うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『エネルギー問題入門』リチャード・ムラー その2

 3 代替エネルギー

 太陽、水力、風力、原子力等、それぞれに強力な信奉者がついておりまともな議論は容易ではない。

 太陽エネルギーは急速に発展しているが、かぎとなるのは導入コストや維持費、効率である。運用に人件費がかかることから、途上国で発達する可能性を秘めており、温暖化対策にも有効である。ただし、根本的にエネルギーの生産量は低い。

 風力発電の問題……エネルギー生産量が少ない、タービンがうるさくて不恰好、風のある場所が都市部から離れており、送電網の敷設に土地の取得など費用がかかる。

 燃料電池天然ガス

 原子力発電に関する基本的な事項は次の通り。

・原子炉で使われる低濃縮ウランは、核兵器用の高濃縮ウランとは異なるため、絶対に爆発しない。

原発の建設コストは高いが、維持費は最も安い。

・中規模原発は、かつての大惨事を起こすような事故の危険性を解消した。

・燃料用ウラニウムの枯渇は今後9000年分ほどある。

・核廃棄物貯蔵は技術的には難しくないが、公共認識と政治的駆け引きが重要である。

原発は世界各国で開発が進んでいる。

 核廃棄物貯蔵は技術的には問題ないが、イメージが悪く自治体に拒否される。

 核融合技術は太陽の発熱と同じ原理を目指すものだが、実用化はまだ遠い。代表的な制御法として、トカマク炉、米国国立点火施設、ビーム核融合ミューオン核融合常温核融合があげられる。

 誤った研究、間違った結果に注意しなければならない。

 ――事実、自己疑念は科学的方法になくてはならないものです。科学者も、思い違いをする才能にかけてはほかのだれにもひけはとりません。

 ――エネルギー分野の夢のような話は、信頼性を失ったあとでも、根強く残るということです。本当の科学的発見(Ⅹ線や高温超伝導など)は、通常すみやかに立証されます。実際の話、科学界は発見に対しては非常にオープンですが、それを立証するためには高い基準が要求されます。

 バイオ燃料には温暖化抑制効果はなく、その機能は安全保障である。よって、競争相手はシェールガス、合成燃料、シェールオイルである。

 その他、地熱、潮汐、波力を利用した発電については、あまり期待ができない。

 クリーンコールは、CO2排出を削減した石炭発電である。ほかの代替エネルギーよりも実現性があるため、途上国に支援するならクリーンコールの利用か、天然ガスへの転換を促したほうがいいと著者は考える。

 

 4 エネルギーとは何か

 エネルギーとは仕事をする能力をいう。仕事とは、力×距離である。力とは質力×加速度である。

 エネルギーは質量に変換することができる。実際には、2つは同じものである。また、エネルギーは時間とかかわりがある。

 

 5 未来の指導者へのアドバイス

 将来のエネルギー問題において重要な技術は……

・エネルギー生産性

ハイブリッド車や他の燃費向上自動車

シェールガス

・合成燃料

シェールオイル

スマートグリッド

 急発展する可能性のある技術

太陽光発電

風力発電

原子力

・電池

バイオ燃料

燃料電池

フライホイール

 耳触りのよいスローガン、流行りもの、過度の楽観主義や懐疑主義によって判断をゆがめられてはいけない、と著者は警告する。

 

 ◆メモ

 原子力発電の効果とリスクについては学者ごとに見解が異なるため様々な考えを比較する必要がある。

 

エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

 

 

『エネルギー問題入門』リチャード・ムラー その1

 エネルギーに関する正確な知識を得ることにより、正しいエネルギー政策を導くことが重要である。

 エネルギーは軍事経済の両面において国家の安全保障の中核に位置する。

 また、エネルギーに関する定説や報道は、しばしば実態とかけはなれていることが多いため、適切な意思決定を下すためには、何よりも正確な情報を得なければならない。

 

 日本の原子力災害についても言及されている。

 

