うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『日本の外交は国民に何を隠しているのか』河辺一郎 ――北朝鮮マインドを持つ腰巾着

 

 著者は国連外交を主要テーマとする研究者である。アメリカ合衆国の軍事政策・イラク戦争に反対し、国際協調と国連を重んじる立場である。

 本書もその立場から書かれてはいるが、日本の外交、つまり外務省がどのような行動をしているかを知る点では、政治信条に関わらず有効である。

 

 2017年現在でも、核兵器禁止条約をめぐって日本の行動が議論を巻き起こしている。言動不一致、対米追従、内弁慶の日本外交が、実際にどのように行われているかを認識しなければならない。

 

 問題・欠陥の多い国連において、日本は自らの主体性のなさ、一貫性のなさを露呈している。そして国内に対してはこうした姿勢を隠すよう努めている。

 

 日本外交の特徴:

・米国保守派への自主的な追従

・国内に向けては国連中心主義をアピールし、国外では国連軽視・米国重視の行動をとる

・自国と米国の政策矛盾を正当化するために国連を利用し、または無視する

 

 

  ***

 1 分担金滞納

 日本は国連分担金の慢性的な滞納国である。

 これは意図的な滞納であり、外務官僚は、円ドルレートと会計年度の問題だと答弁している。

 同じ会計年度のイギリスはほとんど滞納していないため、日本の滞納は、会計システムや財政状況に由来するものではなく、為替レートの良い時期を追求するという「経済的利益」の都合による。

 

 ――つまり外務省は、国連の規則を守ることよりも、また、保守系政治家がよく使う言葉を借りれば国の威信を損なわないようにすることよりも、わずかな経済的利益の追求に重きを置いて説明したことになる。

 

 国連における発言力がない、という外務省や政府の説明は、自分たちの無能を証明しているに過ぎない。

 日本は、国連職員に政府関係者を多く送り込むことによって、発言力強化を目指している。

 

 ――かつて、ソ連出身などの幹部職員が政府の意のままに活動しているとして問題にされていたのと同様の事態だが、記者会見ではこれに対して大きな反対は起きていない。

 

 日本は米国同様、滞納を通して圧力をかける国だが、こうした事実は一般的に知られていない。

 

 

 2 イラク戦争と国連改革

 日本にとって国連中心主義は非常に大きな意味を持つ。

 日本国憲法には軍事行動・軍事同盟の法的根拠がない。そこで国連憲章集団的自衛権に関する規定を根拠とし、日米安保条約を締結した。

 ここでは国内法の制約を逃れるために国際法国連憲章)が適用された。しかし、人権問題などでは国内法の優越を理由に国際法の適用を拒否することが多い。

 

 イラク戦争だけでなく1998年の米英によるイラク爆撃の際も、政府は次のようなロジックを繰り返した。

 

  1.  国連憲章は戦争を禁じている。
  2.  武力行使が許されるのは、安保理が認定した侵略者に対して国連として対処する際か、個別的または集団的自衛権の行使のいずれかである。
  3.  米国は国連加盟国であるので、憲章が禁ずる戦争をするはずがない。
  4.  したがって米国が武力行使をする際は、安保理が認める場合か個別的または集団的自衛権の行使に当たるのは当然である。
  5.  ゆえに日本が米国を支援してもそれは憲法が禁ずる国権の発動たる戦争ではない。
  6.  米国がこの説明からはみ出すような主張を行うことがあっても、それは一般論に過ぎない。

 

 しかしイラク戦争がはじまるとこの理屈に矛盾が生じたため、政府・与党(自民・公明)からは国連改革と日本の常任入りを求める意見が相次いだ。すなわち、

 

 ――つまり、国連を重視する党の基本方針を変えないままで、米国が国連を無視して始めた戦争を支持するためには、自党にも政府にも問題があるということはできない。国連の現状に原因を求めることにしたのである。……国内政治上の都合が国際問題に至ったのである。

 

 ――対米協調をすべてに優先させる外交政策をごまかすために提示されたのが国連中心主義だった以上、両者が矛盾した際に国連が切り捨てられたのは当然すぎるほど当然だった。

 

 米国はもともと外国軍との共同作戦を歓迎せず、あくまで求めているのは後方支援である。

 

 イラク戦争の際、当初自衛隊が派遣されるとは日本は考えていなかった。しかし、戦況が悪化し国際社会からの孤立が懸案になると、国際的支持の象徴として他国軍の駐留が要求された。

 イラク特措法はあくまで国連決議に基づくという名目によって成立している。

 政府は北岡伸一ら政府に近い学者の意見を重用し、北岡を国連大使に任命した。

 

 

 3 常任理事国入り

 1998年の米英によるイラク爆撃に対し、安保理のなかで日本だけが行動を支持した。この際日本は、世論を納得させるために米国国連大使を招くなどの活動を行った。

 イラク戦争では、日本は開戦支持派として積極的に行動した。具体的には、理事国のなかのアンゴラカメルーン、チリ、ギニア、メキシコ、パキスタンに対し、支持するよう交渉した。このときにはODAの支払いが(説得または脅迫の)道具として使われた。

 ほとんどが、過去に米国の軍事政策によって被害を受けてきた国である。

 

 

 4 矛盾する論理と混乱する議論

 

 ――日本が積極的にイラク戦争にかかわったことを、報道などはほとんど認識していなかった。途上国などに対する圧力に関しても、開戦直前になってようやく「ODA武器に米を擁護、日本、中間派を狙い撃ち、対イラク新決議案」と報じ……た程度だった。

 

 政府や支持派、読売・産経は、北朝鮮問題とイラクを結び付けて論理を展開した。かれらによれば、イラク侵略を支持しなければ北朝鮮問題で保護を受けられなくなるというのである。

