ロシアは現在軍需産業によって外貨を獲得している。イラク戦争で話題になったイラクの対戦車ミサイル「コルネット」はロシア製である。ロシアはイラク、北朝鮮、中国、インド、その他諸国に武器を輸出しているがこれは国家事業である。軍事輸出ランキングでは米、英、仏につづいて四位であるもののその影響力は無視できない。また、ロシアの軍事技術がたとえば日本において、災害時の人命救助に応用されるなど、プラス面もある。
ロシアはソ連崩壊後、「非軍事化」をモットーに政策形成を行ってきたが、プーチン政権になりそれは停滞しつつある。チェチェン紛争など国内テロに伴い通常兵器の見直しが行われた。
文民統制(シビリアン・コントロール)は、アメリカでもロシアでも実際に通用しているかは疑わしい。たいていの国防省長官は軍出身である。また、核兵器の管理にも費用がかかる。核物質を管理する企業が、ロシアン・マフィアに恐喝された例が実際にある。
ソ連は軍事大国だった。ソ連において軍需産業はソ連の経済そのものだった。スターリンはどこから軍事費を調達したのか。これが「黙示的課税」といわれるもので、流通業において中間マージンを大量にとったのだった。
ソ連の社会主義は結局、戦時経済体制の域を免れ得なかったという意見もある。なぜ「非軍事化」が奨励されるのか。軍需産業があれば失業者対策にはなるが、軍事というのは他への資源転化がなく、一般経済が停滞しやすいからである。
核兵器は、閉鎖都市と呼ばれる交通の遮断された秘密都市で生産されていた。「戦争経済」とは戦争が翌日にははじめられるよう整備された経済体制のことである。ソ連の「指令経済」は「戦争経済」を含んでいた。
ソ連崩壊にしたがって軍縮が行われ、軍の近代化が進められた。人員は大幅に削減された(ソ連は一時期、千万の軍人を抱えていた)、また徴兵制から志願兵制度への移行も進みつつある。だが、軍規の低下は著しい。給与が低いため、軍人は武器を闇市場に流して生計をたてる。貧しい軍人が毛布のかわりにパラシュートにくるまって寝ていたという逸話。
また古参兵によるいじめによって年に一六〇人ほどの新兵が死んでいる(拷問にかけられたり、脱走したりなど)。このいじめは「デドフシナ」という。このことから海外ではロシア軍を「制服を着たマフィア」と呼ぶこともある。国境警備軍もまた準軍事組織である。
ロシアは東ローマのテマ制(軍管区制度)を継承している。合併により現在は六軍管区からなる。地方政府と軍の結託により、軍閥がはびこる心配がある。ソ連時代は、職業が社会的地位は生活水準などを決定した。軍事大国だったので、軍人の地位は高かったが、それはロシアになってから変化した。
ややこしい軍産複合体およびソ連の経済体制については飛ばした。軍事を全面に出した国家というのは日本に住んでると新鮮である。英仏もそのような国家である。軍事企業の売り上げランキングに、ロシアの企業は八社ランクインしている。
スホイ社、ミグ社などの詳細、どちらも航空機の開発を手がけている。
ロシア国防輸出、スホイ、ウラル車両工場、国防システム、サリュート(戦闘機)、イルクーツク航空機企業合同、カザン・ヘリコプター工場、イジマシ(自動車やライフルの製造)。
「二〇一四年からの導入をめざした第五世代の戦闘機開発をめぐって、二〇〇一年四月、その開発者を決める入札で、航空機軍産複合体<スホーイ>が勝利者となった」。
――軍需企業が「非軍事化」によって受けた打撃は、資材機械補給面だけでなく、大幅な補助金カット、国防発注の大幅減など、きわめて甚大であったと考えられる。
軍需企業は大抵、企業城下町を持っている。ガンベッタによれば、マフィアの定義は「警備という安全保障サービス供給に特化した会社の一群」で、「問題解決に暴力を使用する組織」である。シチリアでも移行期のロシアでも、個人間の財の取引が急増したため、力を失う恐怖からマフィアが蔓延した。
911以降、テロ対策を名目とした軍事化の動きが活発になりつつある。ロシアはユーラシアにまたがる多民族国家であるから、その多様性を武器に平和外交が実現できるとよい。だが、プーチンのチェチェン対策(対イスラム教)を見ると先は長い。
――ソ連は「公共性」の概念を発展させることができず、「市民社会」もうまく育たなかった……
プーチンはハイテクを重視し、技術者の流出を防ごうとしている。宇宙技術はアメリカにも劣らぬものである。冷戦の「負の遺産」はいまだ残っている。ネットワーク論や権力論などを総動員しつつ経済を分析することが大切と著者は言っている。
ロシアもまた異質な国だ。アメリカ、ロシア、中国、これら現存する大国をよく知ることが大切だ。