うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『Ordinary Men』Christopher R Browning その1

 ポーランドでユダヤ人殺害を実行した第101警察予備大隊について書かれた本。

 当該大隊については、他の移動殺人部隊と異なり、所属隊員のリスト、証言、詳細な裁判記録が残されていた。

 調査の過程で、「ホロコーストは多くの人間が多くの人間を殺害することで成立した」という基本的事実を著者は再認識させられた。

 

 アインザッツグルッペを描いた映画「炎628」に近い題材である。

 親衛隊や秘密警察ではなく、招集された一般的な市民が、いかに殺戮行為に加担していったかが詳しく書かれている。

 本書で追及される根本原因は、順応性や協調性といった普遍的な徳目である。

 

  ***
 前説

 ユダヤ人犠牲者の大半は1942年から1943年の間に生じており、それは独ソ戦の時期と重なる。

 

 1

 第101警察予備大隊は、徴兵年齢を過ぎたハンブルクの中年男性を中心に成立しており、大隊長は警察官のトラップ少佐だった。

 

 2

 秩序警察(オルポ)は元々戦間期に設立された。敗戦により失業した軍人たちの多くが、フライコール等の義勇軍に加入し、その一部は、設立された警察機構に編入された。

 秩序警察は当初から軍事訓練を行っており、いつでも陸軍戦力として利用できるよう準備されていた。

 親衛隊全国指導者ヒムラーは、警察機構を保安警察(ジポ、ゲシュタポと刑事警察(クリポ)に分かれる)と秩序警察に分けた。秩序警察は各地方、各都市に駐在し通常の警察業務を行った。

 ドイツの領土拡大に合わせて、秩序警察も占領地に広がっていった。ポーランドにおいて、秩序警察は警察指揮系統と、親衛隊指揮系統との双方に組み込まれていた。

 本書の題材となる第101警察予備大隊の犯罪行為も、親衛隊系統からの指示によって引き起こされたものである。

 

 3

 アインザッツグリュッペンは、独ソ戦線の後背地でボリシェヴィキ、ユダヤ人等の射殺を行った部隊であり、武装親衛隊、秩序警察、刑事警察、一部外国人(リトアニア人等)の混合だった。

 これらの部隊と協働して、秩序警察部隊も民間人の殺害を実行した。

 

 4

 1941年の暮れからロシア・ユダヤ人の虐殺が始まったが、これに伴い、ドイツや占領地のユダヤ人を東方に移送する業務が開始した。

 秩序警察は主に運搬列車の警備を担当した。ユダヤ人たちは食事なし、水分なしの酷暑の中、車両に詰め込まれ、目的地にたどり着くまでに数百人単位で死んでいることが多かった。

 移送先では、親衛隊員がユダヤ人を引き取り射殺した。秩序警察はこうした事実を知っており、また列車警護の過程で殺人に加担している。

 

 5

 第101警察予備大隊の特性について。

 独ソ戦開始後、人員の入れ替わりがあり、ほとんどの構成員が予備召集者、軍事経験のない者で占められるようになった。

 大隊長:トラップ少佐(警察官)

 中隊長:SSの青年である大尉、中尉、徴兵警察官の中尉

 その他の将校

 構成員の大半はハンブルクの労働階級で、次に中流階級(個人経営者等)がいた。ほとんどは学歴のない者だった。
 

[つづく] 

Ordinary Men: Reserve Police Battalion 11 and the Final Solution in Poland

Ordinary Men: Reserve Police Battalion 11 and the Final Solution in Poland

 

 

『ルポ 貧困大国アメリカ』堤未果

 米国の貧困状況や社会問題を紹介する本(2008年)。

 見習うべきでない政策・事例が多数ある。

 

 サブプライムローンは、低所得者層に高利率で住宅ローンを貸し付けるビジネスである。当時、このローンを十分な知識がないまま契約させられ、破綻する移民や貧困層が増えている。

 市場原理主義に特化した社会が、いかに貧困を生み出すかを、アメリカを実例として検証する。

 

 1 肥満

 世帯年収が約200万以下が貧困層と定義される。基準を満たす住民はフードスタンプを配給されるが、かれらは調理器具や台所を持っていないことが多いため、ジャンク・フードを買いだめする。このため、貧困層程肥満が増える。貧しい地区の学校は予算内でやりくりするために毎日ジャンクフードを子供たちに食べさせる。

 

 2 経済難民

 2005年のハリケーンカトリーナによるルイジアナ州の被害は、防げたはずの人災である。

 FEMA=連邦緊急事態管理庁は、災害対策等を担当する部署である。2001年ブッシュ政権時に、新長官アルボーらにより、災害対策を含む公共事業の民営化が行われた。FEMAは省庁の統合により格下げされ、ハリケーンの危険が予測されていても打つ手だてがなくなっていた。

