うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『軍事学入門』

 本書は防衛大の講義に使われているという。

 「軍事力というものを国際的な視点、通念でとらえ、軍事力の本質や特質を記述」することが、本書の目的である。

 軍事力とはなにかの理論、歴史研究、現代の軍事力、現代戦、後方支援、科学技術の6章からなる。

 軍事力は国家にとって強制・誘導・拒否、抵抗などの力をもつ、など自明のことを記述するだけでなく、政軍関係の起源などこれまでわたしが知らなかった領域についても細かく言及している。ただ、文章が若干不自然だったり文法の怪しいところが目につく。

 ひろく軍事に関する問題を扱う軍事学には、戦争についての哲学も含まれる。しかし本書では主に社会科学的な分野を扱う。

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 軍事力の構成は陸海空による分類や方面軍などが代表的だが、各国の政策に依存するため一様ではない。政軍関係とは、端的にいえば文民統制(シビリアン・コントロール)の問題である。建国時のアメリカは、貴族と軍隊が一体化した常備軍を忌避し、民兵を賞賛した。やがてプロイセンクラウゼヴィッツなどの理論家が職業専門家(プロフェッショナル)としての将校団を提唱することで、政治と軍事の分化が進められた。軍事を政治に従属させ、また軍隊を非政治化する文民統制の思想は、軍人の政治化が好戦主義や拡大主義につながることを懸念して生まれたものである。しかし、文民、政治家が軍人の反対を押し切って戦争に踏み切ったり、支持率のために好戦主義をかかげる例もあるため、文民統制がとれていれば問題がないということではない。

 核兵器の発明とともに戦争の形態は大きく変わり、政治目的を達成するための、外科手術的な、「限定的な軍事力の利用」が、戦争の主要な形態となった。冷戦以降の戦争のほとんどはこの種の限定戦争である。

 実際の武力行使のみならず、70年代の米国砲艦外交に見られたような、「意志の変更をもたらすための軍事力の使用形態」の重要性も見逃せない。

 軍事力の限定使用の際の、政軍間に生まれる緊張を解決するために米国が打ち出したのがROE(Rules of Engagement)である。これは「陸海空軍の部隊が敵と交戦を開始し、あるいは継続する際の環境または制限を規定する政府の指針」である。

 軍事と関連する国際法には、武力行使が違法か合法かを定めるものと、戦時国際法との二種類がある。

 国連憲章では、「自衛権の行使を開始できる時期は、相手が武力攻撃のための行動を開始した時点である」。戦時国際法は、陸海空戦闘から背信行為(降伏のふり、民間人のふりなど)の禁止、中立国への配慮まで、広範にわたって規範を定めている。戦時国際法が遵守できているかどうかは、中立国の支援や国際世論に大きく影響するため軽視できない。

 リーダーシップは旧軍では統率といった。統率とは指揮、管理、統御の能力をいう。軍隊におけるリーダーシップで特筆すべきなのは……指揮官の重要性、教育訓練の重要性、士気、死生観である。軍隊にとって死は規定事項のため、死生観、宗教観などが職務に大きくかかわってくる。

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 戦史、軍事史の研究・学習こそが、軍事学の根本である。歴史を謙虚に学び、温故知新のことば通り、未来に役立てる心がけがもとめられる。

 歴史からわかる軍事力の意義は以下の通り……軍事力は政治目的を達成する手段である。軍事力は国家・社会を変革する。軍事力造成には適正な政戦略が必要である。軍事力を左右する技術競争が軍縮の質を決定する。

 戦略と戦術……戦略が「方針的、包括的」であるのにたいし、戦術は「実務的、具体的な戦力の運用方法」である。まず国家理念があり、この下に文民による戦争指導(大戦略grand strategy)があり、この下に軍事戦略、作戦戦略があり、最後に戦術tacticsがある。

 軍事技術や生産技術の発展によって戦略は変化してきた。また国際政治の環境は日々変わりつつある。ほか陸上戦力、海上戦力、航空戦力など各分野の戦略史家について概説している。

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 陸上戦力は軍事力の基礎であり、本質的役割は「地域の占領支配」である。部隊は徒歩、装輪、装軌、空中機動力の4要素を含む「師団」を基本単位とする。のみならず後方支援、C4(指揮、統制、通信、情報)、施設、部外機関との協力も重要である。

