民主主義社会であるアメリカにも階級が存在するが、そのことについて大っぴらに話すのはタブーとされているという。
身分制社会とは異なり、民主主義の国では皆が平等である。いいかえれば、だれも大した価値を持たないということでもある。
本書では、身だしなみ、自宅や車などの所有物、生活スタイル、趣味、学問や教養、言葉遣いや訛りなどから明らかになるアメリカ国民の階級を分析する。
特に中流階級は、尊敬されたい、人から恵まれた階級にいるとみられたいという欲求が強く、生活様式で自分たちの差別化を図ろうとする。かれらは見栄や世間体を重視し、常に不安にさいなまれている。
こうした欲求を利用した商売もまた盛んである。
上流階級と労働者階級は、外面をそれほど気にしないという点で類似している。また、最上流階級(大富豪の一族)と最底辺階級(施設や救貧院で暮らす人々)は、一般社会からは見えないという点で共通する。
アメリカ人が本当にこの本に書かれているようなさもしい中流階級で成り立っているかは確かめようがないのでなんともいえない。
また、80年代初めに書かれているためいくつかの具体例は、いまでは陳腐化している。
人からどう見られているかを気にするという傾向は人類共通(わたしたちの周りを見渡してもすぐにわかる)である。
著者によれば、こうした見栄を捨てて、真に創造的な・自主的な生活を送る人間が、最も自由を手にしているのだという。
また、当時のアメリカ社会の格差拡大により、労働者階級に転落する中流階級が増えつつあることも指摘している。
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アメリカでは、階級は必ずしも財産に連動しない。職業、相続財産、出身地と居住地、所有物、服装、言葉遣い、学歴、教養など様々な要素が判断材料となる。
ポイントは、高給取りや高学歴、豪勢な服装が必ずしも上の階級を意味しないということである。
19世紀初めにアメリカを訪問したフランス人であるトクヴィルは次のように書いた。
――「民主主義国家ほど市民が取るに足らない存在である国はない」。
――要するに、誰もがひとかどの人物という国では、裏を返せば誰一人、重要人物ではない。
法的には平等な社会において、それ以外のあらゆる分野に階級的な要素が取り入れられている。
・楽器は低い音ほど階級が低い。
・建設業では高いところで作業する職種が最も地位が高い。
・樫の机は最低で、チーク材は最高
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アメリカにおける階級の分類
最上流階級
上流階級
上層中流階級
上層労働者階級
中層労働者階級
下層労働者階級
貧困階級
最下層階級
・上流階級の家は通りから見えない。かれらは料理をほめない。料理を作らず、たばこを吸わない。仕事は暇つぶし。
・上層中流は、自分で稼いで成功した人物である。
・土地に品格があり、イギリスを偲ばせる土地はよく、旧スペイン領・メキシコ領は格が低い。サン・ベルトなど信仰の盛んな土地は下層階級向けである。
・中流階級は賃金労働者であり、会社の奴隷である。大げさで上品ぶった言葉を使いたがる。
・上層労働者階級は職人等で、私服と仕事の服装にギャップがある。
・中層以下の労働者階級は、監視されながら仕事をする。
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外見:
・一般的に上流階級は背が高くすらりとしている。下層はずんぐりしていて肥満が多い。
・上流階級は重ね着をする。中流は新品が好き。上に行けばいくほど、自然の繊維や材質を好む。
・下層は文字入りの服を好む。
・レーガンは中流階級臭さを強調した。ケネディはニクソンのスピーチを見て「こいつは上流じゃない」とコメントした。
・労働者階級はスーツや服をオーダーしないために襟まわりが不自然になる。
・上流の時計には秒針がなく機能性に欠ける。下層にいけばいくほど、最先端科学や宇宙・テクノロジーを強調したものを身に着ける。
・上流階級は古いものを好む。イギリス由来のものは何でもありがたがる。ヒューストンの新興住宅地はイギリス風の番地があふれている。
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家、車、テレビ:
