作業員たちの
人体としてのまとまりがほどけて
輪郭は溶けだし
月を指し示す姿だけが
残された。
それら、失われた歯形のような
人間たちの成分は
水の道を探した。
表皮は、分裂した金星の
姿を映し出す。
かれらの肉と骨、炭素は、水のなかで
ぼろぼろと崩れていき
アスターの花になる。
波は草をつかまえる。
水の道において。
名前がはがれたあとも、
腐敗臭に鼻をつまむ。
かれらは何者でもなかった。
6 アメリカ外交公電が公開され、一般には秘匿されていた各国の政治的方針、取引、また米外務省職員による各国首脳の悪口等が曝露された。
また、ヒラリー・クリントンが国連や経済会議の場で盗聴、身辺調査をするよう指令を出していたことも明らかになった。
合衆国政府は、外国の首脳や国連職員の健康状態、クレジットカード等の個人情報、ログインパスワード等の収集を命じていた。
「アサンジは非合法活動に従事している」と政府は非難していたが、その足場が危うくなった。
オバマ大統領らは、アサンジの活動に対して強権的な措置に踏み切った。各企業に圧力をかけ、ウィキリークスの利用するインフラ環境を停止させた。
このことは、インターネットが自由な空間ではなく、企業や政府の取り決めによって成り立っていることを示している。
その後、協力者や有志の尽力によりアサンジの身柄が米国に引き渡される事態は回避され、またウェブサイトも復活した。
外交公電の曝露は米国政府とその周辺を激怒させた。
合衆国はアサンジとウィキリークスを国家の敵と定めた。
――……米国の保守派は、アサンジをオサマ・ビン・ラディンにたとえ、世界規模での追跡を求めている。……ニュート・ギングリッチは、アサンジを「敵性戦闘員」にランク付けするよう求めた。「情報戦争も戦争だ。ジュリアン・アサンジは戦争を行っているのだ」とさえ言った。
保守派のウェブサイトでは、「CIAがジュリアン・アサンジをもっと早くに殺害しておくべきだった」との書き込みが行われた。
***
国家の本質は情報の独占であるとされる。
また、情報の独占、秘密の保持は、強権的な政治には不可欠である。
***
ウィキリークスとブロガーの問題について。
――ブロガーの問題は情報源がないということではない、と「クラウドソーシング」に期待していたアサンジは、明らかにがっかりした様子で言った。かれらは単純に、新たな事実を暴露するということには興味がないのだ。ブロガーにとっては、ちょうどそのとき話題となっているテーマについての見解を述べることだけが重要なのである。
――現在のウィキリークスは、伝統的なメディアと、デジタル革命なしではありえなかった、内容の検閲がおこなわれにくいということだけが取り柄のウェブサイトのあいだに位置する、いわばどっちつかずの存在である。
***
本書によれば、オバマ大統領はブッシュ以上に情報統制について強硬派であり、内部告発者への措置も過酷である。
***
他にもウィキリークス関連本はあるが、内容が似ているようで買う気がおきなかった。ただし、『ウィキリークスの内幕』は、アサンジと袂を分かった同僚が書いたものである。
◆メモと感想
ジュリアン・アサンジは自らの技術を利用し、情報の民主化と報道による監視を実現するためにウィキリークスを創設した。
民主主義国家においては、国民が正確な情報を把握しているということが大前提となる。正しい情報を元に、国民は政治判断を下すことができるからだ。
情報通信技術は権力による抑圧手段ではなく、自由を確保するために用いられなければならないという点に賛同する。
政府や権力を監視する機関は、必ず反撃を受ける。この反撃に耐えるためには経済的、政治的な基盤が必要である。しかし、基盤を確保するために企業や別の権力の庇護を受け、自由が失われる。
永遠の課題は、報道機関に独立性が備わっていないことにある。
ウィキリークス等の新しいメディアについても、活動存続のためには独立性を確保しなければならないのではないか。
アサンジは理想的な報道機関の像を今でも信じている。いわく、大手の報道機関の死者はあまりに少ない。