 陸上作戦の分類には決戦および持久戦、内線および外線、攻勢と防勢、ほかに着上陸と対着上陸などがある。

 海上戦力……マハンは「シー・パワー」なる概念を提唱したが、シー・パワーとは「第一に国土が海上交通の要所にあるか否かの地理的位置、第二に国土が海洋に面し適当な港湾があるかなどの地形的環境、第三に領土の大きさ、特に海岸線の長さ、第四に人口数、第五に国民の海洋力に対する認識と熱意などの国民性、第六に海洋を利用し支配しようとする国家政策……政府の政策」をさす。

 たとえば艦隊の寄港が相手国への友好を示すように、海上戦力は国際政治への強い力をもつ。"Show the Flag"は艦艇がもつ象徴性をあらわしている。海上戦力は、空軍につぐ機動力をもつため、実際の攻撃行動だけでなく、相手国への意思表示や威嚇にももちいることができる。

 ――このように海軍作戦は柔軟性に富み目的達成には各種の手段が選択可能であり、平時や戦時にも適用範囲が広い特質がある。

 航空戦力、すなわちエア・パワーは、現代戦において無視できない重要性をもっている。航空優勢(Air superiority)の確保は、戦争の勝利に不可欠である。航空戦力は技術力、後方支援に依存する割合が多い。

 統連合作戦……統合作戦とは陸海空の合同作戦であり、たとえば源平合戦は陸軍と水軍との統合作戦である。連合作戦とは連合国家による合同作戦であり、古くは元・南宋から、清朝における八カ国連合軍、第二次世界大戦まで、歴史上に例は多く見られる。現代戦の様相および、集団安全保障の重視される現代においては統連合作戦は不可欠になっている。

 よって、三軍の指揮統制をつかさどるC4I……コマンド、コントロール、コミュニケーション、コンピュータ、インテリジェンスが、軍事力の基盤をなすようになった。

 ――今までの国際関係の力学を支配していたものは軍事力というパワー資源であったが、今後は情報が国際関係の鍵を握るパワー資源になるのではないか。すなわち、C4Iの優劣で勝敗が決定するといっても過言ではなく、これをどのように整備していくかが効果的な軍事力を育成するうえの鍵ともなったのである。

 同じく現代戦において重要な位置を占めるのが電子戦である。湾岸戦争電子戦によってほぼ勝負が決まったともいわれている。ミサイルはナチスドイツによる発明が起源であり、現在、高価だが絶大な威力をもつ兵器として活用されている。ミサイルには砲弾と同じく放物線を描く弾道ミサイルおよび、翼によって制御される有翼(巡航)ミサイルとがある。迎撃兵器も並行して開発が進められてきた。

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 NBC兵器とは核nuclear、生物biological、化学chemical兵器のことをさす。これらは大量破壊兵器(WMD weapons of mass destruction)に含まれる。化学兵器の歴史は長く、古くは古代国家が毒ガスや毒の煙を敵陣地に巻いていたようだ。現代において、毒ガス兵器をはじめて利用したのは第一次大戦のドイツ軍であり、東部戦線、ついで西部戦線のイープル攻勢にて塩素ガスを利用した。防護対策の整っていなかったフランス軍は大量の死者と負傷者を出した。

 ――連合軍兵士が、塹壕を追い出され、喉をかきむしり血へどを吐きつつ夢遊病者のごとくただひたすら敗走するさまは地獄絵を見るようであったという。

 化学兵器は防護対策や地理・気候に大きく依存し、環境によっては核兵器に匹敵する被害を与えることになる。

 ナチスドイツが敗戦とともに武装解除されたとき、毒ガスのタブン、サリン、さらに強力なソマンというガスが大量に発見された。この技術は連合国に持ち込まれ、生産された。その後アメリカでより強力なVXガスが開発されたが、現在のところ大量使用は抑止されている。

 ガスには致死目的のものがあり、神経剤、びらん剤、血液剤、窒息剤に分類される。びらん剤とはマスタードガス、ルイサイトなどで、皮膚をただれさせる効果がある。神経性にはサリン、ソマン、VXが含まれ、血液剤には青酸やシアンが含まれる。

 生物兵器は細菌や病原菌、ウイルスを用いる兵器であり、技術上の問題からこれまでは実現可能性薄しとされてきた。ところが近年の遺伝子工学、生物学の発展により、本格的な規制のための条約整備が待たれている。

 BC兵器は、大規模施設が必要なN兵器と違い、比較的安価に製造できる。これはサリン事件などから明らかである。

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 後方支援は兵站、ロジスティックスとほぼ同義である。複雑化、巨大化した現在の軍隊において、補給は膨大な量、コストになる。

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 専門用語が多く理解できなかった電子戦の項についてはまた別の本で勉強したい。安全保障や国際関係だけでなく、どんな歴史を考える際にも、軍事とはなにかについての基礎がなければならない。

 

軍事学入門

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