うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『群衆心理』ル・ボン

 19世紀末に書かれた古い本で、群衆の行動を研究する。

 群衆の上に立つ為政者・エリートの視点から書かれているので、現代ではわれわれ群衆が好んで読みそうな本だ。

 

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 歴史や文明の末期、転変期にとくに力をふるう、野蛮で無知、粗野な、厄介な群衆が、近年、一大勢力となった。王ではなく群衆による独裁が強まる今日、彼らの行動原理を心理学的に調べることは、政治家や国税局にとって有意義である。

 ナポレオンやほかの建国者、英雄のように群衆を操るという目的は難しいが、群衆に支配されまいとする予防の試みは決して無駄ではない。

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 ――ある一定の状況において、かつこのような状況においてのみ、人間の集団は、それを構成する各個人の性質とは非常に異なる新たな性質を具える。すなわち、意識的な個性が消えうせて、あらゆる個人の感情や観念が、同一の方向に向けられるのである。

 このような集団精神を心理学の観点からとらえて「群衆」と呼ぶ。心理的群衆はあるきっかけから一時的に接合された異質の分子からなる。知識や知性は個々人によって異なるが、感情というのはほぼ万人に共通のものである。群衆の各分子に共通し、無意識に彼らを動かすものはこの感情である。

 「群衆中の個人は、単に大勢のなかにいるという事実だけで、一種不可抗的な力を感ずるようになる」、また、群衆においては、「どんな感情もどんな行為も感染しやすい」。

 このとき個人としての利益の意識や人格は犠牲にされる。

 「群衆は知能の点では単独の人間よりも常に劣る」。群衆の行動は、暗示次第で、野蛮にも、英雄的にもなる。

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 群衆は脊髄反射で行動し、衝動的で、熱しやすく冷めやすい。この傾向はアングロ・サクソンよりもラテン系に顕著である。以下、群衆がいかにだまされやすく、信じやすく、女子供の証言のように信頼ならないかを、普仏戦争やナポレオンなどの具体例をあげて説いている。暴力に傾きやすく、偏狭、横暴で、保守的である。彼らの行動はたいてい犯罪的色彩を帯びるが、英雄的行為、徳性ある行為をおこなうこともある。

 群衆が思想を理解するには時間がかかるが、一度根付くと強固な信念となる。群衆に推理能力は備わっていない。彼らの想像力は豊かで、むしろ心象(イマージュ)でしかものを考えられない。

 「民衆の想像力を動かすのは、事実そのものではなくて、その事実の現われ方なのである」。

 大事なのは道理ではなく、幻想である。指導者は論理的な話をする必要はなく、断言、反復をおこない、感染をうながせばよい。指導者は資産や身分などから威厳を発し、また説得ではなくひたすら指令を出す、命令を下すことで人格の点からも威厳を発する。威厳の重要な発生要因は成功と強制であるという。

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 著者は社会主義の勃興を群衆の野蛮のひとつと考えており、その原因を普通教育にあると考えている。普通教育によって知識はあるが仕事のない高等教育者が増え、彼らが社会にたいして不満を抱くことになったというのだ。

 低い身分のものには職能を現場で教えることこそが重要である、と著者は主張する。

 

群衆心理 (講談社学術文庫)

群衆心理 (講談社学術文庫)