能力を取り戻すことができないということ、これが『コーラン』的宗教の1つの中心点です。

 

 4

 神は全世界を創造しているため存在するものはすべて神を賛美している。ただ人間のみが賛美を拒否する自由を持つ。正しい道を歩まぬ不信仰、無信仰はカーフィルと呼ばれ、イスラーム教徒はカーフィルと闘わなければならない。

 神と人間との関係は、主人と奴隷との関係である。

 

 5

 コーランの叙述は、現実的なもの、想像的なもの、説話的なものに分かれる。

 想像的な言葉とは、夢、無意識、幻想を指すものである。主に終末や天国の表現に用いられる。

 リアリスティック

 イマジナル

 ナラティヴ

 

 6

 終末の表現は巫女やシャーマン(カーヒン)の言葉を思わせるイマジナルなものである。しかし、コーランにおいてこの3つの文の形態は渾然一体となっている。

 

 7

 審判とは、死者が皆復活し、裁きを受け天国または地獄に振り分けられる鮮烈なイメージを喚起する。イスラームにおいて復活は重要な概念である。当時アラビア半島には「人生は1回きりで、死ねば亡びる」という思想が普及していたが、コーランにおいては反信仰として批判される。

 イスラームの信仰は感謝と畏れの二面によって成り立つ。

 

 8

 イスラームにおいて神と信者は主人と奴隷の関係にある。また、信者は完全な個人となり神の審判の前に立たされる。無道時代においては、個人という概念は存在しなかった。人間は皆部族の所属であり、そうでなければ動物か物以下の奴隷か浮浪者でしかなかった。

 イスラームの神とは、イブラヒム、イサク、ヤクブの神である。イブラヒムを祖とする神を信じるユダヤ教キリスト教イスラム教の信徒こそ、純正な信徒(ハニーフ)である。

 コーランでは多神教が否定される。

 無道時代においては部族の慣習(スンナ)がすべてだった。イスラームはこうした慣習を否定した社会革命でもあった。イスラーム成立後、ウンマ(共同体)が生まれハディース(預言者言行録)がつくられると、同じくスンナが定着した。

 

 9

 絶対他力本願としてのイスラームを理解するためには、「存在の夜」を理解しなければならない。

 ――もともと『旧約聖書』と『コーラン』は姉妹関係にある聖典ですので当然かもしれませんが、どちらも濃密に妖気漂う世界です。さっきは存在の夜といいましたが、深々と闇に包まれた世界。悪霊、妖鬼……よく百鬼夜行などといいますが、そういうものが空中にうごめいている、そんな世界なのです。

 古代の世界では、ささやくということは呪いをかけることを意味する。呪詛、憎悪、嫉妬、悪霊、ひそかに隠れたところでそういう悪の力が渦巻く世界である。

 預言について……預言者はナビ、預言者の中でもそれを世に広める役割を担った者が使徒(ラスール)という。

 

 10

 預言はコーランの中心である。アラーが話した言葉は天使ジブリールによってアラビア語に変換され、それをムハンマドが受け取る。

 神は明るい側面と暗い側面を持っている。神は人間を正しい方向に導くとは限らず、邪道、魔道に導く可能性もある。だから「開扉」には、正しい道に導きたまえという文言がある。

 神が人間を正にも悪にも導くということは後世において問題となる。善人になるも悪人になるも宿命によって決められているとすれば人間は積極的意欲を喪失して無気力になり、ニヒリズムに陥る。イスラームはこうした問題を抱え込んだ。 

『コーラン』を読む (岩波現代文庫)

『コーラン』を読む (岩波現代文庫)