うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

無職は緑色の服

 ◆聖書とトクヴィル"Democracy in America"

 現在、文語訳聖書とトクヴィルを並行して読んでいます。

 植民地時代のアメリカ合衆国では、各タウンごとに高度の自治が行われており、敬虔な教徒の集まる集落では聖書にならった法律が施行されていたということです。

 

 ――1650年コネチカット州の刑法は、聖書からの引用で成り立ち、異教徒、強姦、涜神blasphemy、魔女、姦通adultery、親への反抗……を死刑に処すると書かれている。これは極端な専制的なルールだが……

 

 上述の厳しいルールは申命記(Deuteronomy)などを参考にしているようです。

 下は、親に対して反抗的な子供は石を投げて殺せという掟です。

 

 ――人にもしわがままにして背きもとる子ありその父のことばにも母のことばにもしたがわず父母これを責むるも聴くことせざる時は……しかるときは町の人みな石をもてこれを撃ち殺すべし

 

 トクヴィルは当時の反動的なフランスに対してもう1つの道を探すためにアメリカ合衆国を旅行したそうですが、アメリカにおける民主主義に関して、当時の自由主義的政治の最先端と評しながら同時にその限界や危うさも指摘しています。

 こうした合衆国の繁栄の一方で、原住民たちが絶滅に追いやられていることもトクヴィルは書き残しています。

 

 ――ただし、平等な人びとの政治的帰結には、万人の平等と、万人の隷属の2パターンがある。アングロ・アメリカ人は幸運にも万人の自由を選択した。

 

 なおトクヴィルのペンギン英訳版は非常に読みやすい英語です。

舊新約聖書―文語訳クロス装ハードカバー JL63

舊新約聖書―文語訳クロス装ハードカバー JL63

 
Democracy in America and Two Essays on America (Penguin Classics)

Democracy in America and Two Essays on America (Penguin Classics)

 

 

 

 

 ◆3兆ドルのイラク戦争

 スティグリッツの"The Three Trillion Dollar War"を読みました。

 イラク戦争開始時、ブッシュ政権と軍は、侵略が低コスト・短期間で終わると主張していましたがそれは間違いであることがわかりました。

 

 ――もっとも残念なのは、ほぼすべての不安要素が、戦争前にすでに学者や専門家によって予測されていたということである。

 

 本書では、国防総省・退役軍人省、その他省庁や政権のひどい有様が指摘されています。

 

 ――これまでの軍事費、将来の軍事費、退役軍人への支出、隠れた軍事支出、返済利子を総合すると、イラク・アフガン戦争全体で、少なくても2.3兆ドル、現実的に見積もって3.4兆ドルとなる。ここに経済への影響は含まれていない。

 

 ――戦死者に対しては50万ドル(弔慰金10万と遺族保険40万)が支払われる。しかし、一般社会において労災により死亡・後遺症となった場合ははるかに高額が支払われる。

 

 ――負傷し除隊した軍人は、国防総省と退役軍人省とのはざまに立たされる。2つの省庁は連携が取れておらず、現役から退役軍人への移行に長期間を要する。その間、傷病兵は無職・無収入の状態であり、無数の書類手続きに悩まされる。

 ――榴弾砲で重度の障害者になったある兵隊は数年間1銭ももらえず、著者がニューズウィークにこの事案を話してから支給が始まった。

 

 ――アメリカは石油のために侵略した、という説は多くみられるが、この目的に関してアメリカはみじめに失敗している。戦争の真の受益者はエクソンモービルのような一部の石油会社だけである。

 

 アメリカ政治は一般的に議会が強い力を持つとされますが、それでもイラク戦争からは、行政府に対するチェック機能が弱かったという教訓が導かれています。

 この教訓は、権力集中指向の議院内閣制を有する日本にとっても参考になります。

 

 ――建国の父たちは行政権力の暴走をよく認識しており、政府の基本を抑制と均衡(Check and balance)に置いた。
 ――ブッシュ政権共和党は議会の多数を占めており、政権はフセインに関する脅威情報をコントロールすることができた。議会は、この情報に反論する術をもたなかった。また国連は、自衛権の行使と安保理の承認時に限り武力行使を認めているが、合衆国は国連の承認を得ずにイラクを侵略した。 

