◆所見
天皇家・宮家への国家予算の使われ方を細かく解説した本である。
用途のなかには非効率的なもの、疑問の湧くものも多くあり、今後、時代に適応するよう変えていく必要を実感させる。法律上、天皇家を運営しているのは国民なので、そうした議論は当然行われるべきである。
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情報公開制度に基づいて入手した資料を活用し、皇室経営のために税金がどのように使われているかを検証する。
国民の代表が政府を運営し、納税者が情報公開を利用して政府をチェックする。皇室、宮内庁といえども、税金が使われている以上、制度の例外ではあり得ない。情報公開法の制定によって、かつて「皇室の臣民」だった日本人が、より身近な「国民の皇室」をつくれるようになれる――。
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はじめに
天皇・皇室の予算である皇室費には、宮廷費、内廷費、皇族費の3つがある。
宮廷費が公費で、内廷費、皇族費が私金(ポケットマネー)である。宮廷費は行事開催から施設の補修まで幅広く、毎年約63億円である。
内廷費は天皇家6人の生活費(生活保護?)で、約3億円である。
皇族費は宮家(秋篠宮、常陸宮、高松宮、三笠宮、寛仁親王、桂宮、高円宮)……18人を養うもので年3億円弱である。
その他年約114億円の宮内庁費、年83億円の皇宮警察がある。
1 宮廷費
宮内庁病院の問題……皇族と宮内庁職員、皇宮警察職員用の病院だが、稼働率の低いMRIを導入して会計検査院に指摘されている。患者より職員の数が多く、年間4億円の赤字を出している。
宮内庁職員は、戦前は6千人規模だったが現在は千人程度に縮小され、全国の陵墓管理などもアウトソーシングしている。
宮廷費の大半は建設・施設に使われる。宮殿の地下にはパーティー用のワインセラーがある。
宮内庁は栃木県高根沢町に御料牧場を持っており、皇族や外交用の食糧を提供するが、6億円弱の赤字である。
かつては下総と北海道にも牧場を持っており、競走馬育成で稼いでいたが、不要論が出たため北海道は廃止、下総牧場も成田空港になった。
2 宮廷費その2
天皇・皇太子夫妻の地方巡幸にかかる費用……ホテル、食費、移動費等について。
地方訪問の際、大部分の費用は道府県が担っており、高知国体では県側が2億円近い出費を行ったため監査請求がなされた。
天皇家の静養場所は栃木那須、静岡須崎、神奈川葉山の3つの御用邸である。天皇夫妻は即位して間もないころ、御用邸でなく軽井沢を使ったため守旧派から批判を受けた。
これらの御用邸は元々、昭和天皇のお気に入りの場所だったこともあるが、廃止論や不要論も出ている。
3 内廷費
天皇家の内廷費=私金3億円には税金や保険料がかからないため、一般人がこの水準の生活費を得るには年収7億円程度である必要がある。
このすべてを自由に使えるわけではない。
天皇家の世話をする侍従職、東宮職は国家公務員だが、国で雇えない宗教活動関連の職員は天皇家の私的雇用人として働いている(神官、巫女、生物学研究所、養蚕所職員)。
さらに、生活費・衣類・職位・交際費・教育費・旅行費・祭祀費などが内廷費のなかで細分化されており、天皇家メンバーのための純粋な「お小遣い」は、1人年間500万円程度である。このため、内廷費を純粋なサラリーととらえることはできない。
現在、女性天皇は認められていないため、愛子内親王の小学校授業料は内廷費である。しかし男児であれば宮廷費から出される。
宮廷費と内廷費の境は曖昧である……歯ブラシは内廷費、ヘアブラシは身だしなみに係わるため宮廷費。語学は宮廷費だがビオラのレッスンは内廷費。
葬儀や大嘗祭といった行事も公私の峻別が難しい。
