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The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『量子コンピュータとは何か』ジョージ・ジョンソン ――量子コンピュータに関する基礎知識

 ◆メモ

 量子コンピュータの仕組みを、専門外の人間にもわかるように解説した本。原理から、その応用、発展が期待できる分野までを紹介する。

 ハードウェアの実現には、本書の時点ではまだ時間がかかるとされている。しかし2010年代には、NSAIBM、中国などが初歩的なプロセッサの開発に成功しているようだ。

 

 はじめに

 量子コンピュータの原理は、原子をスイッチとして扱い数を扱うというものである。

 原子は、従来のスイッチと異なり、0と1だけでなくその0と1の両方を持った状態をとれる。これは量子の性質によるもので、従来のスイッチと比較にならない量のデータを扱うことができる。

 現在の暗号は、「大きな数の因数分解には長い時間がかかる」という限界を利用している。

 しかし、多くの計算を同時に処理できる量子コンピュータが、この暗号原理を打ち破るかもしれない。

 量子コンピュータは現在、国防総省や民間企業、英米の大学において研究されている。

 

 1

 コンピュータはスイッチのたくさん入った箱である。

 

問題なのは、装置の素材ではなくその「構造」だ。コンピュータの概念を本質まで凝縮すれば、それを必ずしも電子部品で作る必要はなくなる。

 

 2

 コンピュータの能力は、部品の組み合わせによる基本設計(アーキテクチャ)から生じる。ビット、すなわち二進数の0と1と、AND・OR・NOT回路を使えば、どんなものでも表現できる。

 

 3

 コンピュータの部品が極限まで小さくなればそれは原子となる。すると、量子力学の法則が現れるため、原子は1と0だけでなく、1と0を同時に持つφの状態もとることができる。

 このあいまいさを「量子的不確定性」という。

 量子論創始者マックス・プランクは、光が粒子として放出されることを発見した。窓を見ると風景とともに反射した自分の姿も見えるが、これは光子が跳ね返って自分の目に飛び込んだものである。光子がガラスを透過するのか反射するのかはランダムに自己決定される。

 我々は光子の振る舞いを平均で予測することはできるが、必ず不確かさが残る。光子はたくさんの可能な状態の重ね合わせとしての波である。

 

光子について言える性質は、原子の中をさまよったり導線の中を流れたりする電子や、原子核を構成する陽子や中性子など、どんな素粒子にも当てはまる。どの瞬間にも1個の粒子は、ある特定の位置に存在するわけではない。粒子は存在可能なすべての位置を重ね合わせた状態にある。

 

 量子スイッチは1と0を同時に表現できる。

 よって、「X個の原子があれば、2のX乗個の数をすべて同時に表現できる」。この原理を用いることで、ビット列を同時に記憶し、同時に処理できるはずである。

 

 4

 プロセッサは一度に1つ計算しかできないが、この原理をフォン・ノイマンボトルネックという。

 現代のコンピュータはすべて、数学者チューリングが考案したチューリング・マシン――入力列を取り込み、プログラムの指示に従ってそれを出力列へと変換する装置――を小型化・高速化したものである。

 因数分解の計算にかかる時間は指数関数的に増大する。

 2002年に、スーパーコンピュータが5か月かけて155桁の因数分解を行った。400桁を因数分解するにはスーパーコンピュータでも数十億年かかるといわれている。

 しかし、量子的チューリングマシンであれば、因数分解に際し用いる約数候補をすべて量子的重ね合わせを使って同時に符号化できるため、処理に時間がかからなくなる。

 

 5

 量子コンピュータアルゴリズムを理解するために、セル・オートマトン(CA)について説明される。ライフゲームに似たもので、一定の指示に従いマス目が埋められていきカオスまたは模様を形成する。この装置に正しい規則をあてはめればコンピュータとして使うことができる。

 量子オートマトンでは、導線は用いられず、キュビット(量子ビット)自身の相互作用によって論理演算が行われる。

 15の約数を求めた場合、3と5を同時に表現したキュビット列が得られる。これを測定すると重ね合わせ状態が壊れ、3か5かどちらかがランダムに得られる。よって何度も計算しなおせば、すべての約数が得られる。

 数学者のショアは量子コンピュータによる因数分解解決の方法として、因数分解をモジュラー算術に変換することを考えた。モジュラー算術とは時計のような文字盤上で算数を行うもので、数の波による周期を出し、その後計算を経て約数を得ることができる。

 ショアのアルゴリズムを使うことで、永遠の時間を要する因数分解が数分で解決するだろう。

 

 6

 量子コンピュータは、公開鍵暗号を破る潜在能力を持つ。

 暗号鍵を公開鍵(暗号化)と複合鍵に分ける方式は70年代に考案された。公開鍵から複合法を割り出されないようにするために用いられた技術が因数分解である(RSAアルゴリズム)。

 従来は解読に途方もない時間がかかったものが、ショアのアルゴリズム量子コンピュータで用いればすぐに解決できるようになった。

 その他の可能性……素粒子の振る舞いを計算する、完全な乱数の生成、情報検索など。

 コンピュータの基礎的な部分は開発に成功しているため、実現まではそう遠くないだろう。

 

 7

 古典的コンピュータではNANDゲートがあればチューリングマシンに匹敵するものがつくれる。では量子コンピュータにおけるこのような万能生成子は何か。

 量子力学の世界では、粒子間の相互作用は時間に関して対照的であるため、つまり電卓と異なり、計算を逆にたどることができる(可逆)。

 

量子系では情報は常に保存され、過去は決して消えない。

 

 量子コンピュータのハードウェア面を開発する速度はまだ緩慢だが、「いつかは突破口が開けるはずだ」。

 

 8

 引き続き、量子ビットの実現方法や、エラー訂正方法の試行錯誤について。

 

 9

 量子暗号は、測定すると壊れるという量子の性質を利用し、絶対に盗聴されない公開鍵などを作るアイデアである。

 量子暗号鍵は、第三者に盗聴された場合変化し、送信者と受信者とで異なる結果となるため、容易に検知できる。

 鍵となるキュビットを光回線や無線で送る実験がすでに成功している。

 

 10

 量子コンピュータの実現によって解決されるかもしれない難問について紹介する。

・タンパク質のアミノ酸折り畳み問題

・一筆書きで最短経路を見つけ出す問題

・上述に似たNP完全問題(最も効率のよい航空便計画、配線ルート)

・法律の矛盾をすべて検証する

 

 多世界解釈について……量子力学の世界ではよくつかわれる概念である。100個の量子ビットで最大限の計算をした場合、その数は、この宇宙に存在する素粒子の総数を超える。このとき、計算は別の宇宙で行われていると考えることができる。