 

 ――市民には自分たちの払っている税金がどう使われているかを知る権利がある。また政府が何をしているか知る権利がある。

 

 税金の使われ方に疑問を持たずにただお上を盲信するのは詐欺にひっかかるのと変わらないのではと思う。昔、兵隊風の公務員として働いていたとき、貴重な予算が棒振り運動や、ゾンビ日本企業のポンコツ装置、OBがひしめく謎企業につぎ込まれていくのを目の当たりにして、わたしの国に対する考え方は180度変わった。

The Three Trillion Dollar War: The True Cost of the Iraq Conflict (English Edition)

The Three Trillion Dollar War: The True Cost of the Iraq Conflict (English Edition)

 

 

 

 ◆『On Tyranny』Snyder, Timothy

 日本語では『暴政』という題で出版されている。中身は簡潔だが非常におもしろい。

 著者はアメリカの歴史学者で、ウクライナ/ロシアの文献を用いた独ソ戦ホロコーストの研究、『ブラッド・ランド』、『ブラック・アース』などが有名である。

 本書はトランプ大統領およびロシアのサイバー・情報戦に対する批判を通して、僭主(タイラント)・圧政の出現を阻止するために何が大切かを説明する。

 わたしはこの本を読んで具体的な行動に移そうと考えた。細部は以下のとおり。

・調査報道または見極めた地方新聞やジャーナリストにお金を出す

・非政府組織の活動:ブラック労働、役人ウォッチ、学校問題

 

 特定の人にしか使われなくなった、冷戦脳的な『民間防衛』よりも、こちらを読んだ方が得るところは多かった。

 

 ――自由を奪おうとする勢力に対し常に警戒していなければならない。

 ――医者、実業家、役人、法曹たちが職業倫理を持ちナチスの非人道命令に抵抗していれば、歴史は今と違っていただろう。各職業が自分たちをひとつの集団として認識し、倫理と規則を遵守することを心がければ、それは大きな力になる。

 ――軍、警察として銃を持ち勤務する場合は、過去多くの悪が行われたことを自覚し、間違ったことにはノーといえるよう覚悟しなければならない。

 ――誰かが違うことを言わなければならない。そうすれば人はついてくる。

 ――時間と費用のかかる調査報道を重視せよ。情報を得ることは、水道修理や車の修理と同じく金のかかることである。無料で得られる情報に基づいて政治的判断を行うのは危険である。ジャーナリストとしての職業倫理を持った人間を探すこと。

 ――権力はあなたが部屋の中で、モニターの前で大人しくしていることを望んでいる。

 

 ――ロシア、東欧出身の専門家たちは、トランプの大統領選をより現実的に見ていた。
 ――アメリカ人は、フェイクニュースとサイバー戦に対して無防備すぎた。ウクライナはロシアのフェイクニュース攻撃に対し迅速に対応したが、アメリカは逆に、ロシアの欺瞞情報を自ら拡散した(ヒラリーのメール問題)。

 

 ――自由と引き換えに安全を提供すると提案する支配者はそのどちらもあなたから奪おうとしている。

 ――僭主はテロや災害を活用する術をもっている。かれらは機会をとらえて権力の集中を図り、勢力均衡の破壊や、野党の解体、自由の制限などをたくらむ。

 ――僭主は、一瞬のショックを利用して永遠の服従を手に入れようとする。

On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century

On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century

 

 

 

 ◆本とインターネット、情報戦

 私、無職戦闘員は、偶然ITおよびサイバー関連の労働でお金をもらっていたことがあり、インターネットにも毎日接しています。

 しかし、インターネットで得る情報と、本で得る情報にははっきりと区別をつけています。

 わたしにとっては、本から得る情報は非常に大切です。Amazonでお金を出して購入し、読んだら中身をメモしてネットオークションで売っています(かさばるので)。

 このブログは個人的なメモを公開したものですが、思い出すときに自分で検索もでき便利です。

 自分の興味ある分野である軍事史や歴史に関して、まだネットに上げられていない箇所が本には無数に存在します。

 インターネット上の情報に接するときは、本以上に警戒心を持っています。無職の1日は平坦ですが、そのなかでも、すき間を利用して5chやYahooニュースなどを読んでいます(読むたびに不快になるので精神衛生上よくないですが)。