かれらはジャーナリズムを真面目に考えておらず、ジャーナリストと呼ばれることを恥と考える。危険地域の調査、取材は地元の特派員やフリーの記者に任せている。
内部告発サイトであるウィキリークスと、その創設者ジュリアン・アサンジについての本。
ウィキリークスはサイバー空間におけるセキュリティに対しても影響を与えた。
***
ジュリアン・アサンジの方針
本書から読み取れるのは、アサンジが技術者であるとともに、強い主義主張を持った政治活動家であるということである。かれは秘密の情報を全世界に明らかにすることにより、権力の不正を告発する、という報道・ジャーナリズムの本来の目的を達成しようと考えている。
伝統的なメディア、すなわちテレビ局や新聞は、政府や経済界との軋轢を避けるために、報道内容を事前に打診し、自粛するなど、報道機関本来の役割を見失っている。
ウィキリークスは自分たちの活動の公開に際し、伝統的なメディアと協力しながらも、第5の権力としての任務をまっとうしようとする。
アサンジはオーストラリアで生まれ、ヒッピーの母親に連れられて国内を転々とし生活した。コンピュータにはまり、ハッカー活動に熱中するようになる。
やがて、独裁国家や大国が隠している情報を盗み出すことに意義を見出す。
彼は、インターネットとコンピュータ技術が情報を民主化するという未来に希望を見出した。
――「舞台裏を見てみたい」というのが彼の動機だ。部外者の目に触れない情報が、彼にとっては戦利品のトロフィーだった。「極秘」レベルのデータや文書が目当てだったのである。「そこには解説抜きの、世界の真の姿がある。それは写真のように嘘がない」
「ウィキリークス」設立の構想が進められた。ウィキリークスは内部告発者を支援し、情報を精査し公開するためのウェブサイトである。ウィキリークスへの投稿については、投稿者の身元が保護されるような技術が利用されている。
また、情報の信頼性、真実性を検証するために、アサンジに賛同するスタッフらが動員された。
アサンジはカリスマ性を持つが独善的な人物として描かれており、このためウィキリークスに内部対立が起こり、離反者を生むことになった。
ウィキリークスは、内偵者や密告者の保護のために情報の一部を秘匿することはあるが、それ以外は原則として無差別に公開することを方針としている。
一方、同じ情報公開活動家の中でもアサンジらを批判する者たちは、個人情報の保護が軽視されていると訴える。
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ウィキリークスの主要な活動
1 ケニア等新興国の機密を公開した。このとき、告発者として疑われた外国人をケニア政府は暗殺した。情報公開とその行為に伴う責任を考える契機となった。
2 ユリウス・ベア銀行、ドイツの情報機関は、公開された情報の撤回を求めてウィキリークスに圧力をかけたが、逆にそのやりとりも曝露されてしまった。
3 技術要員として海兵隊に入隊したブラッドリー・マニングは、米軍がイラク市民とロイター記者2名を武装ヘリで殺害したビデオを秘密システムから持ち出し、ウィキリークスに手渡した。
本映像は「コラテラルマーダー(付随的な殺人)Collateral Murder」ビデオとしてアサンジらによって編集を施された。
マニングは自ら知人のハッカーに行為を打ち明けてしまい、通報により逮捕された。
4 米軍の作成したアフガン戦争日誌を公開した。オバマ大統領の政府はウィキリークス及びアサンジを非難し、保守派はアサンジを逮捕すべきと主張した。
5 イラク戦争日誌が公開された。この中には政府が隠ぺいしていた死者の顛末が記載されており、また、イラク軍による捕虜や市民の拷問、殺害を、米軍が黙認していたことも明らかになった。
[つづく]
たとひわれ死のかげの谷を農王系 7 物見の島で・ドイツ人の人間狩り
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