教科書
モデル、理論を利用して政治現象を実証的に研究し、さらにモデル等を発展させていく今日の政治過程論について教育するもの。各分野における研究について説明する。
1部 理論と概念
1 理論と方法
政治過程論は、政治家、政党、官僚、利益団体、市民などの政治アクターの相互作用を動態的に分析する。
伝統的な政治学は制度や憲法などを静的に研究する学問だった。20世紀初頭のアメリカにおいて、実際の政治活動を実証的に研究しようと試みる行動科学が生まれた。政治過程論はアメリカを発祥とする学問である。
政治過程研究に際しては、推論、観察可能な含意(理論における抽象的な概念を観察可能な指標に置き換える作業)、記述的推論や因果的推論といった方法論が用いられる。
因果的推論においては独立変数が従属変数を動かす。変数のコントロールが、因果関係の確定の際には重要である。
――要点は、調査をするにあたって、わたしたちは何を知りたいとおもっているのか、そしてそのためにどのような手続きを踏まなければならないのかについて自覚的でなければならないということである。
政治アクターの相互作用分析には、「権力power」ないし「影響力influence」が重要概念となる。
権力のとらえ方、権力構造のとらえ方(エリート論、多元主義、ネオマルクス主義、ネオコーポラティズム)等。権力が一元的であるか、多元的であるかは意見が分かれる。
2 政策決定過程
個人や組織がどのように政策を決定するか(選択するか)について、合理モデルや満足モデル、漸進主義モデル等がある。
組織過程モデル……組織はゆるやかな下位の組織からなる。特徴として、過去の決定を繰り返す。矛盾する2つの決定をする、重複する決定をする。
組織内政治モデル……組織は役職についている人間の集合である。組織はかれら役職者たちの駆け引きの結果である。特徴として、自己利益を最大化することを目標とする。自己利益を実現する機会を探し求める。駆け引きの結果、中途半端で玉虫色な政策が出てくる。
近年のモデル:組織類型論、新制度論、国家論、政府間関係論(政府と自治体)
3 課題設定・政策実施・政策評価
政策決定以外の段階を分析する。
従来のモデルでは課題が政策を作りだすが、実際には政策があって、課題を見つけようとすることもある。
ゴミ缶モデル……政策決定参加者の選好は不確かである、参加者の知識情報は不正確である、参加は流動的である。以上の前提から「組織化された無秩序」状態が生まれ、政策と課題の結びつきがゆるやかになる。
2部 個人
4 政治システムと個人
民主主義における個人とはどのような存在か。かつては政治エリートや利益集団など、一部の勢力だけが分析の対象だった。20世紀、大衆社会の発生や、全体主義の台頭を受けて、一般大衆mass publicも重要な分析対象となった。
民主主義における個々人の心理や行動を研究する。
ある国の政治現象を「政治文化」として済ませる風潮に対する批判。
政治に対する意識が個人の中で培われる過程に関する研究。
日本では政治システムと個人の行動に関する研究は、投票行動にほぼ限られているが、外国では社会的性格、政治文化、政治的社会化、人間関係資本等、様々な概念の測定が行われている。
5 世論と投票行動
一般国民が選挙の際どのように行動するのかの研究。投票行動研究は、有権者が、なぜ、特定の政党に投票したのかを分析する。一方、世論調査は、有権者が政治をどのように見ているかを分析する。
・社会学モデル……社会経済地位、宗教、地域といった社会学的要因が投票に影響する。
・心理学モデル……政党帰属意識、候補者イメージ、争点態度が影響する。
・合理的選択モデル……有権者は合理性を持っており、よって数理的な手法で行動を分析することができる。人びとは業績を見て次の行動を予測し投票する。
6 選挙制度と政治参加
選挙制度を考えるには、選挙区制、投票方式、代表制の3つの側面に分けるのがよい。
・選挙区制……1人1区か、1区に10人や20人か
・投票方式……単記か連記か
・代表制……多数代表か、少数代表か、比例代表か
有権者は自分の1票の効果を最大化しようとする。あまり効果が出せないと感じると、投票しなくなる。接戦である場合には、投票率は一般に高くなる。
心理学的な面からは投票コスト(時間、日時、不在者投票の有無)を下げることが投票率に影響する。
投票以外の政治参加……選挙関連活動参加、地域活動参加、直接陳情
自分が政治に影響を与えられるという感覚(政治的有効性感覚)の有無が、投票行動を大きく左右することがわかった。
政治集団のみが活動する古い政治から、住民投票等の新しい政治への移行が見られる。