 一方で、Unity(ゲーム開発ソフト)やC#の勉強をするときはインターネットが一番役に立っています。

 

 上述のスナイダー本では、ロシアの情報戦・情報攻撃に対処すべきとの指摘がありました。わたしも、ネット上の工作活動に関して前から興味を持っていたので、次の本を読もうと思いました。

Russian Roulette: The Inside Story of Putin's War on America and the Election of Donald Trump

Russian Roulette: The Inside Story of Putin's War on America and the Election of Donald Trump

 

 

 

 ◆カウアイ島

 少し前にカウアイ島に旅行に行きました。渓谷や海岸がおすすめです。

 カウアイ島にも多くの日系移民がやってきて、今でもその名残が見られます(店舗名など)。

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『プリンセス・マサコ』ベン・ヒルズ その2 ――宮内庁による雅子バッシング、皇族への人権侵害

 6

 皇太子の結婚は進まなかった。アンケートの結果、日本女性の大半は皇太子との結婚を望んでいないことがわかった。なぜなら自由を奪われ、窮屈な環境で生活させられるからである。

 弟の秋篠宮は都内で遊び歩いている悪評が立っており、解決策として兄よりも先に結婚させることになった。

 

 ――こうしたスキャンダルは、いうまでもなく、日本では報じられなかった。……その原因の1つは記者クラブ制度にあるという。

 ――「政治記者はほとんど有名な政治家の腰ぎんちゃくですよ」

 ――「警察記者はペンを持った警察官です。共同通信の記事の90パーセントは記者クラブ発表によるものです」

 ――日本のメディアは自分たちを体制の一部だとみなす傾向があり……。

 

 皇太子は何度も雅子と連絡をとるよう指示し、雅子と小和田家は結婚に同意した。

 世間とマスメディアは熱狂したが、一部の(主に外国人の)ジャーナリストは危惧を表明した。

 

 ――「彼女は非常に現実的で、スマートで、元気で、活発でした。今では三歩下がって歩き、個性もなく、国のために犠牲になったのです」

 

 7

 雅子は、皇太子のアドバイスを受けて、皇太子妃になれば外交に貢献できると考えていた。しかし、後継者を出産するまでは自宅にほぼ軟禁されることになった。

 

 宮内庁天皇の歴史について。

 

 ――実際は、マッカーサーによる改革の多くは根付かなかった。西洋式の民主主義の代わりに、日本の政治制度はゆがんだパロディのままだった。保守派の自由民主党が戦後ほぼ一貫して政権を握っていた。

 

 戦後、宮内庁の皇族へのコントロールは強化された。皇族で自分の財産を持つものは皆無である。

 

 ――……日本の皇室は生活を納税者に依存する高貴な貧民となった。そして、宮内庁の会計係の手にゆだねられたのである。

 

 税金に依存している事実は、共産党だけでなく、その他の批判の対象となっている。

 

 後継者問題は日本独自である。ヨーロッパの王室は女性君主を認めており、特に不足はしていない。サウジアラビアは後継者候補である皇子が3、4000人に上るため、別の意味で苦労している。

 

 ――「三年たって子供なし――雅子妃の正念場」

 ――……(宮内庁)職員たちは意地の悪い話をメディアに洩らすようになった。

 

 8

 雅子は鬱になり、また不妊の問題が懸案事項となった。

 やがて、秘密裡に体外受精専門家が東宮御所に招かれ、その後、雅子は子供を出産した。

 しかし問題は収束しなかった。

 

・もう1人出産への圧力

宮内庁職員のリーク……わがままで公務をサボる雅子

・美智子妃との関係が破たん

体外受精専門家の失脚

宮内庁長官湯浅氏の新聞インタビューでの「もう1人ほしい」発言

 

 雅子は体調不良で入院することになった。

 

 9

 「浩宮の乱」:

 2004年、皇太子が単独で外遊に行く際の記者会見で、「人格否定発言」が飛び出した。

 

 ――「それまでの雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です」

 

