うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『尖塔』ウィリアム・ゴールディング

 大聖堂を舞台にした、ゴシック小説の雰囲気をもつ話である。

 大聖堂の参事会長ジョスリンは、二〇〇フィートを超える尖塔を、大聖堂の上部に増築しようという野望にとりつかれており、模型を片手にいつも堂内を徘徊している。

 大工の棟梁ロジャーは大聖堂の基礎が浅く尖塔の建築は不可能だと考えており、ジョスリンに不満をぶつけるが彼はとりあわない。

 参事会のアンセルムはジョスリンに完全に愛想を尽かしている。

 堂守の一家は土方たちのからかいの種にされ、不満をつのらせている。

 四方を敵に囲まれているジョスリンは、それでも塔の建設を神の意志と考え、天使の幻覚を支えに計画を強行する。

 

 強迫観念にとりつかれ、また絶大な自身を抱くジョスリンの思考と、大聖堂の薄気味悪い風景、竪坑の底から突如湧き出した地虫、中庭を埋め尽くす建材と切り出した石、埃、そしてジョスリンの幻覚・幻視など、おどろおどろしい世界のなかで物語は進む。話自体はひたすら塔を建てるという単純なものである。

 無理のある工事計画はやがて目に見えて矛盾をさらけ出し、建設中の尖塔は風に吹かれてきしむようになり、またジョスリンが頂上付近にのぼったところ、塔全体が微かだが左右に揺れていることがわかる。親方のロジャーは高所の作業を怖がるようになり、いつ崩壊するかわからないとジョスリンに中止を呼びかけるが、無視された。
凶兆はつづき、堂守パンガルの嫁グッディは産褥で死に、赤子もすぐに死ぬ。グッディに親しみのみならず性的欲求も抱いていたとおもわれるジョスリンは彼女の死に打ちのめされ、ますます精神に変調をおこす。

 エイハブのように、彼も自分の欲望によって押しつぶされて死ぬ。聖堂建築は失敗し、大工は死に、自分も負傷と病気で死ぬ。聖なるものを目指そうとしても悪徳に結びつく。

 

尖塔―ザ・スパイア

尖塔―ザ・スパイア