香港は広東人、客家人、ホクロー、タンミンとよばれる水上生活者の住む漁村であり、群島には「ラドロンズ」とよばれる海賊がひそんでいた。
アヘン戦争によって香港はイギリスの直轄領となり、その後第二次アヘン戦争で対岸の新界も手に入れた。しかし上海に比べれば香港の歩みはゆるやかなもので、爆発的な発展は中華人民共和国の設立後におこった。大陸から逃げた資本家やビジネスの機会をうかがう西洋人が大挙して押し寄せ、アジアにおける金融・商業中心となった。
香港島と九龍、新界に地域は分かれる。新界の先にあるのが九龍半島であり、海峡を隔てて香港島がある。平地が少ないため人口密度が高い。香港は資本主義の町であり、奢侈の文化を特徴とする。競馬場は金持ちと権力者の社交場であり、富豪はみな賭けに熱中する。
また香港は不道徳と不公正に常に悩まされてきた。海賊・盗賊の犯罪には長い歴史があり、また麻薬犯罪がはびこっている。三合会および新義安(14k)は香港のみならず世界にも影響力をもつマフィアである。
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大英帝国が香港を建設する歴史と、現在の香港の様子を交互に述べる。
日本の占領後、香港は大きく変化した。日本の悪政のため中国人とイギリス人は相互に協力し、また日本降伏後、イギリス人の差別意識や隔離政策は大幅にやわらげられた。人民中国の出現によって香港はアメリカの重要拠点になり、また前述のような高度成長を遂げた。イギリスの歴代総督たちは、常に実業家たちと覇権を争ってきた。
香港人は政治にあまり関心をもたなかったが、彼らを変えるきっかけとなったのは香港返還だった。本書は返還の直前に出版されたためその後の顛末は書かれていない。
香港は建設時から代々、自由貿易、自由主義経済によって発展した都市である。宗主国はイギリスだが、人口の九割以上は中国人であり、富裕層も大半は中国人である。
彼らは現世的であり、利に聡く、また主婦でさえも企業家精神をもっている。実業家から労働者までみな風水を信じ、風水にしたがって工場やオフィス、ビルを建てる。祭りが好きで、お祭りのない月はない。
香港文化・習俗と大英帝国の盛衰を対比させながら、二つの要素が融合してできた香港の独自性、特殊性を論じた本である。
本書によれば、香港の学生、青年は活力と理想主義に満ちており、向学心があり、またハイキングなどのスポーツに親しんでいる。「世界のどこにでもいる若者」である。資本主義に特化した都市国家だが、拝金主義にまみれた、など否定的にまとめられてはいない。
風水、ビジネス、自然の残された新界での散歩、スポーツ、競馬、香港映画、すべて現世利益を求める心のあらわれである。