 元職員の意見は次のとおり。

「国民の命に関わる部分を民間に委託するのは間違いです。国家が国民に責任を持つべきエリアを民営化させては絶対にいけなかったのです」

 移民や不法移民の多い、貧しい州では、学校の民営化が行われる。民営化学校は競争が厳しいため、教育レベルも極端に低い。2カ月通学した後、2カ月休み、その間時給2ドルほどで働くという生徒が多い。

 かれらの多くは中南米からやってきた経済難民である。ビザや人種の壁に阻まれた子供たちのもっとも良い就職先は軍隊である。

 

 3 医療

 80年代以降、新自由主義政策によって公的医療が縮小され、民間の医療保険自由診療が増大した。その結果医療格差が生じた。

 日本なら最高8万円ほどで済む盲腸の手術だが米国では平均200万円前後かかる。民間医療保険独占企業が強く、保険料は高額であり、また支払い拒否も頻発する。

 医師や看護師も自由競争や訴訟のための保険によって苦しんでおり、医療サービスレベルは低下している。米国の乳幼児死亡率は先進国の中で最低レベルである。

 

 4 軍隊

 2002年ブッシュ政権時に成立した「落ちこぼれゼロ法」には次のような項目がある。

「全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出すること、もし拒否したら助成金をカットする」。

 軍は貧しく先行きの暗い生徒を探し出し、大学の学費免除や医療保険加入を条件に勧誘する。

 しかし、学費免除額に限度があるため、実際に卒業まで行き着く若者は少ない。

「私の高校の生徒たちのほとんどは、親が失業中だったりアルコール依存症だったり若いシングルマザーだったりと、問題を抱えた家庭の子です。でもその子たちのためにどんなに胸を痛めても、私たち教師にできることはない。貧困地域の現場を知らない平和活動家たちの主張は私にはきれいごとに聴こえますね。高校を卒業してもマクドナルドでハンバーガーを焼くか、ストリートのチンピラになるような将来しかない子供たちを見たら、心ある大人は誰でも、せめて彼らに大学進学のチャンスを与えてあげたいと思うはずですよ」

 入隊によって市民権を付与する法律も成立したため、不法移民の子供たちにとって軍は大きな魅力となっている。

 リクルーターは戦地ではなく本国で働けるために兵隊の中でも競争率が高い。かれらは、イラク戦争はすでに終わっている、除隊しても軍歴には残らない、等の嘘をつき勧誘する。

「現在リクルートされた新兵はほぼ全員が即イラクに送られます。致し方ありません。我が国は目下戦争の真っ最中なのですから」

 学費が払えないコミュニティカレッジの学生や、就職できない大卒もリクルーターの標的となる。

 その他、米軍開発のFPSや、学生向けの予備役制度について。

 350万人の全米のホームレスのうち、50万人が元軍人だという。

 

 5 民営化戦争

 民営化の波は戦争にも及び、戦争ビジネスが発達した。生活苦の労働者は派遣会社に登録し、イラクアフガニスタンでトラックの運転や倉庫作業に従事する。そこには外国からやってきた派遣労働者もいる。

 また、ブラックウォーター社等は戦闘自体を請け負う会社であり、かれらは国際法の対象とならず、戦死者にもカウントされない。

 州兵は予備自衛官のような制度で、戦争に行くという意識の者は少なかった。しかし、9.11のテロでは遺体収容業務を担当した。イラク戦争が始まると、イラクに派遣された。

「……マスコミは兵士たちの愛国心やこの国の正義について書きたてていたようですが、格差社会の下層部で苦しんでいた多くの兵士たちにとって、この戦争はイデオロギーではなく、単に生き延びるための手段に過ぎなかったのです。さっさとやって早く家に帰りたい、怪しいやつがいたらすぐ発砲する、屍体は黙って片付ける。兵士たちは皆、そうやって機械的に考えていました。僕自身も含めてね」

 民主主義には、経済を重視する民主主義と、人権、人間的な暮らし、生命に重きを置く民主主義とがある。

 ――加藤さんが体験から実感したものは、軍隊というものが未来ある若者たちに植え付ける、「いのち」はどこで捨てても同じなのだというイメージだったという。

「戦争をしているのは政府だとか、単に戦争対平和という国家単位の対立軸ではもはや人びとを動かせないことに、運動家たちは気づかなければいけません」

  ***

 イラク戦争に際して、合衆国のジャーナリズムは、所有者(=株主)から一元的な情報統制を受けた。

 マスメディア、報道が正常に機能しないということは、国民が正確な情報に基づいて政治的判断を下せないということであり、民主主義の基盤を崩壊させるものである。

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ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