 元侍従浜尾によれば、皇太子は宮内庁に宣戦布告した。

 皇太子夫妻は、他の皇族とも対立することになった。

 宮内庁は当初、雅子の症状は「メンタル」的なものであるとし、その後適応障害に変更した。しかし、外国メディアは、雅子がうつ病であると報じた。これは単なる落ち込みとは全く違う病気である。

 鬱を含む精神病にまつわる恥の意識と偏見は、つい最近まで世界中でみられた。

 日本はうつ病患者の認知数が極めて少ないが、一方自殺は多い。多くの日本人はうつ病を病気と認めておらず、「気」の問題と考えがちである。

 

 ――精神的な病気だと認めれば、時代遅れの精神病院に入れられ、薬漬けにされるのではないかという、根拠のないわけでもない恐れを抱くことも、こうした態度の一因となっている。

 

 女官(旧皇族の女性が代々務める役職)たちが、雅子スキャンダルの供給源となった。役人は宗教儀式への欠席を週刊誌でなじった。

 

 ――ある宮内庁の役人は雑誌記者に匿名で語った。

   「これはあそびじゃないんだ。公務よりも重要なくらいだ」

   苦しんでいる皇太子妃の精神状態よりもずっと重要なことは言うまでもない。

 

 宮内庁うつ病治療の権威を招いたが、公式には「うつ病」の言葉を使わなかった。あくまで雅子は適応障害だった。

 

 雅子バッシングがインターネット、メディアで盛り上がったが、問題は、今のままでは間もなく皇室が途絶えるということである。

 

 ――ほとんどの日本人は、皇室のハーレムというこのアイデアは困った時代錯誤で、そのようなものはスワジランドに任せておけばいいと考えている。

 

 皇室継承問題の現実的な解決策は、女性天皇容認(女系天皇とは別)か、旧皇族の復活である。

 2006年、悠仁の誕生により、継承問題は一時棚上げになった。

 

 10

 田嶋陽子が指摘する根本的な問題……「本当の問題は、雅子妃の公的私的な生活への制限であり、それは彼女の基本的な自由と人権を否定していると書いていたのである」。

 宮内庁は、雅子を離婚させ追い出す方法について研究を始めた。

 雅子の終わりのないうつ病と、「黒衣の男たち」、宮内庁の愚かさが強調される。

 

 悠仁誕生によって、雅子は用なしであると叩かれた。しかし、悠仁も、皇室を継続させるために男子を出産しなければならないというプレッシャーにさらされることになるだろう。

 

 ――「皇室は大使じゃないんですからね。英語を話せる必要もないんです。そのために通訳がいるんですから。彼女の仕事は微笑むことですよ」と攻撃した。

 ――義理の母親の運命を、彼女もたどることになりそうだ。……瞳から光が消え、ときたまメディアの前に姿を現したとき、その口から聞けるのは決まり文句のささやきだけである。

 ――娘の愛子が成長し、宮内庁の養育係によって型にはめられ、従順な操り人形となるのを見守るだろう。

 

プリンセス・マサコ

プリンセス・マサコ

 

 

 

『プリンセス・マサコ』ベン・ヒルズ その1 ――宮内庁による雅子バッシング、皇族への人権侵害

 ◆所感

 雅子の結婚にまつわる話、宮内庁の実態について。本書は宮内庁と外務省から圧力がかかり発売禁止にされかけたとのことである。ウィキペディアによれば、大手新聞・週刊誌のほぼすべてが広告掲載を自粛したという。

 外国人から見た日本の奇妙な点、理解に苦しむ点を多数指摘しており、このような見方もあるのだということを知る助けとなる。

 宮内庁は「黒衣の男たち」として、古代中国の宦官のように描かれている。どこまで本当かは本書だけでは判断できないが、宮内庁と皇室との確執や、雅子や愛子の病気については、国内外の報道や他の本を参考に調査する必要がある。

 テーマは雅子の苦難だが、同時に、日本に残る非人道的思考、中世的な風習を浮き彫りにする。

 

 昨今ニュースで流れる皇位継承秋篠宮家の話題は醜悪としか感じない。

 皇族らが、政治活動を許されず職業選択の自由もなく、税金で養われるしかないというのは人権侵害ではないか。かれらは子供の時から醜いゴシップやスキャンダルに晒され見世物動物のような扱いを受けている。