新憲法成立から現在への流れを見ると、「公」を広く、「私」を狭く判断する傾向が強まっている。
戦前は、皇室自律主義に基づき、国会の介入なく、御料林の経営などで財産を蓄えていた。
この時代から予算は皇族個人ごとに細分化されており、いまでもその方法が残っている。
天皇家が独自の収入源を持った結果、敗戦当時、三井、三菱、住友などの財閥資産は3~5億円だったが、皇室はそれを大幅にしのぐ37億円の資産を有していた。
内廷費をめぐっては、増額や情報公開をめぐって国会・宮内庁との間で争いがあり、指標に併せて機械的に値上げを行う「一割ルール」を採用した結果、いまはほぼ触れられない聖域になってしまった。
4 天皇家の財産
皇居やその他の領地は、国が皇室に提供する皇室用財産で、天皇家の個人資産ではない。
内廷費の余剰や、代々伝わる美術品は、かれらの私的財産である。
昭和天皇が死んだとき、かれの個人資産は20億円ほどだった。天皇家には私的な投資アドバイザーがおり、銀行関係者である。
天皇家の口座を持つ三菱UFJとみずほ銀行が、天皇家の私的経済顧問を務めている可能性が高い。
憲法88条は皇室の私的財産保持を禁じているため、個人資産が財閥経営者などと肩を並べ社会的影響力を行使するようになれば、違憲の疑いが濃厚となるだろう。
天皇夫妻と元・清子内親王は千代田区に、皇太子夫妻は港区に区民税を払っている。
天皇家の保有銘柄はオールドエコノミー株や公益企業が主である。
美術品……国有財産、御由緒物、御物(私物)に分類される。御由緒物には三種の神器などが含まれ、私的財産ではあるが売買は不可能で、非課税である。
5 献上と賜与
天皇家の私的財産の出入りは厳しく制限されており、譲受は年間600万円、賜与は年間1800万円にかぎられる。超過分は、外国交際(赤十字等への寄付)を除いて、国会の議決を経る必要がある。
譲受のほとんどは、天皇夫妻が訪問した県(知事)からの献上品である。賜与には奨励賞や神社への幣帛料がある。
恩賜のたばこは実際には宮廷費の消耗品費で作られている(JTの子会社)。
6 皇族費
皇族費は生活費の補助であるとして、それ以外の収入が想定されているが、実際には皇族はその収入の大部分を皇族費に依存している。
皇族の生活は一般人にずっと近いが、収入25パーセントを自力で確保するのも簡単ではないようだ。
収入を得ることや不動産所有は認められているが、贈与と授受は天皇家と同様制限されているため、たびたび問題が発生した。
競輪の高松宮杯などの名義貸しで謝礼を受けていたことが90年代に問題化し、高松宮家は1億4千万円あまりを返還した。
……あいまいな「包み金」の事態は他にもある可能性が大きい。バブル期、皇族を招く側にタニマチ的体質が広がり、謝礼額が大きくなっていったことも影響しているのだろう。
問題を突き詰めると、宮家経済を国がどこまで支えるのか、敗戦直後からの模索の答えが完全には決着していないことが指摘できよう。
宮家の位置づけのあいまいさは金銭面にとどまらない。宮家の役割とは何かという根源的な問題に行きつく。
宮家は宮内庁から放置されているのが現状であり、怪しい団体の広告塔になったり、ゴルフ場の名誉顧問になったりしてスキャンダルとなることが度々ある。
おわりに
美智子妃がスイス・バーゼルで国際児童図書評議会大会に参加したとき、その費用は公費である宮廷費ではなく、生活費である内廷費から出された。
「女性は家庭で」との意識が強い時代に作られた皇室経済法など現行法規は、皇后が自らの発意で新たな社会活動を行うことや、単独の海外旅行、個人的な体験のスピーチ……という事態を想定していない。
前例踏襲から脱却できない点について。
「皇族が飲み物をこぼしたとき、テーブルを拭く女性と、床を拭く女性は異なり、同じ女性が布巾と雑巾の両方を扱えない。こうした古い慣習は数多くあり、職員を減らす際の妨げになっている」