 

 

『「仮想通貨」の衝撃』カストロノヴァ その2

 4

 貨幣とは物につけられるラベルである。貨幣の機能は、交換の媒介、価値の尺度、価値の貯蔵である。価値は人びとの主観的な判断によって生まれる。

 著者は、従来の貨幣の3つの機能に加えて、オンラインゲームにおける仮想通貨の隆盛を踏まえ、「喜びを提供すること」を新たに機能とすべきと主張する。

 貨幣は人びとが価値があると信じているから価値がある。よって、貨幣への期待、信用が失われると、その貨幣は崩壊する。

 ――だから貨幣を管理するうえで重要な要素の1つは、大衆心理、つまり「通貨の安定性と将来の価値に関する人びとの期待」を管理することなのだ。

 政府はモノの動きに対して税をかける。ダイヤモンドはただ家に保管してある限り課税されないが、売却してお金を得れば補足され、課税対象となる。一方、仮想通貨が政府から「おもちゃのお金」と解釈される限り、仮想通貨の移動は課税対象とならない。

 ――重要なのは、民間の仮想通貨は交換手段として、より優れているかもしれないが、それは取引を抑制する課税を回避できるかもしれないからだ、ということだ。純粋な交換の効率性という観点からは、仮想通貨はより少ない負担でより多くの活動を可能にするだろう。

 価値の貯蔵と尺度については、政府の管理する通貨に分がある。

 ゲームや実際の経済活動を観察してわかるとおり、人間は資源をためて使うことが好きであり、それを不可欠な自由と考える。人間は貨幣を好む。

 

 5

 技術の進歩は予測不可能だが、仮想通貨はどのように対応していくのだろうか。後段は、仮想通貨の未来について考える。

 お金は物質文化の根幹であり、モノの価値は、その社会の文化、何が不足して何が求められているのかを明確化してくれる。

 経済活動に関するデータを集める、つまりお金を数えるためだけに、膨大な人的資源と文書が費やされている。

 仮想通貨は一部の経済活動を闇化し、資産や業績の予測、動向を困難にするだろう。しかし、バーチャル経済はリアル経済よりも幸福をもたらしやすいため、生き残るだろうと著者はいう。

 

 6

 価値の貯蔵について、仮想通貨がどのような影響を与えるかを考える。

 インフレとはすべての価格が上昇することをさす。インフレの原因と考えられているのが、「貨幣数量説」で、貨幣の出回る量が増えるほど、その貨幣の価値が減り、物価が上がっていくという。

 現実経済においては、小さなインフレーションが望ましいとされている。それはハイパーインフレと、デフレの害があまりに大きいからである。デフレの場合、貨幣の価値が高くなるため、人びとはお金を手放さなくなり、経済活動は縮小する。

 仮想通貨においてもインフレは発生し、また、信用の崩壊に伴う貨幣の価値失墜が発生する。

 

 7

 一般に貨幣は最も規模の大きいものが信用があり価値も高い。よって、仮想通貨のほとんどは将来消滅してしまうだろう。

 お金の価値で重要なのは、「この紙には価値がある」と皆が信じている期待である。

 「悪貨は良貨を駆逐する」とは、交換価値の低い貨幣が使われ、良い価値がどんどん溜めこまれていく現象をいう。政府保証による現在の通貨は、すべて「悪い」通貨である。たとえば、交換価値を持つ仮想通貨とドルの交換比率が固定されれば、ドルはほぼすべて仮想通貨に置き換わるだろう、と著者はいう。

 本章の予測は漠然としてわかりにくい。リアル経済とバーチャル経済が相互に影響することがあるだろう。また、制度の変化はなだらかに、あるいは一挙に訪れるだろう。

 

 8

 仮想通貨と政府の関係について、次のとおり予測する。

 仮想通貨は政府の監視とコントロールを困難にするため、マネーロンダリングや詐欺にも使われるだろう。しかし、政府は対策をとるに違いない。

 また、ピアツーピアネットワーク等により管理される通貨に対して、税制や規則を適用できる国家はあるのだろうか。

 オンラインゲームにおける試行錯誤をヒントに、バーチャル世界における政策立案がリアル世界にも活用できるのではないか、という可能性を提唱する。

 ――国家の課題は重い。その中心となる機能は維持しなければならないのに、国の経済は急速にバーチャル経済へ流れ込み、多くの政策が継続できるかどうかに疑問が投げかけられている。その一方、バーチャル世界には、国の機能やその運営方法を大幅に変える根拠となりそうな統治の実例がたくさんある。そのすべては、リアル世界の政府が容赦なく分裂していくことを予測させる。

