うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『刑法入門』山口厚 その2 ――書名のとおりの本

 3 犯罪はどんなときに成立するのか

 犯罪の成立要件は基本的には行為、結果、因果関係、意志だが、未遂や不注意など犯罪によって必要な要件は変わる。

 

行為客体(やられる対象)と保護法益(侵害された利益)は必ずしも同一ではない。公務執行妨害は、客体は公務員だが保護法益は「公務そのもの」である。

 法益侵害の危険を処罰するものを「危険犯」という……往来危険罪や放火罪。

行為と結果の間には因果関係が必要である。

 事実的因果関係を見つける手がかりの1つとして「行為無ければ結果なし」という考えがあるが、これでは解決できない問題もある(複数人が立て続けに毒薬を盛った例)。

 事実的因果関係があっても、そこに異常な事態が介在した場合は、法的因果関係は否定される(殴った相手が病院にいき、その病院がだれかに放火される等)。

・大阪南港事件について

 

・行為について

 行為(不作為を含む)がなければ犯罪はない。不作為にはネグレクト(保護責任者遺棄)、不退去罪、多衆不解散罪などがある。

 作為義務には契約、保護者の子育て、たき火の始末などがある。これが生じるのを保障人的地位というが定義は次のとおり。

 

 ……不作為が処罰されうる保障人的地位の要件は、1. 危険源の支配、2. 法益脆弱性の支配に認められることになるわけです。

 

 

 つまり、危険物を管理していたり車を運転していたり(1)また嬰児を養育している場合(2)がこれにあたる。

 不作為の処罰の例として放火、シャクティパット殺人(治療必要な信徒を放置)があげられる。

 

・意思について

 故意がなければ原則処罰はない。また故意も程度がある。

 未必の故意とは、「ある犯罪事実が存在するかもしれないと思いながら、それでもよい、それでもしかたないと考えている場合」をいう。

 事実の錯誤とは「犯人が認識・予見した事実と実際に生じた事実とが違っていても、その違いが同じ犯罪類型の範囲内の具体的な事実のあり方にすぎないのであれば、故意犯を認めることができる」ととらえられる。

 例えば、Aを撃とうとおもいその背後のBを射殺してしまった場合も故意の殺人罪が成立する。

 

 法を知らなくても故意は成立する。

 過失の条件は不注意である。過失は、生命や身体・公共の安全など、重大な利益侵害をおこした場合に限られ適用される。

 未遂はそれを罰する規定があるときにのみ処罰される。未遂は、犯罪者による犯行の着手が客観的に認められた場合にのみ認められる。

 

 共犯の種類……共同正犯、教唆、幇助。

 共謀共同正犯とは、謀議に参加した者も同様に共犯として罰することをいう。

 

  ***
 4 犯罪はどんなときに成立しないか

 犯罪の不成立について、責任阻却自由と違法性阻却自由を中心に説明する。

 

責任阻却事由とは、責任能力がない場合に適用される。心神喪失者や刑事未成年が該当する。

 

・違法性阻却事由

 犯罪としての違法性が阻却されるのは以下の場合である。

 正当な行為である場合……例えば医療、取材、超法規的措置など。

 正当な目的であっても、相当な手段でなければならないとされる。

 

 ※ 行為無価値論と結果無価値論について

 行為無価値論は、行為自体を反倫理的(倫理違反)とし、違法性の実質とするもの。

 結果無価値論は、行為の結果が「利益侵害」であるとし、違法性の実質とするもの。

 両者の根底には、刑法の意義に関する考えの違いがある。

 

・正当防衛と緊急避難:

 利益侵害の観点から違法性が阻却される場合は次のとおり……

 法益性の欠如(被害者の同意で紙を処分した、髪を切った等)。

 法益衡量とは、ある利益を侵害し、より大きな利益を守った場合をいう。その具体例が、緊急避難である。緊急避難は、侵害を他人に転嫁するものである。

 

 正当防衛の概要:

 攻撃者に対してのみ適用される。

 逃げられる場合でも、逃げなくてもいい(そこに居る自由を保障する)。

 より強い反撃も可能である。攻撃に対して、刃物を使い威嚇したとしても、防御的使用・最低限度の使用であれば正当防衛となる(武器対等の原則は修正されている)。

 正当防衛の対象となるのは攻撃者の「犯罪行為」である。よって、対物防衛の問題が生じる。飼い主が犬をけしかけた場合は、この犬を殺しても正当防衛となる。しかし野生動物の攻撃に反撃した場合は、器物損壊に問われる。

 他人を防衛することができる。

 防衛の意思解釈は緩やかであり、憤激や激昂が含まれていたとしても構わない。ただし、攻撃を予知していながら、積極的に反撃しようと待ち伏せした場合などは、過剰防衛となる。

 過剰防衛は、急迫性や反撃の程度などが問題となる。