うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『憲兵物語』森本賢吉 その2

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 「注意すべき中国人の慣習」……面子を重んじ、言動に注意し、敵意を持たれないようにすること。大家族主義を認識すること。中国人は収入に応じた生活をする。

 

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 北支軍の憲兵の悪評について、小磯国昭陸軍大将に尋ねられた著者は回答する。

 

 ――……憲兵令の改正、師団への割当制にともなう憲兵の粗製濫造や、無資格の補助憲兵の大量勤務で倫理感が衰え、上官の利権あさりと料亭通いを見習っている。不良邦人、大陸邦人とも密約して利権をあさっている。陸軍中央部(東条英機)が軍人勅諭に加えて戦陣訓を出したのも問題。軍紀・風紀が乱れていることを暗に承認したから、そういう対策をたてた。これも、問題。軍人勅諭を逸脱した者ばかりが軍隊におることを、認めたことになりはしませんか……。

 

 取り調べについて。

 ――取り調べでは、人格というものを認めてやらねばいかんのだよ。人間と人間の意志の疎通がなくては、本当の取り調べはできやせん。

 

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 中国の一般民は、国民党軍、共産党軍、日本軍から迫害された。

 日本軍において規律の低下した部隊は戦争犯罪を行い、試し切りや銃剣の練習に捕虜を使った。

 慰安婦については、軍の関与は間違いなくあったというが、警察が徴発した例については聞いたことがないという。

 

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 著者は地元住民や中国人警察との信頼関係を築き、共産党の地下活動について情報収集を行い、組織を解明していくが、上層部は聞き入れなかった。

 

 ――繰り返すが、いくら僕が事実を報告しても憲兵分隊長や軍の幹部は、職務不十分の「責任」を問われるのを恐れて、僕の報告を握り潰し、「管内の治安に変化なし」と丈夫に報告してきた連続の結果がこれなのよ。立身出世主義思潮の蔓延が、こんな不細工な結果につながったのよ。

 共産党勢力が存在すると報告してしまうと、それまでの調査が不正確だったとして指揮官に責任が及ぶ。よって、どれだけ治安が悪化しても、敵はいないことになっていた。

 

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 著者や、炭鉱経営者らは日本の敗北がほぼ確実だと予感していた。

 ポツダム宣言が出された当時、北支軍と本国との通信は途絶しており、著者が中国人の炭鉱経営者から入手する情報が、唯一の情報源となっていた。

 共産党軍は国民党や日本軍の兵を投降させ、軍隊の規模を拡大していった。しかし、共産党軍に参加した日本兵の多くは捨て駒にされた。

 

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 戦争全体については、大義がなく、また実態も、聖戦とは程遠いものであり、一般市民が一番の被害を受けたと語る。

 しかし、著者は憲兵として与えられた仕事には全力を注入した。

 自分の領分において努力するとともに、それが正しいことなのかを常に自問しなければならない。

 

憲兵物語―ある憲兵の見た昭和の戦争 (光人社NF文庫)

憲兵物語―ある憲兵の見た昭和の戦争 (光人社NF文庫)