 

 

 1

 外務省のキャリア官僚である小和田雅子が皇太子と結婚する際、海外紙は「雅子の犠牲」、「いやいやながらのプリンセス」などと報じた。

 

・伝統的な結婚式の様子が描かれる。一部の儀式は、現代から見ると間の抜けた、原始的なものであるため(腹に米ぬかを塗り付けるなど)、非公開で行われた。

・結婚に際して、探偵が活動し、雅子の家系がアイヌ朝鮮人部落民の血をひいていないか、綿密な調査が行われた。

・雅子は皇室に入ると同時に戸籍を失い、運転免許、パスポート、その他すべてを喪失した。

・雅子バッシングの3発信源

 宮内庁……外務官僚の娘である雅子は海外生活が長く、日本人的でない。「恭しさが足りず、自己主張しすぎる」。

 旧華族旧宮家……今上天皇、その息子2人が庶民と結婚することに怒り、恨みを抱いた。

 学習院OG会……「かれらは、皇太子の結婚相手にふさわしいと信じる独身の卒業生リストを提供することまでしていた。皇太子がその全員を却下すると、かれらは怒り、裏で、またメディアに出て反雅子キャンペーンを繰り広げていた」。

 

・批判派は、結婚式の記者会見において、雅子が皇太子より28秒長くしゃべったことを批判した。

 

 ――ちょっとあつかましすぎるように感じました。なんと言っても、しゃべりすぎです。尋ねられていないことまでしゃべっています。アメリカ人のような振る舞いです。

 

 結婚後、雅子の生活、言動、話す台詞すべては宮内庁の役人にコントロールされるようになった。

 

 ――思い出してほしい、この女性は外務省の野心に満ちた外交官、世界最高の大学三校に通い、世界をまたにかけて飛び回り、日本の貿易についての経済学論文を書いた女性なのである。その年何をして楽しんだかと問われて、彼女はこう答えた。

 ――「……今年の夏、クワガタムシがここの、御所の窓の外で、弱っているのを見つけまして……とにかくクワガタが弱っておりましたので、保護いたしまして、飼育いたしました」

 

 2

 小和田家は下級武士の出身であり、父の小和田恆(ひさし)は外務省事務次官になったエリートである。

 小和田恆は、育ちの良い江頭(父親は銀行家、祖父は父方、母方ともに海軍提督)と結婚した。

 雅子は長女として生まれ、モスクワ、続いてアメリカで育ち、やがて雙葉学園に通うようになった。雅子は、多くの帰国子女と同じく、日本人らしさを身に着けるのに苦労していた。

 

 3

 オーストラリアにホームステイした時点では、皇太子は素直で明るく、また国際政治にも関心の高い少年だった。

 30代の皇太子に、かつての友人であるオーストラリア人銀行家が再会したとき、「明らかに泣きたいほど退屈して」おり、「不幸せそう」だった。

 天皇家では、子供は両親から離され、職員によって養育される。今上天皇は、よって昭和天皇からほとんど何も教わっていない。

 

 昭和天皇について……

 ――しかし、実は、裕仁はよそよそしく謎の多い人間だった。どんな質問にも「あ、そう」と答えるあいまいな態度から、アメリカ人からは「ミスター、ア、ソウ」とあだ名をつけられたような人間が、子育てに積極的な役割を果たすところなど想像できない。

 

 浩宮(皇太子)は、父の意向もあり、それまでよりも開放的な環境で育った。

 皇族は、政治から距離を置くのをよしとする風潮から、無害な趣味を持つ。昭和天皇ヒドラ今上天皇は魚類、皇太子は交通の研究に取り組んだ。

 

 4

 雅子の経歴……ハーバード大卒業後、外務省に入省する。

 ある時、宮内庁主催の食事会に招待され(外務省女性新入社員だったためか)、皇太子と出会った。

・官僚の驚くべき長時間労働、家庭の犠牲を顧みない姿勢

・女性に対する社会的な偏見、労働における性差別

 

 5

 庶民出身皇后美智子の教訓……

 