  ***

 1 エネルギー災害

 福島原発メルトダウンによる放射能被害は、計測の難しい微小なレベルに留まるだろう。コロラド州デンバーは元々放射線量の多い土地だが、住民は合衆国の平均よりも健康である。

 原発政策で必要なのは過剰な避難方針を修正し、より危険な災害である地震津波の対策を強化することである。

 事故報道において、事実と誇張を見分けるのは困難である。

 メキシコ湾原油流出事故も、当初報道された大惨事には至らなかった。

 地球温暖化について、著者は次の3点を主張する。温暖化の証拠の大部分は誇張か歪曲である。温暖化は事実であり、真剣に取り組まなければならない問題である。温暖化理論が正しい場合、現状のすべての政策は役に立たない。

 著者の測定の結果、人間の活動と地球温暖化の間には関連があると判明した。

 CO2排出量は、現在は中国が世界1位である。先進国が排ガス規制をしても、中国が規制をしない限り全体としては全く意味をなさない。電気自動車を先進国が導入しても、その電気をつくるために途上国が石炭発電を使用した場合、逆にコストは高くなることがある。

 温暖化論争は極論の言い争いになっており、合衆国民の問題そのものに対する関心が低下している。

  ***

 2 エネルギー景観

 エネルギーと豊かさは密接な関係にある。

 エネルギーは見えないものであり、石炭や石油、天然ガスはエネルギーを運搬する。エネルギーの価格は、その補給経路に決定的に左右される。

 乾電池の価格は、壁コンセントの1万倍である。なぜ自動車をガソリンから石炭に変えないかといえば、自動車用エネルギーインフラは石油を前提につくられてきたため、莫大なコストなしには石炭等に転換することができないからである。

 エネルギーを簡単に貯蔵することはできない。

 政策の上では、気候変動と安全保障の両面を考慮する必要がある。

 先進国で新たに天然ガス太陽電池を導入するコストは大きいが、途上国はまだ実現性がある。

 頁岩内に含まれるガス、つまりシェールガスが利用可能になったことは、アメリカのエネルギー安全保障に大きな影響を与えるだろう。

 アメリカで産出される天然ガスのために、若干の転換も行われているが、主な用途は輸出である。これを受けて、産油国は石油を低価格に抑え、顧客たちがインフラを開発するのを抑制しようとしている。

 海底のメタンハイドレートシェールガス以上の埋蔵量を持つが、現在のところ実際に採掘し実用化する動きは見られない。

 現在不足しているのは、液体輸送燃料、つまり石油である。しかし、将来、石炭等を液体化させる合成燃料や、最近採掘されたシェールオイルが、石油にとって代わるかもしれない。

 最も潜在能力のあるエネルギーは、エネルギー利用の効率化である。断熱材や、効率のいい家電製品、照明の利用、ハイブリッド車スマートメーターや、電力会社への投資システム等が、電力の容量を大幅に改善してくれる。

 一方、再生紙、公共交通機関等には、世間で信じられているほどの効果はない。

 

 

[つづく]

 

エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

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「サラの鍵」

 Elle s'appelait Sarah

 制作:2010年

 監督:ジル・パケ=ブランネール

 ヴィシー政権が国内のユダヤ人を一斉検挙し収容所に連行したヴェル・ディヴ事件を題材にした映画。

 主人公の夫の一族が住んでいたアパートを起点に、過去と現在とが相互に入れ替わり進んでいく。

 不幸な一生を送ったユダヤ人の孤児の行方を追うことで、関係者たちは真実を知る。この映画においては、真実は過酷だが知る価値があった。

 導入は、フランスのユダヤ人迫害事件を追う雑誌記者たちの様子から始まり、歴史紹介ドラマを連想させる。

 しかし、話が展開するにつれ、サラとジャーナリストの人生に焦点が移っていく。

サラの鍵 [DVD]

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サラの鍵 (字幕版)

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報告歌


 スキュラには慈悲はあるのか青々と輝く海で拷問という

 
 カザリドリが地下水脈を降りていくじょうろで呑んだマントルの露

 
 尋問部屋に入れば夏の墓堀はソテツの国で虫捕りをする

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