 読売は、イラクに反対すれば日米安保を米が裏切る可能性もある、と、自ら安保条約への不信を表明した。

 

 ――しかしこれでは、世話になっている人からの頼みなので、たとえそれが犯罪的なことであっても協力しなければならないと主張していることに等しい。

 

 米国内や他国がイラク侵略の正当性について議論した一方、日本は、自国の利益のみが問題となった。また日本の協力は無視され、「やむを得ない」開戦支持、他人ごとのような米国批判だけがなされた。

 自衛隊派遣が現実的問題になると、政府は石油利権の保持を派遣理由に掲げた。

 ブッシュ政権は、イラク戦争自衛戦争であり、石油利権のためでないことを何度も強調してきた。

 

 ――2006年1月末現在で、米兵の死者だけですでに2200人を超え、英兵の死者も100人を超えているが、もしかれらがこのような理由(石油資本の利益)で死んだのだとすれば、当然のことに政府が激しい非難にさらされる。……米国人とは異なり、日本人は世話になる国に頼まれたから、そして自らが使う石油を確保し続けなければならないから戦争に関わったことになる。日本の政治家と世論にとって重要なのは、問題の正当性でも「戦争か平和か」でもなく、自分たちの利益だったのである。

 

 ――日本の右派がよく使う言葉を借りれば、きわめて理不尽で利己的な一国平和主義だった。

 

 「大量破壊兵器」問題などでイラク戦争の根拠が崩れても、批判が日本政府に向かうことはなく、米国への責任転嫁が支持派・反対派双方の主流となった。

 こうした状況で持ち上がった「常任入り」が目指すのは、平和国家としての発言力強化ではなく米国と自国の政策に国連を一致させるための発言力強化だった。

 左派やハト派の報道はこれを勘違いしたのか、常任入り説を支持する者が多かった。一部の論者は、政府の意図を知りながら意図的に隠蔽し、左派をだますために常任入り支持の論説を掲載した。

 

 

 5 暴走する日本

 経済制裁は軍事力行使と関連を持ち、どちらも国連決議に基づくことが不可欠であり、地域的取り決めや地域的機関による実施は国連憲章で禁止されている。

 当時、アパルトヘイト政策を進め、また周辺国に傭兵や特殊部隊を派遣し不安定化を進めていた南アフリカに対し、国連は経済制裁決議を行った。

 日本はこれに反対し、対南アフリカ貿易世界一となった。

 

 拉致問題が顕在化すると、日本はブッシュ政権と連動を始めた。

 

 ――日本が強制行動をとるか否かの条件から、憲法も、国連も、西側との協調もなくなり、完全に米国次第になった。

 

 さらに日本は、米国追従も超越し、2004年に独自の経済制裁を発動させた。

 歴史的に日本は強制失踪問題への取り組みに冷淡だったが、北朝鮮問題に対しては態度を豹変させた。

 

 ――自国民が被害者になった際にはうってかわって居丈高になり、さらには強制行動への制約も容易に飛び越えたのである。

 

 イラクにおける日本人殺害をめぐるコントラスト

民間軍事会社警備員が死んだとき……政府・読売産経は、かれを「傭兵」として称えた。傭兵は国際法違反であり、だから米国も「民間警備会社」等のごまかしに四苦八苦していたにも関わらず。

・NGO人質事件のとき……日本政府・世論・報道が3人をあまりに強く非難したため、フランス政府やパウエル国務長官は人質を擁護し、日本をたしなめた。

 

 ――産経は、市民が政府を批判して自発的に立ち上がったことを許せなかったのである。

 

 ――「もし誰もが危険を冒そうとしないならば、決して進歩はない」(パウエル)

 

 ――イラク戦争に反対してきた新聞(『ル・モンド』)が米国国務長官の発言を紹介することで文章を閉じたのは、戦争を始めた米国ですら評価する問題を日本では国をあげて非難していることへの皮肉だった。

 

 ――米国がイラク戦争を行った理由のひとつは、フセイン政権に抑圧されているイラクの人びとを助けることだった。そうである以上、人びとが自らの危険を顧みずにイラクで直接に救援活動に関わろうと立ち上がる場合には、米国政府はかれらを評価せざるを得ない。……政府の方針と異なることを理由に、市民の自発的な活動を批判することは、米国政府がイラク戦争を始めた理由のひとつを自ら否定することにもつながり、なによりも米国が最大の価値をおく民主主義に最も反することに他ならない。

 

 小さな政府、コミュニティによる自発的な政治への関わりを重視する米国右派と、「お上に逆らうな」が信条の日本の右派との間には大きな隔たりがある。

 

 右派メディアの評価基準は、政府に従っているか否かだけだった。

 

 ――あえて言えば、この日本右派の権威的、利己的かつ排他的な姿勢に最も近いのは北朝鮮かもしれない。

 

 政府はまたNGOが主体となることを極度に嫌っている。

 

 ――……この問題は、お上に逆らうなという意識が今なお広く世論にしみついていることを示したのである。それは、日本に民主政が根付いていないことを物語っていた。

 

 ブッシュのプードルと揶揄されたブレア首相の英国もICC(国際司法裁判所)の設置などでは独自の主張を行っている。日本は、ICCの存在が常任理事国の権限を制限する、という米国の主張に賛同しICCには消極的だった。

 

 

 6 分担率

 日本の分担率に関する論評。日本は分担率が不当であると意見を述べているが、著者はこの見方は誤っており本来ならさらに負担しなければならないはずであると考える。

 

 

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 「やむを得ない」、「他の国も同じことをしていた」は、主体性の欠如と責任放棄を認める言い訳である。