 ――年月が流れ、この聡明で活発な女性、語学が達者で音楽にも堪能な女性はゆっくりと姿を消した。近頃では、棒のように細く灰色の髪をした影のような姿となり……

 

 裕仁の妻良子(ながこ)は平民出身の美智子に冷淡だった。

 日本の皇室は、ヨーロッパのそれと異なり、外国人を遠ざけ、近親結婚を繰り返している。

 

 ――この禁止が不思議なのは、学者ならだれでも知っているように、天皇家自体に韓国の血が流れているからだ。2001年の誕生日の記者会見で、天皇明仁は、桓武天皇の生母が韓国人だったので「韓国とのゆかりを感じて」いると語った。この発言は、日本の排外的な右翼を憤激させた。

 

 雅子に関する身辺調査を通して、宮内庁は雅子排除を試みた。

 

 ――……皇太子がなんと考えようと、かれらは頭のいい、西洋で教育を受けた外交官が皇室にふさわしいとは思えなかったからだ。

 

 雅子の母方の祖父、江頭豊は、水俣病の加害者であるチッソの専務取締役だった。宮内庁は、この問題的な身内の存在を建前に、雅子と皇太子の結婚に反対した。

・外務省入省後、雅子はオックスフォードの大学院に入学した。それ以前に、浩宮もオックスフォードに留学していた。

 [つづく]

 

プリンセス・マサコ

プリンセス・マサコ

 

 

『バガヴァッド・ギーターの世界』上村勝彦 その2

 7

・ヨーガは平等の境地であり、それはブラフマンとの合一であり、知性(ブッディ)の確立である。

ヒンドゥー教の三大目的は、ダルマ(法)アルタ(実利)カーマ(享楽)である。人生の時期に応じて追求すべきとするのが一般的な教えである。

ブラフマンにおける涅槃は、生前解脱である。

 

 8

・行為の放擲をおこなったものはサンニヤーシン(放擲者)であり、家長を息子に委ね隠退した人である。

・因果は複雑なので善悪の結果がすぐに現れるわけではない。

・しかし多くの人はあまり悪いことはできない。それは「すべての人の心に仏性があるから」である。

・『ギーター』は、自己のアートマン(仏教でいえば仏性)を汚すことをしてはいけないと説く。

・行為の放擲を完遂し、寂滅状態に入ったヨーガ実践者は、瞑想を続け、絶えず自己を絶対神と結びつけ、やがて死後に涅槃を実現する。

 

 9

・ヨーガの具体的な方法について。

・万物を自己のうちに見る。

アートマンは万物に宿り、またブラフマーと一体である。よって、すべての生類に対し慈しみの心……慈悲が生じる。

・常修と離欲によりヨーガという不動の境地にいたる。

 

 10

・クリシュナは最高神であり、高次の本性=プルシャ、精神的原理を持つ。万物はクリシュナの本性(プラクリティ)に由来する。全世界はかれから生じ、かれのなかに帰入する。

・絶対的な悪人、アスラ的な悪人が存在する。

 

 大乗経典『涅槃経』では、信徒を守るための武器による自衛を認める。

 

 ――最初はひたすら純粋であった信仰が、組織になると偏執せざるをえなくなります。ここにすべての宗教教団のジレンマがあります。理想と現実の相違、個人と組織の問題などが、必ず出てくるのです。

 

・知識ある人は最高の信者となる。

 

 11

・クリシュナのヨーガは「神のヨーガ」である。すなわち「高次の本性」つまり精神的原理を、「低次の本性」つまり物質的原理に結びつけ、マーヤー(現象世界)を発動させることである。

・平等の境地を達成した人は、クリシュナに強固な信愛(バクティ)を捧げる。

・あらゆるときに最高神を念じて仕事・義務に専念せよ。

・最高のプルシャとは……最高神であり、「神人」、「原人」である。

・「オーム」の音はブラフマンの象徴である。

・最高原理ブラフマンは抽象的で愛(バクティ)の対象とはならないが、最高のプルシャは神格なのでより具体的な捧げる対象となる。

 

