うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『トリスチア』マンデリシュターム

 ロシア詩人の詩集と、文章を翻訳した本。

 森や水などの自然物とあわせて、古典古代の風景があらわれる。色鮮やかな景色がおもいうかぶようにできている。

 

 ――柔らかい草地を踏んで踊る影たちの輪舞へ
   わたしは旋律美しい名とともに紛れ込んだが、
   なにもかも消えてしまった、そして微かな響きだけが
   霧につつまれた記憶に残った。

 

 物理的なものだけでなく抽象的なものにも色がついている。

 一部の詩には社会にたいする否定がみられる。

 

 ――ペテルブルグにわれらは再び集うだろう、
   さながらわれらはこの町に太陽を埋葬したかのよう
   そして至福にして意味なき言葉を
   はじめて口にするだろう。
   ソヴィエトの夜の黒ビロードにつつまれて、
   全世界の空虚のビロードにつつまれて、
   あいかわらず至福なる女たちの愛しい眼は歌っている、
   あいかわらず不死の花々は咲いている。

 

 「至福にして意味なき言葉」とはどういうものかが気になった。

 動物や工芸品、自然物など、でてくることばは一般的である。これらが組み合わさると、非現実的な表現に変質する。

 

 ――蜜蜂たちは夜の透明な密林でかさこそ、
   その郷里はターユゲトスの鬱蒼とした森、
   その糧は時間とヒメムラサキと薄荷。

 

 幻想にまじってなにか言おうとしているが巧妙に隠されているような印象をうけた。

 

詩集 トリスチア―エッセイ 言葉と文化 悲しみの歌 (群像社ライブラリー)

詩集 トリスチア―エッセイ 言葉と文化 悲しみの歌 (群像社ライブラリー)