文学的マニエリスムについての評論だが、この本自体が散文詩のような体裁だ。言葉遣いが表現主義的である。くりかえしが多い。
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マニエリスムは古代アジアより連なる反古典主義・反自然主義の伝統であり、「表現の効果甚大なつり上げ、もしくは極端に冷ややかな還元、秘匿と極度の明快、謎化と喚起、暗号記号化と憤りをよび起す<啓示>……人工的、作為的、虚飾的な、極端につり上げられた、もしくは極端に誇張した表現様式」、「不調和なるものの崇拝」を特徴とする。また、クレタの迷宮を建設したダイダロスにみられる「情動と計算の融合」をも特徴とする。
マニエリスムはまず文字そのものにたいする遊び、秘術からはじまる。古代にはラテン語やギリシア語で多数のアナグラムや、同じ文字を繰り返し使う詩法などが用いられた。
文字そのものの遊びにつづいて、ことばの組み合わせを論じる。ここではゴンゴラやシェイクスピアといった撞着語法の使い手や、近現代に入ってのシュルレアリストや現代詩のことばづかいについて言及する。
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エウヘニオ・ドールズのバロック論にも、古典主義と反古典主義、ふたつの伝統の対立ということが書いてあったが、本書によればバロックとマニエリスムは同じではないという。バロックはマニエリスムのいくつかの特徴をもつが、より秩序的であり、権威や体制に順応している。
マニエリスムはベンが言うように美以外のなにものにも奉仕しない。
機智と明察についての項はほとんどわからなかった。
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世界は迷宮だが、この迷宮を解き明かすウルトラ芸術家があらわれるだろうか。これがマニエリスム的<問題的人間>の衝動である。
――マニエリスム的原身振りの緊張を鼓舞するところのものは、つねに、世界の一体性を渇望するいうまでもなく壮大な熱望のうちにひそむこの宿命的な葛藤である。
文学におけるマニエリスム 言語錬金術ならびに秘教的組み合わせ術 (平凡社ライブラリー)
- 作者: グスタフ・ルネ・ホッケ
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2012/08/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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