 12

 クリシュナの説教が続く。

・理論知は、クリシュナの本性についての知識、実践知は、それに基づいてひたすら信愛することである。

・仏教では仏を虚空にたとえる。ヒンドゥー教でも、最高神は虚空「アーカーシャ」にたとえられる。

最高神はなぜこの不完全な世界を創ったのか。それは永遠の謎である。

 

 13

・『ギーター』における最高神遍満の思想は、本覚思想とよく似ている。

・最高の信愛が最高の知識である。

・極悪人も信愛するなら救われる。

 

・社会的に上位のバラモンや王族出身聖者(王仙)のほうが、解脱に有利な条件を持っている。

 ――……このあたりに古代インド的な限界があるともいえます。

 

・日本仏教は本来の仏教から離れているという批判もあるが、著者はより優れた点もあるのではと考える。

・クリシュナの力は多様な顕れ(ヴィブーティ)を示す。

 

 14

・クリシュナの姿について。

 ――もし天空に千の太陽の輝きが同時に発生したとしたら、それはこの偉大なお方の輝きに等しいかもしれない。

 ――その時アルジュナは、神の中の身体において、全世界が一堂に会し、また多様に分かれているのを見た。

 

・クリシュナは、同時に、世界を滅亡させるカーラであることを告げます。

 カーラ(時間)は、『マハーバーラタ』の中心主題である。

 ――創造神が定めた道を誰も乗り越えることはない。この一切は時間(カーラ)に基づく。

 

 古典期の詩人バルトリハリによれば……

 ――このように、巧みなカーラ(時間)は、昼夜を2つの骰子のようにころがして、世界というゲーム台の上で、生類という駒で遊んでいる。

 

・時間のむなしさを克服するのは信愛である。

 

 15

・よい信者がどのようなものか。

 

 16

・クリシュナの信者の行動様式:正しい知識とは……

 ――慢心や偽善のないこと。不殺生、忍耐、廉直、師匠に対する奉仕、清浄、堅い決意、自己抑制

・不殺生はアヒンサーという。

・離欲、我執、四苦

 

 17

・知識の対象は最高ブラフマンである。つまり真実の自己アートマンでもある。

・『ギーター』の教えは、本覚思想に類似している。

 

 18

 神的な資質の人と、阿修羅的な人(悪人、だめな人)の具体例が示される。

無神論

増上慢

・不正な手段で富を蓄積

・社会的に成功に迷妄に陥ること

 

 19

・3つの構成要素(グナ)について。

・純質(サットヴァ)を増大させるためには、三毒を捨てなければならない。

・各々は構成要素に応じて信仰する。

 ――純質的な人びとは神々を供養し、激質的な人びとは夜叉(ヤクシャ)や羅刹(ラクシャス)を供養する。他の暗質的な人びとは餓鬼や鬼霊の群を供養する。

 

 20

 適切な食物、布施について、3つのグナに分けて説明する。

・布施をするときに見返りを求めてはいけない。普通、布施をおこなった人は優越感を、受けた人は引け目を感じる。そのストレスが蓄積してしまう。

 

 ――何か人によいことをする場合は、かえって注意する必要があります。自己満足に陥らないようにしなければなりません。

 

・布施をする相手を見極めるのは難しい問題である。

 

 ――例えばある国を資金的に援助するようなとき、結果としてその国の支配者層や日本の企業が潤うことになる。そのような場合は、まさに不適切な最低の布施です。さらに、その国の人びとを物乞いのようにばかにしたりすれば、それは最低の布施です。

 

 21

 結果に執着せず行為することで放擲と捨離(ティヤーガ)を達成すること。

・純質的な人、激質的な人、暗質的な人。

 

 ――……暗質的な行為者は、仕事に無能であり、凡庸であり、しかも頑固で狡猾で、正直でなく、怠惰で、嘆いてばかりいる。そしてだらだらと仕事を引き延ばし、なかなかやらないような人です。

 

ヒンドゥー教聖典である『ギーター』がカースト制度を保持せよと説くのは致し方のないことである。

 ヒンドゥー社会の保全に合致する思想である。

 

 22

・解脱するには知識を得たあと社会を離れる必要がある。

・個々の存在はアートマンによって支配されておりそれは最高神と同一である。

 

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)