うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『中国の闇』何清漣

 『中国の嘘』につづく本書では、とくに中国の黒社会について論じる。

 黒社会は共産政権誕生後一時なりをひそめたが、改革開放期にふたたび発生した。八〇年代、九〇年代と組織は巨大化し、業務は広範に及ぶようになり、二〇〇〇年代になると、政府と黒社会が結託する、政府が黒社会化するという現象が見られるようになった。

 黒社会とは、地縁と血縁によってむすばれる中国特有の秘密結社である。現在黒社会は東北三省(遼寧吉林黒竜江)および東南沿岸の広東、四川、広西、雲南、山西などで活発である。

 東北三省では基層政権という末端の役人と黒社会とが強く結びつき、黒社会のボス(老大)が「第二政府」とよばれる例がいくつもある。東南沿岸の黒社会は、香港、台湾、マカオ等のマフィアとの関係が緊密である。

 二〇〇〇年代に入り、黒社会は原始的な強盗殺人・窃盗集団から、政府と提携して司法警察・金融・公共財などを牛耳る巨大組織・企業へと発展した。現代の黒社会は通常フロント企業を配し、構成員にも役職が割り当てられる。しかし、担い手は冷酷な職業犯罪者が主であり、おきてをやぶったものには凄惨な刑罰がくわえられる。

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 現代中国における黒社会の発生について、著者は二つの要因をあげる。逆T字型の格差社会と、恩顧主義政治である。

 逆T字型とは、底辺層が多く、中産階級がまったく存在しないアンバランスな社会である。毛沢東時代には、全体主義によって黒社会の勃興は抑えられていた。改革開放期、中国社会は富の追求を国家目標にかかげた。しかし、富を手にするものは一部である。富を求めながら、その手段を与えられなかった底辺の人間のあいだに不満がつのり、社会は不安定化した。土地緊縛がなくなり、農村にも都市にも帰属しない出稼ぎ人たちが大量に生まれた。彼ら、富を求める底辺階級にとって、黒社会の活動は低リスクの手段である。

 では恩顧主義政治とはなにか。「政府と黒社会が「保護者と被保護者」となって形成する利益交換のためのコネのネットワーク内で公共権力を私物化して運用すること、言いかえれば権力の自己利益化」である。

 この要因に立脚した黒社会の繁栄の担い手は、おもに警察・公安・司法関係者である。

 黒社会の進出が著しく、また富豪が異様に多い分野が不動産業である。地方政府は都市計画や建設計画のために農民や都市民にすずめの涙ほどの補償金を与えて家を追い出し、安値で土地を買い取る。買い取った土地を不動産会社に売ることで、役人と黒社会がお互いに利益を得られるのだ。政府による住民の強制立ち退きは中国においては日常茶飯事である。警察や職員による嫌がらせ、軟禁から、政府が雇った「身元不詳の暴漢」による暴行・破壊まで、その人権侵害は広範にわたる。

 不動産問題だけでなく、人権活動家にたいするこうした暴行も近年は多発している。黒社会構成員を雇ったこうした作戦は、フセイン金正日よりも洗練されているといえよう。中国における法は国民の権利を制限し抑圧する傾向にあり、「法治国家」というよりは古代の法家思想に近い。

 現在の政府の黒社会化は、あらゆる点で当初のマルクス主義が標榜した目標と矛盾する。

 ――中国の高級、中級官僚の一般的な心積もりは、がっちり金を儲けたら一家をあげて外国に定住しようというものである(中には先に子女や家庭を外国に送り出している者もいる)。

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 著者は中国研究の困難さを強くうったえる。

 国家統計局の出す数字はでたらめ、研究者が調査できる範囲は制限がある、留学生は愛国戦士である、論文を書いても事実と乖離していることが多い、等等。中国「繁栄論」のなかには、背後に利益団体を控えた経済学者による音頭にすぎないものもある。

 ――筆者は「繁栄論」は事実に対する誤った理解の上に成り立っていると考える。だが、「崩壊論」も西側社会の民情からくる中国理解であり、民意の支持を欠いた政府の寿命が長いはずがないという思い込みである。事実に基づけば、中国の経済は「繁栄論」者が認定するほど繁栄してはいないが、だからといって「崩壊論」者が構想するように十年から十五年で崩壊状態に陥るとは限らないだろう。

 中国の安定をおびやかす要因は4つ、環境破壊、道徳崩壊、就業厳冬期、農村問題である。中国の高学歴は現在供給過剰にあり、「卒業、即無職」の苦境に立たされている。中国経済が求めているのは、質の低い出稼ぎ労働者であり、苦労して高等教育を終えた人間はさらなる競争にさらされる。この状況は1930、40年代にも見られ、このときは職にあぶれた高学歴がみな共産党に駆け込んだ。

 中国人には「聖君賢相」思想という傾向がある。地方政府や小役人を批判する一方で、皇帝や中央をあがめるというもので、彼らは現状を、「中央の政策はいいが下級役人が腐らせている」と解釈する。毛沢東はこの精神的傾向を活用し、個人崇拝によって巨大な権力を手に入れた。「聖君賢相」思想はいまでも共産党政権を正当化する要素のひとつである。

 政治エリートは「内部文書」によって中国の実情に通じている。「政治退場」システムによって、彼らはさっさと金を儲けてアメリカに移住する。政治エリートや役人にとって、中国大陸は手っ取り早く金を得る場所でしかない。

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 著者は中国の将来を考えるにあたり、ラテンアメリカ関係の書籍を読破したという。民主化の挫折、専制、貧困問題などについて、中国・ラテンアメリカ旧ソ連といった地域を互いに比較することは有意義だろう。

 

中国の闇―マフィア化する政治

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