・家の作りや庭、車庫の有無、道が砂利かコンクリートかどうかが階級を物語る。原則として、古く、手間がかかるほうが上流である。
・上流は平凡な車を好む。かれらにとってメルセデスは「ビバリー・ヒルズの歯医者やアフリカの閣僚が」乗り回すものである。中流は高級外車を好む。
・学歴が階級に代わるステータスシンボルとして機能しているため、アメリカ人は出身大学のプレートを車の後部につけたがる。
・内装、本棚の有無、雑誌、飾り棚、照明器具など細かい部分に品格があり階級を定める。
・上流階級はテレビをまったく重視しない。
・最新式のきれいな台所は中流階級のものである。上流は、かれら自身で調理をしないため、使用人の使う古びた台所が残されている。
・手間がかかり、役に立たない犬種ほど上流である。
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消費、レクリエーション、コレクション:
・上流は辛口のワインやウォトカ、下級はビールや甘口のカクテルなど。
・上流はゆっくり食事し、下級は早い。また下級は外食を好む。
・アイスクリームはヴァニラが最上で、チョコや果物味がつくほど格が下がる。
・「週末」の概念は仕事をしなければならない中流以下のものである。上流は別荘や珍しい海外で休暇を過ごす。労働者は新しい場所に行くのを嫌う。
・ボールは大きいほど下層のスポーツ:
ゴルフ、テニス、スカッシュから、サッカー、バスケット、野球、ボーリングへ。
・中流は、通信販売でイギリス風のもの、よくわからないコレクションを購入し、「エレガンス」などの宣伝文句に踊らされる。
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精神生活:
――アメリカには世襲の身分や爵位がなく、君主から授けられる伝統もなく、上流階級にも地位を表す身分の階段ともいうべきものがない。だから、アメリカ人が俗物性を発揮しようとすると、他の国の人びと以上に、出身大学のランクに頼ることになる。
・大卒の肩書が求められるために、アメリカ版駅弁大学、名前を書けば入れる大学が氾濫した。
――……「尊敬されるためにカレッジに行かねばならない」と確信して、とにかくカレッジに入学してはみても、4年後に卒業すると、出身校に力がないために、まったく尊敬されていないことを悟るのである。
・「カレッジ」よりも「ユニバーシティ」という名前が好まれる。
・上流階級は、娘(女性)をいい加減な大学に入れている。かれらに知性や勉強は必要ないからである。
・名門大学は上層中流や中流にとって必須の資格だが、あわせて名門私立に通っていることも重要である。
――学生であれ教授であれ、カレッジやユニバーシティとは、昔でいえばサロンや宮廷の現代版なのだと気づかぬ人は、もっと厳しく現実を見るべきだろう。
・上層は無害なミステリーを好む。中流は権威ある本、難解な本、ヘミングウェイ、ディラン・トマスを好む。下層は似非科学や星占いを好む。ただし中流は、イデオロギー的に議論を呼びそうなものは避ける。
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言葉:
話し言葉で育ちや階級が明らかになる。
・上流はあまり飾らない言葉を使う。中流は、音節の多い難解な語を多用したがる。下層は文法ミスが多い。
・HouseをHomeと呼ぶのは不動産会社のPRが元だという。
・中流階級は、かれらの虚栄心や不安を満たすために、広告業界から強く影響を受ける。
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アメリカ全体で、労働者階級化が進んでいるという。
――……以前は階級の上のほうに空きがあったのだが、ブランバーグによれば、いまは「不幸にも底辺のほうに、たっぷり空席が……あるようだ」。
・書籍・雑誌の低俗化
・ビールは甘くなった
・セルフサービス、行列の日常化
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階級意識に左右されない人間像……「階級X」を提示する。
かれらは雇われ人ではなく、階級意識を基準に物事を判断することがなく、外国語をファッションではなく実際に使う。
かれら階級Xのようになって初めて、階級に振り回されない真の自由を手にすることができるという。