 

  ***

 オンラインゲームからネットオークションまで、バーチャル世界の目的は様々であり、それらを政府が規正していく方針はよく検討しなければならない。

 

  ***

 仮想通貨、特にオンラインゲームにおける経済活動について考察しており、リアルの経済活動と仮想通貨との関わりが確認できる。

 

「仮想通貨」の衝撃 (角川EPUB選書)

「仮想通貨」の衝撃 (角川EPUB選書)

 

 

『「仮想通貨」の衝撃』カストロノヴァ その1

 原題は「Wildcat currency」で、19世紀のアメリカにおける、民間の貨幣発行銀行を意味する。銀行は、ヤマネコしか住んでいないような僻地に設置され、金を担保に貨幣を製造し、容易に換金されないようにし流通を図った。

  ***

 貨幣の問題とは、「取引をする人びとがいかに価値を交換するか」という問題である。

 電子取引に続く仮想通貨システムは、ビットコインや、マイレージポイント、SNSの通貨制度、ゲーム内通貨等、あらゆる場面で利用されている。

 本書は仮想通貨の歴史、現状、今後の影響等を論じる。そこでは、仮想通貨制度の利用についての提言もなされる。

 仮想通貨を論じるにあたって、貨幣の歴史も概説されるため、私のような無学にとっても理解しやすい本である。

 

 1

 仮想通貨は、かつてはゲーム内で見られたが、現在はSNSや買い物サイトなど、あらゆる分野に進出している。

 ――前世紀に石油を掘りあてようとしていた山師たちのように、通貨の構築者たちは、貨幣をつくって儲ける機会を先を争うように利用していたのだが、いまのところそれは政府の監督が一切ないまま行われているのである。

 仮想通貨の経済規模を計ることは容易ではない。現実通貨を用いたヴァーチャルアイテムの取引だけを測定しても、バーチャル内でのみ行われる取引を補足していないため、不正確となる。

 オンラインゲームやフェイスブックにおける通貨制度は、売買の対象が無形のゲームアイテムや配信アプリであり、通貨を企業が管理している点を除けば、現実の経済活動と何ら変わらない。

 

 2

 貨幣の価値は、どんな時代でも「人びとがどう考えるか」で決まる。貨幣の価値はバーチャルなものである。例えば、金や銀には実用性がないが、一定の価値を持つと考えられている。

 国家は貨幣の管理の問題に古来から取り組んできた。

 貨幣には、交換の役に立つ、価値を保存できる、かさばらない、高密度である、希少だ、分割しやすい、数えやすい、運びやすい、等の特徴がある。

 ある「もの」が貨幣であるか決めるのはその社会である。

 保有する預金を裏付けとして貸出を行うことにより、貨幣の量が増大する。貸し出しにより貨幣が創造され、貨幣の価値は金融機関の信用に依存するようになる。

 国家は法の力により貨幣を補償する。「不換紙幣fiat money」のfiatとは、命令、法令を意味する。

 ――現在、世界中のほぼすべての通貨は不換紙幣である。それらに価値があるのは、政府がそう言っているからなのだ。

 また、貨幣は現在デジタルのデータベースという形をとする。

 ところで、通貨は統一されるべきなのか、それとも統一されるべきではないのか。

 近代における貨幣経済成立時には、王侯の支配区域ごとに無数の通貨が乱立していた。やがて、取引上統一通貨のメリットが大きいと考えられるようになった。ユーロは、貨幣にまつわる混乱を減らす統一通貨として今利用されている。

 しかし、単一通貨は、経済管理者が地域に合わせて貨幣制度を調整することを不可能にする。ある地域のための金融政策が、他地域で害悪をもたらすことがある。現在のユーロの問題がまさにこれにあたる。

 アマゾンのポイントと現実の通貨との違いは、法的な位置づけや機能、慣習にある。ビットコインは、個人がつくった貨幣である。

 近年の仮想通貨システムの萌芽がオンラインゲームにあったというのは驚きである。

 

 3

 合衆国の法律は、仮想通貨について明確な定義を持っていない。

 特定の目的によってつくられる仮想通貨はおそらく合法であり、また、資産としても認められる。よって、仮想通貨による取引も課税対象となる。

 

[つづく]

 

「仮想通貨」の衝撃 (角川EPUB選書)

「仮想通貨」の衝撃 (角川EPUB選書)